プロローグ 跳梁跋扈

 闇に沈む城壁都市の、その城壁の外。闇夜の静寂を切り裂く激しい騒音が響いた。

 続けざまにそれは響き、止んだと思った途端にまた響き出す。

 それは、銃声だった。自動小銃なのだろう、連続した規則正しい銃声が続く。

 その銃声の主は、一人の女性だった。闇にまぎれる暗黒色のつなぎの戦闘服を身にまとっている。その手の中には一丁の自動小銃。

 その自動小銃が次々に火を吹き、その女性のウェーブのかかった黒髪をはためかせている。ショートカットであるために、その様は髪を逆立てていると言っても過言ではなかった。

 そして、そのたびに、前髪の間からのぞく青く鋭い眼光がきらめく。その瞳は、獲物を逃すまいと必死だ。特に、暗視センサー付きゴーグルを装着した左眼は。

 ゴーグル越しの左の視界に広がる緑色の街並み。その街並みの中をそれは逃げていた。

 彼女も、それを追って走る。

 逃がしはしない、逃がしてなるものか‼︎

 あれは悪魔だ。その悪魔を解き放ってしまったのは自分。自分で蒔いた種は摘み取らなければ。

 ぎゅっと自動小銃をにぎりしめ、次の瞬間に逃げるそれに向けて一斉射撃を開始する。

 ガガガガッと城壁に穴を穿うがつ。しかし、そんなことは気にしてはいられない。

 それはまだ生きている。逃げている‼︎


「くそッ」


 思ったよりもそれは素早しっこい。弾がかすりもしていない‼︎

 早く仕留めなければ、また被害が出る。

 自動小銃を構えた、その時。


( ⁉︎ )


 さっとそれの姿が道を外れて右手の壁へと向かった。そこには、四角いボックスが高さ1.5メートル付近に設置されているのが見えた。


「まさか!!」


 ハッと見上げるとそこには非常用と思われる巨大な魔石白熱ライト。その大きさは、魔石の産出国だからこそ出来る大きさ。

 しまった‼︎

 ボックスに手を伸ばしたそれに、彼女は慌てて暗視ゴーグルをつかみ————。


「キャアアアァッ‼︎」


 一瞬早く辺りを照らし出した真っ白な光に悲鳴を上げた。

 裸眼の右目でさえ目を瞑っても痛いほどの光量。それを暗視センサーを通してまともに浴びた左目が白く染まり、焼けた針をさすような痛みが左目を襲った。

 左目をとっさに手で庇おうとし、ゴーグルに阻まれる。


「このっ、くそッ‼︎」


 自動小銃を地面に叩きつけ、両手でゴーグルをむしり取るように外す。

 その頃には、もうそれの姿は影も姿もなかった。ただ、白光に照らし出された彼女がぽつりと一人取り残されているだけ。

 手で庇った左目からは涙があふれて来ていた。まだ、左目の視界は真っ白でなにも見えない。

 痛い。

 ゆっくり、ゆっくりと針を差しこまれていくような痛み。


「次こそ……」


 彼女は涙の出ていない右目で前方をねめつけ、歯のすきまから息とともに吐き出す。


「次こそッ」


 そして一分とたたないうちに、彼女の姿も闇へと消えていった————。

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