第1話 学校帰り
「葵!今日の帰り時間ある?」
「あるよ〜行きたいところでもあるの?付き合うよ。」
「ありがとう。」
ある日の学校終わり。私は親友に新しくできたカフェに行こうと誘われた。人通りの多い駅前から、一つ奥の道に進んだところにあるビルの3階にできたカフェ。ドアを開け店内に入ると程よく暖房が効いている。店に入れるのは十人ほどの狭い店内は、照明が薄暗く落ち着いたBGMが流れていた。レジ横にあるケーキケースには、季節のケーキが並んでいる。大ぶりの栗が輝いて見えるモンブランや柿のビュレがかけられているロールケーキ。ショコラケーキには宝石のようなラズベリーが乗っている。どれにしようかなと悩む咲の横顔は真剣そのものだ。しばらくケースを覗いた咲は頷くと、よしと声を上げた。どうやらどれにするか決まったようだ。私は親友が口を開こうとするのを遮って言う。
「私はショコラケーキにしようかな。咲はやっぱりモンブラン?」
「よくわかったね。さすがは葵。」
「当たり前でしょ。長い付き合いだからね〜。飲み物はアイスティーでいいよね。」
「うん。」
席に戻ってから店員を呼び、注文を終える。ケーキはすぐにショーケースから取り出され、飲み物と共に運ばれてきた。咲はニコニコ笑いながらそれらが机に置かれるのを待った。いただきます、と手を合わせフォークを手に取る。ゆっくりとひとすくいのモンブランを口に運んだのちに微笑むその笑顔は、まるで太陽のように見える。
「おいしー!・・・葵?どうかした?」
何も言わない私に疑問を持ったのか、咲が口を開く。
「え?あ、別に。咲は美味しそうに食べるな〜って思ってさ。」
「本当に美味しいんだもん。そうだ!はい、葵もどうぞー。」
そう言って親友はもう一度すくったモンブランを私に差し出す。一瞬躊躇したが、咲は固まっている私を不思議そうに見つめる。思わずため息が出そうになるが、ありがとう。そう言って私は彼女のモンブランを味わった。
これが愛なら、正しく苦しめた。 響 @Sorano_hibiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。これが愛なら、正しく苦しめた。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます