第13話 またか…
森の火事を消し、俺とタルバさんは畑に戻ってきた。
プティさんとララは居なかったが、ララをプティさんが送っていったのだろうと、タルバさんと畑仕事を再開した。
タルバさんから借りた藁帽子を被り、さぁ作業の再開だ。
空を見上げると大きな入道雲が丘の先に見える。
蒸し暑くなりそうだ。
とくだんタルバさんから指示された作業はないので、俺は作物へ寄与する新たに考案した魔法を試してみることにした。
さっき火を消した後に雨が降った。あれをみて思いついた。
さぁやってみよう。Let’s try!
俺はソマ畑の真ん中まで移動し、左手の掌を開き上に向ける。
目を閉じ大気中の水分を集め凝縮させる。それを急速に冷やし凍る寸前で温度を維持する。
いま俺が作ってるのは小さな雷雲だ。
雷雲の中に大量にできた小さな雹を風魔法でかき混ぜる。こうすることで静電気が発生し雷雲の中に電気が溜まっていく。
すなわち簡易な蓄電池を作っているところだ。
来た!
成功だ!
雷雲の中に電気がパチパチと走り始めた。
緊張するが、予定通りの作業を進める。
次に左手で作った簡易蓄電池に発生した電気を地面に流す。
(慌てず急がずゆっくりと…)
簡易蓄電池内の電流量を一定に維持しながら、一定以上にあふれ出た電流をどんどん地面に流し込む。
やがてソマ畑全体に電気が行き渡るように放出範囲を広げていくが、どうにも半径10m程度までにしか広げられない。
たぶん送電流量が不足しているんだ。
一旦魔法を消して、今度はさっきの15倍くらいの簡易蓄電池を作成する。
そして発生した電気を改めて電気を地面に流し広げていくが、半径30m位までしか広げられない。
何が原因だろうか?
再び魔法を消し畑を見渡す。
ソマ畑全体に送電するには、半径50mは必要だ。
そこでさっきは送電流量が5倍になるように、5倍×πで簡易蓄電池の容量を15倍にした。
ところが予想に反し半径30m位にしか送電できなかった。
考えられることは漏電か…。どこかで電気が漏れてるんだ。
漏れる電気を塞ぐことができるだろうか…。
地表面を絶縁体にしてしまうか。
絶縁体としてゴムをイメージしてみるか。
よし、やってみよう。
今度は右手を地面につき、右手をつけた地面以外を全て絶縁体にしてみる。
そして左手でさっきと同じ簡易蓄電池を作り電気を発生させる。
緊張感がハンパない。
だって欲張って畜電し過ぎると、たぶん雷となって放電されるだろう。
その雷は、かなりの高確率で俺へ飛んでくるに違いない。
近くに導電体は俺しかいないのだから…。
思い付きでやり始めたこととはいえ、今更ながらこの作業の危険性に緊張感が高まっていく。
次やるときは避雷針になるものを準備してからにしようと頭にメモしておく。
やがて発生した電力を地面に送電する。
少し慣れてきたのか以前と違い、かなりスムースに電流を広げることができる。
30m突破、40m突破、そして、やったついに50m到達!
よっほーい、大成功だ!!
あとはこのままの状態を1時間ほど維持する。
いったいなぜソマ畑の地面に電気を流してるのかというと、作物を元気に育てる方法はないかとあれこれ考えてみた結果だ。
電気魔法の収得が主目的ではない。
さっき火を消すのに偶然だが人為的に雨を降らせることとなった。
それで周囲にいた人達をびしょ濡れにしてしまったことは反省だ。
で、雨を降らせるなら、雷も作れるんじゃないのかって、タルバさんの肩の上で思いついた次第。
雷、それは豊作の道標。
雷って神が鳴らすと考えられていたから、昔は神鳴りって書かれてたらしい。
そして神鳴りが多いと、その年はなぜか豊作になるとも言われていた。
豊作になる訳は2つ。
1つは雷が多いということは雨が多いということ。しかもゲリラ豪雨のような短時間降雨。水分の蒸発散が激しい季節に短時間の水やりをしているのと同じことになる。これが作物にはうれしいんだろうな。
2つ目は雷が地面に流す電流が、どうやら作物に良い影響を与えているらしいということ。
というわけで電気を地面に流すことにしたんだけど、雷のような高電流を流すのは怖すぎるので、低電流を長時間流すことにしてみた。
ますます気温が上がってるのだろうか、暑くて堪らない。
油断すると集中力が途切れそうになる。
滴り落ちる汗が簡易蓄電池を見つめる目に入ってきて痛い。痛いけど簡易蓄電池内の電気から目を離すわけにはいかない。しかも両手が塞がっているから汗を拭うわけにもいかない。
これって、なんの罰ゲーム?
誰にも強制されていない拷問で自虐してるのか?
…自業自虐?
だけどこのソマ達が元気に実れば、タルバさん達やこのソマを食べるアルカナの人達に喜んでもらえるはず。
そういえば日本の銭湯で電気風呂に入ったことがあったな。
たしかかなりビリビリして驚いたが、だんだんと心地よくなっていったのを思い出す。
ソマもいま俺の電気を受けて、だんだんと心地よくなってくれてるんだろうか…。
しかしあの時のお風呂を熱かったな~、銭湯ってなんであんなに熱くしてんのかなぁ…。
そういえばアマゾンに生息する電気ウナギは電気に直交して発生する磁力で周囲を探知してるって聞いたな…。
電磁気探査かぁ、うなぎって凄いなぁ。
そんな生物ってこの世界にもいるのかなぁ
俺にも電磁気探知できないだろうか
なんだかできそうな気がするけど、いまはやる気になれないなぁ
なぜだろうなぁ
やってみたらできそうなのになぁ
のどがかわいたな
かわでみずあびしたいな…
ドサッ
目覚めると、見たことのない天井版、そして消毒液のような匂い。清潔そうだが薄っぺらな掛け布団。
俺はどこかのベットに横たわっていた。
どこだろうと視線を移すと俺に背を向け立って窓の外を見ているベンさんがいた。
またもや見知らぬ人に憑依してしまったのかと危惧し始めていた俺は、見知った人を見つけて安堵する。
「べんさん、ここは…」
窓から差し込む夕日に照らされていたベンさんが振り向く。
「おー起きたか。気分はどうじゃな」
影になったベンさんが俺に聞いてくる。
なぜベンさんが俺の気分を気にしてるのかわからないまま、
「気分…、うーんと気分は上々かな?」
「そうか、そんならよかったわい。シロー、ここは病院じゃ。お前さんは畑で倒れてしもうての、それでここに担ぎ込まれたわけじゃよ。覚えとらんかや?」
全く記憶になかった。たしかソマに電気を流してたはず…。
ベンさんの後ろに見えるのは夕日に染まる街の景色。
そっかぁ、俺はソマへの送電中に暑さにやられて倒れてしまったのか。
「ううん覚えてないや、なんにも。でもまた迷惑かけちゃったんだね俺…」
「迷惑だなんて誰も思ってないぞ。お前さんはちーとばかり気張り過ぎただけじゃ。少し疲れてしもうただけじゃよ」
夕日で影になったベンさんの表情が掴みにくい。
これまでいくら無理しても全く疲れ知らずだったコシローの丈夫過ぎる身体能力に甘えてたってことか…。
ごめんなコシロー、無理させちゃって…
「ありがとう、べんさん。じゃあ、もう少しここで寝ててもいい?」
「もちろんじゃよ、ゆっくり体を休めるんじゃ。ここなら何も心配はいらん、安全じゃからな」
べんさんの好意に甘えて体を労わることにし目を瞑る。
ん?いま「安全」って?
ベンさんの言葉尻が引っ掛かった。
目を開け話しかけてみる。
「べんさん、タルバさんは?」
ベンさんの雰囲気がふいに変わった気がする。
「あータルバは急用で出かけとるよ、いいから、さぁゆっくりお休み」
そう言ってべんさんは再び夕日の照らす窓の前に立ち外の様子を眺めはじめる。
ベンさんが振り返る一瞬夕日に照らされたベンさんの顔が垣間見えた。
いつも穏やかなベンさんが険しい表情をしていた。
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