第31話 超お嬢様
学校の正門を出て北に向かう。
いつも通りの帰り道。国道沿いの歩道。
今日は珍しく男女4人で帰るなんて、まるで放課後ダブルデートみたいだと錯覚してしまう。
有希、白川、正吾の顔面偏差値の異常な高さの中にいる俺はなんだか場違いな気がしないでもない。特に前方を並んで歩く、白川と正吾は見た目だけで言えば理想のカップルと言えるだろう。
実際、2人の会話は盛り上がっているらしく、楽しそうな声が後方まで聞こえてきている。
これ、もしかしたら本気でカップルになるやつじゃ?
「白川さんと近衛くんってあんなに仲良かったんですね。なんだかお似合いです」
隣を歩く有希も、前方の2人を見て声に出していた。どうやら誰が見てもそう見えるみたいだ。
2人共、コミュ力お化けみたいなところあるし、コミュ力高い同志が一緒になるとあれくらい盛り上がるのだろう。
「大丈夫ですよ。近衛くんは晃くんから離れませんから」
「やめてくれない? 忘れた頃に掘り返すその設定、やめてくれない?」
有希から見て、俺は2人の恋路を羨む嫉妬深い男にでも見えたのか、とんでもない言葉で励ましてきやがる。いや、励ましでもない、ただのからかいだろうが。
こちらの反応に対して有希は、気品のあるお嬢様っぽく笑ってくる。笑い方は上品だが、笑いの取り方はいささか下品であるといえよう。
「あれ? 近衛くんの様子が」
なんだか正吾が進化しそうな予兆のあるセリフに、ついBBB! と叫びそうになるのを必死に堪えて前方を見る。
「なんでいきなりロボットみたいになっているのでしょうか」
彼女の言う通り、それまで楽しそうに会話をしていたのに、唐突に正吾の野郎が、出来損ないの錆びついたロボットみたいな動きになった。
いきなり白川が美少女ということに気が付いて意識しだした? 会話をしている内に惚れてしまった? いや、あいつはバカだが、流石にいきなりそんなことになるとは思えない。
なんだろうと思って辺りを見渡すと、「ああ」と納得する声が漏れてしまう。
こちらの漏らした声に有希が首を傾げるので、親指で見慣れた建築物を指差してやる。
「私達のマンションですね」
そうである。
今、俺達は自分の住まいの前を華麗にスルーして、そのまま北の駅前まで向かっているところだ。その俺達のマンションの前を通った時に正吾に異変が起こった。
「俺は別に言われても良いんだが正吾が勝手に、『晃が1人暮らししてるのは言わないでおくぜ』とかなんとか宣言して、必死に隠そうとしての奇行じゃないか」
ま、白川には正吾が口を滑らせてバレちゃったけどな。住んでいる場所までは把握されていないから、それだけは言うまいという彼なりの思いなのだろう。
「隠そうとしてあの動きは逆にバレるのでは?」
「本人は至って真面目なんだが、いかんせんバカだから」
「あ、あはは……」
否定せずの苦笑いの応答は、正吾のことをバカだと思っているに違いない。間違いはないのでフォローを入れる必要性もないだろう。
俺達のマンションを過ぎると、正吾の奇行もなくなり、白川はさっきの奇行を面白おかしく笑っているので結果オーライだ。
「そういえばさ有希」
「はい?」
マンションを過ぎて、駅前をそのまま目指している最中に気になったことを彼女へ問う。
「さっき、マックスドリームバーガーに行くってなった時、なにか言いたげだったけど、あれってなにを言おうとしたんだ?」
「えっと……」
少し歯切り悪い反応に、言いにくいことなのだと察して先に言っておく。
「言いにくいことなら無理に聞かないけど」
「そうですね……」
少し悩む様子で有希は視線を伏せたが、「晃くんになら」と胸の内を語ってくれた。
「マックスドリームバーガーは、父の経営する飲食店ですので……」
一瞬、マックスドリームバーガーの店長をしていると思い、それなら行きたくないよな、って思った。しかし、現実を受け止めて、よくよく彼女のセリフを思い返す。
父の経営している──。
「ええ!?」
自分でもびっくりするくらいの酷く驚いた声が出てしまった。
マックスドリームバーガーは全国チェーンの超大手ハンバーガー店だ。世の中のほとんどの人が知っているハンバーガー屋さん。そんな超大手を経営する娘、それが大平有希。
超お嬢様なのでは……。そんな超お嬢様が俺の専属メイド……。
「いや、あの……えっと……。俺は切腹なのでしょうか?」
「なんでそうなるんです?」
頭がオーバーヒートしそうになって、わけのわからないことを言ったので、有希も呆れた声を出していた。
「晃くんもご存じの通り、私は両親が嫌いです。ですので、極力マックスドリームバーガーには行かないようにしています。あ、でもご安心を。マリーンズバーガーやモスモスバーガー、あとはバーガープリンスにセカンドキッチンとか、他のハンバーガー屋さんには行ったことあるので、ハンバーガー屋さんの心得はあります」
「バーガー屋に心得はいらないと思うけど」
というかこいつは、当てつけみたいに他のバーガー屋に行ってるな。そんなに親の経営する店が嫌なのだろうか。
「だったら場所変えるか? 別に場所はどこでも良いし」
「いえ」
案外、涼しい顔をして首を横に振る。
「みなさんの意見が一致した場所を今更変えるのもどうかと思います」
「流石は空気読める系メイド生徒会長様」
「でしょ」
嬉しそうに言うと、続けて言ってのける。
「それに……良い機会です。別にお父様が作った物ではありませんし、私が嫌いなのは両親であって、お店ではないので」
言って、少し無理に笑ってみせる。
「無理だけはするなよ」
優しく言ってやると、ニコッと微笑んで言ってくる。
「まずかったら言ってください。すぐにクレーム入れてやりますので」
「女子高生クレーマーってなんか面白いな」
無理をしているかもしれないが、まだ笑っているから大丈夫なのだろう。
ま、店に入って無理ってなったら俺から場所の変更を申し出るとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます