第6話 お隣さんに住んでいたのは妖精さんだった
黒を基調とした短いワンピース。その上にフリフリのエプロン。エプロンは肩までフリフリだ。首元の淡いピンクのリボンが可愛さを増してくれている。頭に付けたヘッドレスのフリルは控え目だが、だからこそ、彼女の銀髪が可愛くも美しく際立つ。
王道的なミニスカメイド。
ジャパニーズメイドスタイルの銀髪メイド大平有希。
「なんで俺の家知ってんだよ」
玄関を開けた先にいたメイドに、「おかえりなさいませ。ご主人様」という王道的なメイドさんの出迎えの言葉を頂いたのだが、出迎えた側がおかえりと言われる不思議体験をしつつ、彼女を部屋に招き入れた。
色々と質問がある中で1番疑問だったことを、ベッドに腰かけて問う。
「私、この隣の部屋に住んでますので」
「へ?」
衝撃的な言葉に間抜けな声で応答してしまう。
「気が付きませんでした?」
「本当に?」
現実味の薄い事柄に疑り深く質問を重ねてしまう。
彼女も、こちらの反応は当然と言わんとする態度で答えてくれた。
「意外と同じマンションの人って気が付かないですよね。私も守神くんのことは1度見かけただけですので」
昔はお隣に挨拶するのが礼儀だったのかもしれないし、今もキチンとしている人達は引っ越した時に挨拶をしているだろう。しかし、1人暮らしの用のマンション、色々と物騒な世間に変わってきている中なので、お隣さんへの挨拶を俺は遠慮していた。なので、隣の家の人を見たことないし、そもそも、マンションの住民を見かけるのも数える程しか見ていない。
「私の部屋の方がエレベーターから遠いですし、守神くんも家を出る時はエレベーターの方しか行かないでしょうから知らなくても当然かもしれませんね」
俺の部屋は502。エレベーターは501の方へあるので、502より向こう側、503側へは行ったこともない。
まさか俺の隣に妖精が住んでるとは全然気が付かなかったな。気が付かないだけで、この世は意外とファンタジーなのかもしれない。
「いつから知ってたんだ?」
「そりゃ、あなたの家の前を通らないと私は家に帰れないので、去年の4月から知ってましたよ。表札にあなたの名前あるし」
「それもそうか」
もしも、俺と大平有希の家が逆だったら気が付いていたのは俺の方だったかもしれないな。たったそれだけの違い。だからなんだという話なんだがね。
「んで?」
大平有希が裏工作を駆使して俺の部屋を知ったわけではないにがわかり安堵するが、続けの疑問をぶつけてみる。
「なんでメイド服なの?」
そこがわからない。
「なんでって。私は守神くんの専属メイドです。メイドがメイド服を着るのは当然で
しょう?」
「確かに専属メイドになってくれるとは頼んだが、別にメイド服じゃなくても良いんじゃないか?」
めちゃくちゃ似合っているし、目の保養にもなる。なんなら四六時中見ていたいとも思えるが、わざわざ着替えるのは面倒そうだし、動きにくそうではある。それなら着替えやすく、動きやすいジャージーでも良い。
というか、この見た目の美少女のだらしない恰好とか見てみたい。よれよれのTシャツとか。
「や……。その……」
こちらの気遣いを察したみたいだが、だからこそどう返して良いかわからないといった態度を取られてしまう。
少しだけ頬を赤らめて、体をモジモジとさせていた。トイレにでも行きたいのかと思っていると小さく口を動かす。
「バイト以外でもメイド服着れるチャンスだと思って……」
「あー。ね」
なるほど。
この子は俺がメイド服を着て欲しいだろうと思って着てやって来たのではなく、自分自身が着たいってことだったのね。
昨今、コスプレがブームを巻き起こしているが、コスプレイヤーに近い心境なのかもしれない。
そもそもメイド喫茶をバイト先に選んでいるのだ。メイド服が好きで、可愛くて選んだと言われてもなんらおかしなことではない。
「メイド服はだめ……ですか?」
「大平が良いなら止めないけど」
「やった」
嬉しそうに小さく喜ぶ彼女だが、真に喜んでいるのは俺だぞ。
銀髪美少女のメイド服を独占できるなんて、俺はどれだけ前世で徳を積んだんだ? ありがとう前世の俺。現世の俺はただいま目の保養に全力を注いでいる。
「それではメイド服の許可が下りたところで早速と今後のことなのですが……」
小さく喜びを見せてくれていた彼女は、表情を切り替えてから俺の部屋を見渡した。
「それよりも、よくもまぁ、こんな部屋で過ごせますね」
小さくため息を吐くと、呆れた物言いで言われてしまう。
「仰る通りだな。俺もよくこんな部屋で暮らせると思うよ」
海外コメディに出てくるキャラクターみたいなリアクションで返してやる。
「自覚があるなら掃除しなさいよ」
「最悪、ベッドは綺麗にしているからな。この最終防衛ラインさえ守ればヨシ」
「よくありません!」
大平有希はベッドの隣にある、コタツテーブルの上に放置されたコンビニ弁当の容器を手に持って言い放つ。
「こんなゴミ屋敷では先程の事情聴取も、これからの話し合いもできません」
「できなくて良いよ。そんなこと」
「ダメです!」
きっぱりと言ってのけると、大平有希は自分の胸に手を置いて騎士団長みたいに威風堂々と言ってのけた。
「私は守神くんの専属メイドになったのですから、今から片付けを行います! 異論は認めません」
メイド服を着ても生徒会長、
これではどちらがご主人様かわかったものじゃないが、このメイド様はものすごいスピードで部屋の掃除を開始してくれた。
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