捨てJK、乙女ゲー世界で拾われました 〜クラス転移で無用と捨てられたJKが《ダンボール召喚》で猫獣人を丸く収めるまで〜
ほわりと
1-1 すにーきんぐ!
暗い箱の中から小さな穴を覗くと、モフモフな体毛の猫獣人の男性が歩いている。
約百八十センチメートル。年齢は私よりもやや年上。モノクルのような片眼鏡をかけて、冒険者風の服を着ている。服の裾から出ているモフモフな尻尾が揺れて、ついつい手が伸びてしまう。
「おい、バレてるぞ」
猫獣人さんが振り向き、私を睨んできた。慌てて手をダンボールの中に引っ込める。女子高生の私には耐えられない。思わず穴を両手で塞いだ。
「捨てられたんです。拾ってください」
そう、私は捨てられたのだ。
クラス転移でやってきた異世界…ううん、乙女ゲーム【ノル恋】の世界で。みんなの元に戻っても、また追放されるのがオチだろう。
「…なんでその箱、ダンボールだったか? の、中に入っているんだ?」
「捨てられたからですよーだ。拾われるまで絶対に逃しませんっ!」
私は今、ダンボールにすっぽりと収まってモフモフ…じゃなかった、猫獣人さんを追跡している。完璧なスニーキングミッションなのに見つかってしまうなんて。猫だから蛇は苦手だと思ったのに。
猫獣人さんが私の言葉に呆れて振り向くと、モフモフな尻尾がちょうど目と鼻の先にやってきた。いくら睨みが怖くても、この機会を逃すのはもったいない。私は手を伸ばして尻尾をモフった。
「ええい鬱陶しい尻尾を触るな! ついてくるな!」
モフモフな尻尾を必死に追っていると、気がつけば王都まで戻ってきた。猫獣人さんは今、甲冑を着た門番と会話をしている。
「えっと、ジャン様。後ろのソレは魔具ですか?」
「違う」
猫獣人さんはジャンさんと言うらしい。このチャンスを逃したら二度とこの門には入れない。そんな直感を感じて、無理矢理明るいキャラを演じる。声をワントーン上げて、ななちゃん先輩のように振る舞う。
「そうでーす。拾われたのでジャン様のものでーす!」
「いいや俺は拾ってない!」
うっ。そんな強く言わなくてもいいのに。ここで引いたら一歩も動けなくなってしまう。
「ここで…その、捨てるんですか?」
「…はぁ、まったくしょうがない。ほら、アイツの通行代だ」
やった。ジャンさんが認めてくれた。この国、ノルケットに入るには通行代が必要なのだ。異世界人である私は、今まで王城暮らしでお金を手にしたことはない。だからここで挫けるわけにはいかなかった。
「ちなみに中身は魔物だったりするので…「人間だ!」」
「絶対にそのモフモフを…ぐへへへっ」
「…いや。人間じゃないかもしれない」
私の心の声が漏れてしまったのか、ジャンさんが可哀想なものをみるような目で私の入っているダンボールを見つめてくる。門番さんまで一緒に見てくるけど、このダンボールがそれを全て遮断してくれる。
【ダンボール使い】なんてジョブは何も守れないと思ったけど、今はダンボールが頼もしい私の防具だ。
「はぁ、どちらなのですか」
…そんな頼もしい防具でも、門番さんの呆れた声までは遮断してくれなかった。
門をくぐった後も、ジャンさんの後をしつこく追った。王城に戻ってもクラスメイトと会うことになる。頼れる人はジャンさん以外もういない。
「こんな男の家に上がるなんて、お前は襲って欲しいのか?」
「別にそういうわけじゃ…ないですけど…」
ジャンさんの家に入ると同時に、私の防具は脱がされた。脱がされたといっても別に裸にされたわけじゃない。
黒髪黒目のショートボブ。高校指定の紺色のブレザーを着た高校二年生。今の私は、そんな普通の女子高生の姿をさらけ出している。今までダンボールに入っていたからか、裸を見られているようで少し恥ずかしい。
今日一日、地面を擦り続けていたせいかダンボールはもうボロボロ。頑張って書いた「拾ってください」という文字と一緒に描いたかわいい猫の絵は、もう見る影もない。
「…はぁ、晩飯だけだからな。食べたら帰れ。それで、名前はなんて言うんだ?」
「えっと、遥…ううん、ルカです」
本名を言おうとして咄嗟に偽名を名乗った。クラスメイトは私を死んだことにしたはずだ。いつどこでバレるかわからない。白木遥はもういない。地球に戻れるまではルカとして過ごそう。
「俺はジャン。ジャン・フォレストだ。錬金術師をしている」
名字はあってもよかったらしい。異世界人の名前は王家の人しか知らなかったから、国民に名字はないかもなんて思っていた。
今更、名字を名乗るのも変だし、どうしよ…えっ、錬金術!?
家の中を見ると、怪しげな道具や計量器具、薬や薬草などが机や床に散乱していて、いかにも錬金術師の家らしい家だった。よく見ると服装もなんだか錬金術師っぽい。
「錬金術って錬金釜をおっきな棒でグルグル回すんですよね!?」
身振り手振りで錬金術師が錬金をする真似事をして家の中を見る。好奇心から、つい目が輝いてしまう。でも、どこにも錬金釜はない。それどころか釜をかき混ぜる大きな棒も見当たらない。
「釜? そんなの使わないが」
錬金術師はみんな使うものだと思っていた。失敗してボカンと爆発するまでがお約束なのに。異世界の常識を突きつけられて肩を落とす。
「それで、ルカはどうして森に捨てられていたんだ?」
「そ、それは…」
「拾ってやったんだ。聞く権利くらいあるだろ」
「そう…ですよね…」
それはそうだ。私だって同じ状況になったら理由を聞く。今までのことをジャンさんに話すことにした。
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