第116話 チョコレートの代わりに……
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
家に帰ると恋人兼専属メイドが出迎えてくれる。
裸リボンで。
どうやって巻いたのか、裸の上から大きなリボンを身体中にクルクル巻いて、ドレスの様に仕立ててある。
所々隙間があり、彼女の素肌がチラッと見える。
胸下、へそ、太もも……。
裸とはまた違ったベクトルのエロさを醸し出す彼女を見て言葉が出なかった。
思春期の俺には刺激が強すぎる。
肩の辺りで可愛らしいく蝶々結びしてあるのがどこかポップに……。
見えない。うん。普通にエロい。そういう店に来たみたいな気分になる。
「ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
あざとい言い方に、仕草をプラスさせて迫ってくる。
「わ・た・し?」
「有希かな」
目の前の可愛い彼女が、裸リボンで迫って来たのなら答えは決まっている。
選択肢があってないような問いだ。
秒で答えてやる。
「え!?」
こちらの即答に驚愕の声が返ってくる。
予想していなかった答えだったか、急に、あわあわと裸リボンで慌て出す。
「そ、そそ、それは、きょ、きょ、今日、私達は、繋がるってこと、です?」
「ぶっ!」
エロい格好の彼女から初夜的な発言が放たれて思いっきり吹き出してしまった。
「す、すす、すみませんっ! きょ、今日は、だ、ダメな日、なんです。か、か、勘違いしないでくださいねっ! 晃くんとならいつでも繋がりたい気持ちなんだからねっ!」
「ツンデレ風味のデレオンリーは嬉しいけど困惑が強いんよっ! てか有希、キョドってとんでもない発言してるぞ!」
「もう既にとんでもない格好してるから、今更とんでもない発言しても良いのです」
あ、そこは意外と冷静なんだね。
♢
「なるほど」
「うう……。す、すみません」
彼女の話はこうだ。
バレンタインデーに悶絶させると言ったのは良いが、生徒会とメイド喫茶で忙しく、チョコレートを作る時間がなかった。
メイド喫茶の店長さんへ相談した結果、「裸リボンで迫れば悶絶間違いなし」との助言をいただき実行に移った。
店長、グッジョブ。
だが、実際は悶絶ではなく、即答されてしまい、予想外の展開に混乱した結果、爆弾発言をしてしまった。
「あのさ……」
いつものコタツテーブルで話しを聞いており、項垂れている有希へ質問を投げた。
「着替えないの?」
聞くと、ピクッと身体を震わせて、小さく答える。
「せっかく着たので……」
その格好で隣にいられると、雄としての機能が最高に働くんだよな……。
「それにこれは、最愛のご主人様へバレンタインデーにチョコを作れなかった自分へのご褒美……」
「本音出てんぞ。やってみたかったんだね」
「戒め」
「訂正するにはもう遅いぞ」
「これで晃くんが喜んでくれるのなら、私はこの格好であなたをご奉仕します」
「自分が着ていたいだけだよね。最初は恥ずかしかったけど、自分の裸リボン姿見て、『これ、可愛いですね』とか思ったんだろ」
「エスパー!?」
彼女の反応から、俺の言葉が事実と相違ないことを教えてくれる。
「有希のことならなんでもお見通しだぜ」
グッっと親指を突き立てると、彼女は顔を軽く染め上げる。
「晃きゅん」
「有希ちゃん」
「「きゅん……♡」」
有希が俺に寄り添って俺達の仲はより深まった。
「じゃないんよ!」
冷静になり、大きな声で彼女へツッコミを入れる。
「色々問題があるんよ! 思春期には刺激が強すぎるんよ! もう訳わからんのよ!」
「似合ってますか!?」
「最高に可愛いよ」
「えへへぇ」
裸ドレスでの無邪気な笑みは、大人っぽさと幼さの混じった人類の最高傑作。
そんな彼女の頭を撫でると、好感度MAXの俺にしか見せない表情で大人しく撫でられてくれる。
「でも、せっかくのバレンタインデーでしたので、学校で手作りのチョコを渡したかったです」
「チョコよりも強烈だけど」
「そうですけど」
自覚はあって良かった。
「やっぱり、その、憧れじゃないですか。手紙を下駄箱に入れて呼び出したりとか。教室の隅でこっそり話しかけたり。放課後の正門で待って渡すとか。そういう甘酸っぱい青春みたいなこと」
とんでもなくアダルティな格好で青春を語ってくる。
「それっての男の妄想なんじゃないの?」
「意外と女子にもそういうのに憧れを抱く人もいます。最近はめっきり減りましたけどね。少なからず私はその分類です」
えっへん、と胸を張るとリボンが弾けそうになるくらい大きく成長した胸。
すごいな。これで同級生とか、興奮しかしないだろ。
「晃くん……」
こちらの視線に気がついたのか、有希がジト目で俺を見てくる。
「視線、エッチですよ」
「す、すみません」
普通に怒られてしまうが、これって俺が悪いの? そんな格好で隣に座られたら視線はエッチな部分にいくだろ。
「エッチなご主人様には罰が必要ですね」
「いきなりSっ気出してくるやん」
有希はリボンの隙間に挟んでいたスマホを取り出した。
「ど、どこに入れてんだよ!」
「細かいことは気にしないでください」
「するわっ!」
こちらの言葉を無視して有希はスマホを操作して、そのまま手を突き出した。
自撮りをするようポーズ。
「は? え? 写真撮るの?」
「ご主人様の罰です」
「ご褒美の間違いでは?」
「この格好、自分でするの難しいんですよ? あまり着る機会はないので、写真に残しておきましょう」
「気に入ってるんだね。それ」
「メイド服が1番ですけどね」
「間違いないな」
なんだかんだ、有希が似合うのはメイド服。異論は認める。
「いきますよ」
パシャっと、裸リボンのメイドと写真を撮った。その後、彼女から俺のスマホへ写真が送られてくる。
うん。なんかエロいけど、良い写真だ。
なんだかかんだ良い写真をフォルダに保存して数時間後。
冷静になった有希が急に恥ずかしくなったのか、悶絶し始め、最後まで慌ただしいバレンタインとなった。
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