第65話 白川琥珀は嘘をついている

「うーわ。本当に作ってもらってるよ」


 学校をサボった翌日は、特に変わりない日常であった。


 俺と有希が同時に学校にいないということが多少なりとも噂になっているかと思ったが、そんなことは一切なく、普段通りの学生生活の時間が流れている。


 最近、昼休みに合致することが多くなった白川琥珀とも、一緒に食べるのが段々と当たり前になってきている。


 そんな彼女は、学食の席で弁当を広げる俺を見て唖然とした声を出していた。


「約束してくれたからな」


 本来は、食事の折半ということで作ってくれているお弁当だ。


 しかし、正吾と白川の前では、この前の昼休みに流れで作ってもらうことになった。という設定になっている。


 ま、なんにせよ、堂々と弁当を広げられると言ったところだ。


「しかも超美味しそうだね」

「ああ。本当だな」


 こちらの反応を見て、白川が怪しむような顔で俺を覗き見る。


「なぁに? なんかリアクション薄くない?」

「そうかな?」

「そうだよ。現役美少女JKが作ってくれたお弁当だったら、もっと感動とかあると思うけどなぁ。前々から作ってもらってるかのリアクションだよ?」


 こいつはなんでこうも鋭いのか。なのに、なぜ成績は悪いのか。


 地頭は良いが、勉強はできないタイプか。


「なぁなぁ晃」


 じーっと正吾が弁当を眺めくる。


 食いしん坊の正吾も今更ながら弁当の中身でも誉めてくるのだろうと思っていると。


「その弁当箱。前から使ってるやつじゃね?」

「!?」


 しまっ……!


 確かに正吾の言うとおり、これは前々から使用しているお弁当箱。白川の前で広げるならまだしも、正吾の前で広げるならば違う弁当箱にしなければいけなかった。


 くっ……。設定は完璧だったが爪が甘かったか。


 しかし、バカの正吾も見抜いてくるとは。


 こいつもバカだが、ラブコメ的な要素では鋭くなるのか?


 なんだよこの2人。そんだけ鋭かったら、成績良くあれよ。


  ニヤァ。


「あれあれぇ?」


 白川琥珀がカットインで入ってくる。


「お弁当を作ってもらうのはこれが初めてだよねぇ? なのに、どうして前から同じ弁当箱使っているんだろうねぇ」


 ニタニタと、嫌らしさの抜群の顔と声で攻めてくる。なのになぜだろう。嫌悪感はない。可愛いって本当に得だよな。


「初めてだよ」


 こういう時に、ダラダラと言い訳を並べても逆効果。今は短い言葉で答え、逆転の日差しを待つとしよう。


「だったらぁ。なんで、前から使ってるお弁当箱なのぉ?」

「まぁイロンオリジナル弁当箱なんてどこにでもあるけどなぁ」


 超大手のショッピングモール、イロンモールオリジナルブランドのお弁当箱であることを正吾が指摘してくる。これは完璧に流れがこっちにやってくる。


「ああ。だから使いやすいわ。備え付けの箸もこれに慣れてるからぁ」


 最後若干声が裏返ってしまう。


「ふぅん。それも、そうだね。わたしもイロンで見たことあるし」


 ふぃ。なんとか誤魔化せたな。


 正吾の言葉がなかったら終わっていた。そもそも、こいつが撒いた種だったが、ちゃんと自分で刈ってくれたみたいだ。


「でも、真実はどうかわからないから、後で大平さんに聞くとしよう」


 疑り深いやっちゃ。後でLOINを入れておかねば。


「そういえば、大平さんは?」


 白川が、ふと質問をしてくるのを正吾が答えた。


「さぁなぁ。俺らは大平と昼飯を食うなんてことは滅多にないし、わからねぇな。晃は知ってる?」


 正吾に聞かれて、そういえば昼休みに、イソイソと教室を出て行った見覚えがある。


 だが、彼女の行き先まではわからなかった。


「俺も」

「そっか……」


 白川は沈んだ声を出していた。


「ちょっとガチの相談したかったんだけど……」


 恋愛脳の野次馬魂白川琥珀から、一変、悩める乙女の雰囲気を醸し出す。


「相談って?」


 それが少し気になり尋ねると、俺と正吾を見比べる。


「そういえば、守神くんと近衛くんって、岸原くんのお友達なんだよね?」


 急に芳樹の名前が出てきて、なにごとかと驚く。


「おうよ。芳樹は俺達のマブだぜ」


 ビシッと親指を突き立てて恥ずかしげもなく言い放つ正吾。こいつには羞恥心はないみたいだ。まぁそこが良いところとも言えるのかも知れない。


「なんとか連絡先交換できないかな?」

「おいおい……」


 こいつは確か文化祭で芳樹にサインをもらっていたファンだ。


 そんな奴に易々と連絡先を教えるのはどうかと思うが……。


 なんだか異常に真剣な顔は、ただファンが選手の連絡先を知りたいってわけではなさそうだ。


「って、そんなの無理だよね。ごめん、変なこと言っちゃった」


 俺と大吾は互いの顔を見合わせた。


「なんかあんの?」


 正吾が聞くと白川は、「たはは」と苦笑いを浮かべ無理に明るく言い放つ。


「ファンだからね。連絡先交換できて、仲良くできたら、ラッキー。みたいな?」


 その声が明らかに嘘をついていることは容易に理解できた。


「さ、ほらほら、食べよ、食べよ」


 だが、彼女がなんでそんな話題を出し、最終的に嘘で誤魔化したかは、俺と正吾にはわからなかった。

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