君と化学反応

遥瀬 唯

1話


「こんな世界からさっさと消えられたらな」



海を眺めながらふと呟いた言葉。


別に両親が嫌いな訳でも、


いじめられてる訳でもない。



ただ、勝手に「こんな自分なんか要らない」


そう思い込んでは消えたくなっているだけだ。



こんなこと大人に相談したところで



「そんなこと思っちゃだめ」



なんて言葉で片付けられてしまうだろう。


そう分かっているからこそ


私は誰にも思いを打ち明けないまま


「消えたい」を重ねていくんだ。





”誰にも迷惑がかからない”


そんな居場所を夢見ながら。






* * * * * * * *




迎えたくもない朝が来てしまったので


行きたくもない学校へと向かう。



「行きたくない」なんて感情のせいで


ダラダラと準備をしてしまった。


そのおかげで朝食を取る時間はない。



「しょうがない」



本当はしたくないけど、


緊急事態だしするしかない。



はぁ、とため息をついて


焼きたての食パンを手に取って


口にくわえる。



そう、私が今している行動は


少女漫画でよくあったりなかったりの


食パンをくわえながら走って登校するというものだ。



こんなことをする人など現実にはいない訳で


さっきから周りからの視線がうるさい。



どうせみんな思っていることは同じだ。



「あの子、漫画に夢見ちゃったのかしら。


なんだか可哀想ね」



きっとこちらを見ている主婦達は


そんなことを話しているに違いない。



あー、もうめんどくさいなぁ。


こっちだってしたくてしてる訳じゃないのに。



聞こえてくる声に心の中で


反論を繰り広げながら学校へと急いだ。



しばらくすると、校庭が見えてきた。


それと同時に見かける同じ学校の生徒が増える。



さすがに同じ学校の人に見られるのは恥ずかしくて


残っていたパンを急いで口に流し込む。



その勢いのままに


玄関を走って通り抜け、教室まで直行した。



「あ、佳奈かなおはよ。


もしかして....今日もやったの?」



教室に着くなり、


親友の羽癒はゆが話しかけに来た。



「羽癒おはよ。


いやぁ、今日もやらかしちゃってさぁ」



「もー、これで何回目よ。


ほんとに、しょうがないんだから」



はぁと溜息をつき、小言をもらしながらも


私の制服を整えてくれる羽癒。



「そんなこと言いながら、


毎回綺麗にしてくれるよね」



「そんなの当たり前でしょ?


私たちは親友なんだから」



そう言って悪びれもなく彼女は笑った。


そんな彼女とは対照的に


「親友」なんて脆い関係だよ、なんて考えを


心の奥底で密かに持ってしまった自分。


こんな考えが彼女に伝わらないように



「ふはっ確かにそうだね、いつもあんがと」



なんて笑って告げた。



「もう、ほんとに思ってるの?」



「思ってる思ってるー」



「まったく、佳奈は適当なんだから」



不満げな言葉をこぼしながら


私の隣でにこりと笑う羽癒。



そんな彼女の姿を見る度に


こんな良い子が私の傍にいちゃいけない。


何度そう考えたか分からない。


羽癒だってきっと、


陽のセカイに行きたいに決まってる。



なのに私がいるから


今も陰のセカイから抜け出せないままなんだ。



この世界から私が消えたら


貴女は欲のままに生きられるよね。





こうやって何度も勝手な妄想を抱いては


「消えたい」の理由を膨らませている。





そんな習慣を続けながら


私は今日も「消えたい」を抱えて生きていく。



にこにこと笑顔を貼り付けながら。







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