第103話 ゲレンデでも脅威のシンクロ率

 修学旅行2日目はゲレンデにて終日ウィンタースポーツ体験。


 昨日のインストラクターの教えを胸に、今日は自由に滑ってみような日。


 それぞれ、好きなところへ散り散りになり、スキーやらスノボやらを自由に体験していく。


 俺と有希だけ、昨日はインストラクターの先生に教わっていない。


 しかしながら、インストラクターを当日予約なんてできないため、特別に猫芝先生が俺と有希を指導してくれることになった。


 俺達はスノーボードがしたかったので、スノボウェアに着替えて指導を受けている真っ最中。


 ウチの担任は、ほんわかしているけど、意外と万能な人だな。


 ズザアアア!


 初心者コースにて、猫芝先生のレクチャーを受け、先生が実際に滑る姿を見してくれる。


「──こんな感じだよー!」


 少し降りた先で止まって、こちらに向かって大きく手を振ってくれる。


 2人して、OKの意味を込めて手を振り返して有希を見た。


「晃くんのスノボウェア姿、新鮮ですよね」


 先に言われてしまった。こっちから先に言いたかったので、少し悔しい気持ちになる。


「有希こそ。そういう、ダボっとした服を着ないから凄く新鮮に見える」


 スキーウェアとスノボウェアは似ているようで全然違う。


 スキーウェアはスピードを出して滑った時に邪魔にならないように、タイトで丈の長さは短めのものが多い。


 スノボウェアは、ウェアの中にインナーやプロテクターを装着しているため、ゆとりのある大きめのサイズがほとんど。


 なので、俺と有希はお互い、ダボっとしたシルエットになっている。


 お互いの新鮮なファッションに有希は、「ふふ」と相変わらず可愛らしく微笑んだ。


「私達、B系ファッションはあまりしないですからね」

「ヒップホップ系カップルみたいだな」

「へい、よー!」

「よー、ちぇけ!」


 お互い、無知なヒップホップを披露し合っていると、下の方で先生が手を口に当てて、大きな声で言ってくる。


「2人ともー! 滑ってみてー!」


 今はスノーボード体験であり、ヒップホップをしている場合ではない。


 俺達はノリを、ヒップホップからスノーボードに切り替える。


「どうします?」


 その質問は、どちらから先に滑るのかという質問だろう。


「んじゃ、俺から行こうかな」


 選択権をもらったので、先行をいただいた。


「かっこいいところ見せてくださいね」

「そんなこと言われたら……」


 見せるしかないじゃないか。


 ゲレンデと平行に向いていた体を垂直にさせ、ブレーキを解いて滑り出していく。


 ジグザグに雪の上を滑って行く後ろの方から


「晃くーん! かっこいいですー!」


 なんて恋人の声が聞こえてきて、良い気分になってしまう。


 更にかっこいいところを見せたいという欲望が渦巻いて、ジャンプして1回転して見せる。


「は……?」


 丁度、先生のところだったので、先生のあっけらかんに取られた声が聞こえた。


「あっ! ちょ! 守神くん!?」


 先生が焦った声を出していたが、こちらは気分上々。もう止めることができるのはいない。


 ジグザグに、気分はスノーボーダーの様に初心者コースを駆け下りる。


 リフト付近まで降りると、ザザァっとカッコ付けて、ボードを横にしてブレーキをかけて止まる。


 パチンとビンディング、足をボードと固定してくれている物から片足を解放して振り返る。


 すると、有希が俺と同じように降りてきているのがわかったので、すかさずポケットからスマホを取り出して動画を撮影する。


「有希ー! かっこいいぞー!」


 動画を取りながら手を振ると、こちらの行動に気が付いた有希が、その場でジャンプして1回転すると、大きくスピードを上げて、弧を描いて俺の前で止まった。


「さいっこぉ……」


 ゴーグルを外して、満足そうな声を上げた。


「有希。上手すぎだろ」


 素直な感想を述べると、スマホに向かってVサインを、ビシッと見せつけた。


「というかですね。晃くんの方が上手なんですよ。見てくださいこれ」


 言いながらスマホを見せられる。


 お互い息が当たりそうなほど寄り合って、小さなスマホの画面を見るとする。


 どうやら有希も動画を撮ってくれていたみたいだな。


 後ろ姿で、ついさっきの俺の滑りが映し出されている。


「かっこ良すぎです」


 嬉しいことを言われてしまい、こちらもVサインを返しておく。


「ちょ! ちょちょちょ! 2人とも!!」


 俺達が互いの動画を見せあっていると、後から猫芝先生がやってくる。


「なんなの!? キミたち何者なの!?」

「「あなたのクラスの生徒です」」

「ここでもシンクロするんだね……」


 肩を落とし、でも、めげずに思っていることを言って来る。


「初心者じゃないの?」

「「初心者です」」

「動きが初心者じゃないよ! もう上級者だったよ!」


 お互い顔を見合わせてから先に俺から答えさせてもらう。


「元野球部だからじゃないですかね」

「現役の生徒会長です」

「ないないない! 関係ないから! 野球と生徒会長はスノボに関係ないから!」

「「そう言われましても……」」

「キミたちもう上級者コース行って!」

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