8.
紅葉は出掛ける支度をして玄関を出た。朝起きた時に英斗の姿が無かったことが気にかかるが、内心少しホッとして、新との待ち合わせ場所に向かう。場所は街の一番大きいショッピングモールの噴水前。そこに着くと、新は先に到着していた。
「新さん、お待たせしました!遅くなってごめんなさい!」
「まだ、時間まで少しあるから謝らなくても大丈夫だよ。」
新が優しく言う。紅葉はその表情と言葉に胸が締め付けられた。紅葉は妹みたいな子であって、好きなタイプは鈴乃みたいな色気のある大人の女性・・・。そう考えるとこのまま傍にいる事が本当に正しいことなのか。それとも、思い切って別れるべきなのか。いろいろな考えがグルグルと頭の中を駆け巡る。紅葉の表情に新は自分のしていることが苦しめているんだと感じ、辛くなった。新もまた、このまま付き合うことが良いことなのか、別れるべきなのか、どちらを選べばいいかが分からなくて悩み苦しんでいたのだった。
お互いにその話題をせずに、相手を不安にさせないために笑顔を崩さないようにして他愛無い会話をしながら歩く。そして、いつものカフェに行くために街路樹の道を歩いている時だった。
前から、黒いコートを羽織った男性が歩いてくる。紅葉と新はその存在に気付いていない。その男性が二人の前で立ち止まった。男性に気付いて二人が顔を前に向ける。
そこには・・・・・・。
「・・・お兄ちゃん」
英斗がいた。
紅葉の言葉に新が驚きを隠せない様子でいる。目の前にいる男性は自分の好きな人の元恋人であって、自分なんかでは敵うはずがないと思っている大人の男だったからだ。
「紅葉ちゃんの、お兄・・・さん・・・?」
それ以上の言葉が出てこない。英斗が言葉を放つ。
「なんで、妹と付き合っている?」
その言葉に新は戸惑うように言葉を言う。
「好きだから・・・です」
新の言葉に英斗は更に言葉を放った。
「でも、本命はバイト先の松井鈴乃だよね?」
英斗の言葉に新が言葉を詰まらす。何を言っていいか分からなくて言葉が出てこない状態に陥る。
「申し訳ないが、大切な妹のことを本気で好きじゃない奴に渡すことはできない。このまま付き合い続けても大切な妹の心が傷つくだけだから、妹とは別れてもらう。それと・・・」
英斗はそう言って新に一つのメモを渡す。そこには、店の名前と住所が記されていた。
「お前は今からそこに行け」
英斗はそう言うと、呆然としている紅葉を連れて行った。新は核心を突かれたからか、その場から動けないでいる。
周りの人たちがざわついていた。「痴話げんか?」とかいうひそひそ話が聞こえてくる。
一人その場に残された新は呆然とメモに顔を落とした。
そして、そのメモを見た途端、その店に走り出した・・・。
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