第26話 文化祭の出し物は思い通りにならない

 専属メイドと食費を折半する代わりに、朝、昼、晩に料理を振舞って、一緒に食事をしてくれる。しかし、いくらメイド喫茶のバイトを減らしたといえど、全てを実行するのが無理な日だってある。その時は、手の空いた時に作った料理をタッパーに詰めて持って来てくれる。


 こちらとしては、そこまで律儀にやらなくても良いと伝えたが、彼女の性格上やめるわけにはいかないと却下をいただいた。

 学校が休みの日も極力を家に来て振舞ってくれるのだが、無理な時はタッパーに詰めた料理を前日に渡してくれる。


 そんな感じで、日が経つにつれてこの生活が確立されていき、当たり前になりつつある季節の変わり目。


 まだ長袖は暑いけど、学校側としては衣替えの開始時期となった。気の早い生徒はブレザーを羽織り、クラスの中は白と紺のオセロみたいな状態となっている。


「今日は文化祭の出し物を決めたいと思いまーす」


 教卓に立つのは、2年F組の文化祭実行委員、白川琥珀。彼女の指揮のもと、これから我がクラスの文化祭の出し物が決められる。

 ちなみに、担任の猫芝先生は、学校行事は生徒の自主性を重んじると言わんばかりに、教室の隅にパイプ椅子を広げて、昼寝するネコみたいに寝ている。


「なにか案のある人ー?」


 はいはいはいー!!


 我がクラスは元気良く声を荒げて白川琥珀へと容赦なく申し出る。


 マシンガンのような申し出の弾丸を、彼女は切り捨てる武士のように、「あたたたた!」とチョークで黒板に書いていく。頭が良いからできる芸当だが、掛け声は間抜けっぽい。


「そういえば、文化祭って生徒会は口出ししないのか?」


 少し気になり、後ろに座る大平有希へ尋ねてみる。彼女は暇そうに机に頬杖をついて油断していた顔をしていた。その顔を見られて少し恥ずかしそうに睨みつけてくる。


「なんかごめん」

「別に」


 少しだけ頬を膨らませると、コホンと咳払いをして、いつもみたいに姿勢正しく、凛とした表情で質問に答えてくれる。


「私達がしゃしゃり出たら文化祭実行委員の意味がありません」

「そりゃそうだ」

「基本的に生徒会は裏方。正確に言えば、文化祭実行委員が裏方のお仕事ですので、裏方の裏方と言うのが正解ですね」

「裏方の裏方って、大変なんじゃ?」

「大変ですが難しくはありませんよ。今の時期でいえば、基本的には文化祭実行委員が進めていき、最終決定をするのは私達です。しかし、よっぽど変なものでない限り首を横に振るようなことはしませんよ」


 あくまでも文化祭実行委員がメインとなって進めて行き、生徒会は見守るといった感じか。生徒会でも手に負えない場合は先生のご登場というわけね。


「よっぽど変って、例えば?」


 白川が黒板に書いてくれているクラスの案を指差しながら問う。


 たこ焼き。

 かき氷。

 クレープ。

 パンケーキ。


 などなど。屋台系の出し物があったり。


 ビンゴゲーム。

 お化け屋敷。

 迷路。

 メイド喫茶。

 写真映えスポット。


 みたいな、教室を使っての出し物。


 ファッションショー。

 演劇。

 ヒーローショー。

 合唱。

 吹奏楽。


 といった体育館を使っての演劇系もある。


「今出てる案はどれを選んでも通るでしょうね」

「まぁ、定番といえば定番だよな」

「よっぽどと言えば……。昔に案で出たみたいなのですが、水着のミスコンとかというのはアウトです」

「あ、そうなんだ」


 水着という部分に反応して、沈んだ声が出てしまう。その声の変わりようを彼女は聞き逃さなかった。


「なんです? 女子の水着でも見たいのですか?」


 ジト目で見つめられてしまい。


「おう」


 逆に、堂々と答えてしまうと、「変態」と小さく罵られてしまった。


「お、おぅふ……」


 この近い距離で罵られて、なにか新しい扉が開きそうになる。


 大平有希は、ため息を吐いて続けてくれる。


「露出が多すぎるのはダメってことですね。楽しい行事といえど、一応学校行事ですので」

「なるほどな」


 ということは、大体なんでも好きなことができるということか。


「ま、私個人としてはメイド喫茶じゃなければ良いです」

「なんで?」

「なんでって。そりゃ私はメイド喫茶で働いているのを隠しているのです。メイド喫茶となれば本気を出してしまうでしょう」

「あんたの性格上手を抜くのは難しそうだな」

「そうです。ですが、そうなると身バレの可能性が出てしまいます。少しでも可能性は消しておきたい」


 それに、となにか殺気のようなものを感じる。


「こっちはガチメイドです。お遊びのメイドなんて許せません」


 ゴゴゴゴゴと、ガチ勢特有のなにかを感じるな。


 しかし、まぁ、彼女の説明を踏まえて俺もなにか提案しようと思ったが。


 うおおおおお! 


 なんて、クラス中が盛り上がりをみせていた。大平有希との会話で気が付かなかったが、クラスのボルテージはMAXまで上がっていた。


 特に男子歓喜で、立ち上がる奴もいれば、指笛を鳴らすやつもいる始末。女子達も悪くないよね、と言った雰囲気だ。一体、なにが起こったのか、視線を白川の方へ向けると。


「それじゃあ、2年F組は、『メイド喫茶』で決まりでーす」

「ええええええ!?」


 大歓喜の中、大平有希の声がクラス中に響き渡った。クラスの角から角まで、響き渡る彼女の声に、全員の視線が集まる。


「あ、えと……」

「メイド喫茶も文化祭の定番になりつつあるぞ」


 ボソッと言ってやると、プルプルと震えだす。そして、震えた身体のまま、いつもの凛とした表情で言い放つ。


「最高のメイド喫茶にしましょう」

「あ、空気読んだ」


 ぬぉぉおおおおおお!!


 生徒会長の激励により、クラスのボルテージはMEGAMAXと化した。


「俺らのクラスには妖精王ティターニアがいるぞ!」

「それに白川も中野も斎藤もいる!」

「目の保養プラス売上№1じゃね!」


 男子の結託が強まった。


「メイド服とか可愛いよね」

「敷居高かったけど、文化祭で着れるとアガるよね」

「いらっしゃいませ♪ ご主人様♪」

「やばっ。ウケるほど可愛い」


 女子達のボルテージも男子に負けず劣らず上がっている。


 そんなクラスの中。


「くぅぉぉうぉ」


 声にならない金切り声で、頭を悩ませている大平有希の姿があった。

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