第11話 火竜退治
火災の起こす風と音を感じ始めた。
すでに辺りは木々の焼ける匂いと煙で満たされている。
かなり勢いよく燃え広がりつつある森が鮮明になってきたとき、タルバさんが呼び止められた。
「タルバ!」
「ビンス!」
呼び止めた人物はタルバさんの知り合いのようだ。
「タルバ、俺たちは向こうへまわるぞ。ついてこい」
「よしっ」とタルバさんが走り出す。
一緒に走り出したビンスと呼ばれた20才前後のイケメンが俺に気づく。
「おいタルバ、この子も連れていくのか?」
「問題ない。俺が守る。それにこの子はきっと助けになる」
「マジかよ…」とビンスが不安そうに呟いている。
(まぁ、普通そうだよな)
俺を不安そうに見つめるビンスに軽く頭を下げタルバさんについていく。
向かった先ではすでに数人の水魔法士が消火に努めていた。
だが激しく燃え盛る火に対し明らかに放水量が足りてない状況は歴然だ。
あまりに水魔法士の動員数が少なすぎる。
「シロー、いいかいシローは僕の横で一緒に放水するんだ。必ず僕の指示に従うこと、いいね」
タルバさんの言葉に頷きながら、目の前で荒れ狂う、森を焼き尽くさんとばかりにまるで暴れる火の竜のような火勢に言葉を失ってしまう。
「よしっビンス、僕たちはここで消火を始める」
タルバさんがビンスへ告げる。
「わかった。俺はもう少し先に行く。坊主無理すんなよ」
ビンスが俺の頭を粗く撫で走っていく。
「シロー、あそこの火のところへ水を集中してかけていくよ」
とタルバさんが放水する場所を指さす。
火の凶暴性に言葉を失っていた俺だが気持ちを切り替え、タルバさんが示す場所へ放水を始めた。
火は風上から風下へ燃え広がっていく。風下から消火した方が効率がいいのではと思うけど、きっと俺のことをタルバさんは気遣って風下より安全な風上側を選んでくれたんだろう。とりあえずどんどん激しさを増すいっぽうの火の勢いをなんとか食い止めないと。
俺は気合を入れなおし、森の上空にできるだけ大きな水玉を作り始めた。
一瞬で25mプール位の水玉が出来上がったので、それをタルバさんが指示した場所へ投下してみる。
ドバーン ボボボボボッ
落下させた水の振動が地面を揺らす。
大量の水が荒れ狂う火を一瞬で消し去る。
生き残った火の手が水と再び格闘を始める。その音と蒸気と草木の焦げた刺激臭が順に襲ってくる。
思わず風魔法でそれらを一気に上空へ逸らす。
よしっ、とりあえずタルバさんが指示した場所辺りは鎮火した。
次はその横だ。
もう一度同じくらいの大きさの水を上空に浮かべ投下する。
よしっ、横の火も消えた。
次はビンスが消し始めた辺りの上空に水玉を作り落とす。
ドバーン、ボボボボボッ
しぶきなどがビンスにかかってしまった。
(ごめんビンス、風魔法で防ぐの忘れてた)と心の中で誤りつつ、次の水玉を空に浮かべる。今度は水しぶきなどが大きく飛び散らないようにさっきよりもう少し低い位置に浮かべる。
そして投下!
ドッバーン、ボボボー
いけるいける。
この調子なら、あと20玉くらいの水玉で風下側までの火を消せるかも…。
なんだかいけそうな気がする、
じゃあ一気に20玉作ってみよう。魔力限界など気にするなっ。
怒り狂う火の竜を覆うように水玉を20玉上空に浮かべる。
水玉を透過した光が森を覆う。
(火の竜よ、この水玉が見えるか。お前はもはや風前の灯だ!)
よっしゃ、いくぞっ 投下!
ズドドドドドドドド…
ババババババババ…
ボボボボボボボボーッ
ドグゥーーーーーーン
猛烈な爆音と大地の揺れが投下と同時に襲ってきた。
思わず目を細めながら、風魔法で作った竜巻で大量の蒸気などを上空へ吸い出す。
一転、静寂が森に訪れる。
ポツポツと雫が落ちてくる。
上空へ送った水蒸気が雨となり、森に降り注ぐ。
森に火は見当たらない。
燻った煙も見当たらない。
やがて雨が止み、再び太陽が照り付けてくる。
さっきまで暴れまわっていた火の竜は、無事退治できたようだ。
ふぅーと大きな安堵の溜息をつき、次の指示を仰ごうと横にいるタルバさんを見上げる。
濡れそぼったタルバさんは、片手を突き出した放水姿勢のまま森をじっと見つめ続けている。
まだ何か森に見落とした危険が残っているのかと俺も改めて森を見渡してみる。
しかし背の低い俺からでは残り火を確認できない。
それでもしばらく消火残しの有無を確認をしていると、「はははっ」と唐突にタルバさんが笑い出した。
緊迫した場に似合わない笑い声に少し驚いた。
「タルバさん、火は消えてますか?」
「はははっ、あー、消えたね。完全に消えちゃってるね。それもあっと言う間に…はははっ」
「そうですか、よかった。やりましたね、タルバさん」
「あー、やったね、最高だよシロー。君を連れてきて大正解だった」
(よかった。役に立てて)
「おーい、一体何だ今の!」
ビンスが歩いてこっちに来ながら叫んでいる。
それを無視して俺に振り向いたタルバさんが語りかける。
「決めたよシロー。君の進む道を…」
そのままタルバさんは微笑んで俺を抱き上げ肩車した。
そして微笑ながら俺に囁いた。
「シロー、君はきっと伝説になるような人になるよ。少なくとも今日のことをアルカナではずっと語り継いでいくだろうね」
その後、タルバさんのところへ大勢が押しかけ、俺たちはもみくちゃになりながらも、俺とタリバさんは留まることなくそのまま帰宅の途についた。
みんな笑顔だった。それが嬉しい。
途中、森へ駆けつける時には気づかなかった黄色一面に咲く向日葵畑が目に入った。
向日葵も安堵の笑みを浮かべているようだった。
さらに振り返ると小さな虹が森を包んでいた。
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