興味本位で力を持っちゃったけど、この力はお世話になった人のためなら全力で行使する
@hihumi999
第1話 ここは誰? 俺はどこ?
目を開けると、真っ青な空に厚めの雲がゆったりとたなびいていた。
夏の空…?
眩しいな…
目を細め差し込む光量を調整する。
空の雲を吸い込むように深~くゆっくり~と呼吸する。
乾燥してるんだろうか、吸い込んだ空気が鼻腔を刺激してくる。
草と土の入り混じったなんだかどっかで嗅いだような懐かしい匂いがする。
いつぶりだろう…?
こんなに気持ちのいいスッキリした寝覚めは…。
記憶をゆるりと辿ってみる。
…思い出せない。相当遠い記憶なんだろう。
それなのに、どうしようもなく懐かしい。
もう一度目を瞑り大きく息を吸う。
自然と自分が一体化したような不思議な感じだ。
止まっているよう青い空に浮かぶ雲を無心で見る。
ゆっくりわずかに形を変えながら右から左へ進んでいる。
こんな風に空をゆっくり眺めるのもいつぶりだろうか…。
よっと、両肘をつき
そろっと上半身を起こして目前の風景を視界に入れる。
…
おぉ…、ぅわぁおっ!
目の前にあるのは…、見渡す限りの大草原、
その緑が真っ青な空のもと地平線の先の先,どこまでも続いている。
風が舞ってるんだろう。
所々でひざ丈の草が揺れ動いている。
スササー、揺れ動く草々の音が聞こえるようだ。
眼前の青と緑が織りなす光景にしばし時を忘れる。
こんなの…、絵葉書くらいでしか見たことがない。
そんな2次元仮想が少しづつ3次元リアル空間へ馴染んでゆく…。
…心地いい
そっかぁ…、これっていわゆる、これぞ絶景ってやつ。
いまこそ絶好のシャッターチャーンスってやつ。
そしていまそこに溶け込む俺…。
ふわぁ~、めちゃくちゃ癒される~。
さいこぉ~
時よ止まれ~
この瞬間を我に刻み込まんっ
…って、おん?
なんで絶景サイコーって癒されてる…?
…ん?
…あれ
んんっ?
おもむろに視線をやや下方に向けると、そこには見慣れない服装に身を包む肉体がある。
おやおや
かわいらしい小さな足とプニプニしたお手々、俺が意識すると不器用に動く…。
グー、チョキ、パァー…、グーグーチョキチョキ、チョキチョキパァー…
うんにゃあ~、可愛らしい小さな手足が、俺の意識に従おうと一生懸命動いてる。
ぎこちないながらも、精一杯掌を広げたり、ぎゅっと広げた手のひらを閉じてる…。
思わず触ってみる。
ムニュっ
あはーっ、すっげー柔らかくてすべすべ…
こ、これは…、ずっと触ってたい…
って、おい、こらっ
妄想を消し飛ばし、いや妄想じゃないっ。
妄想のような現実から目を覚ませっ。
目を瞑り首を左右にブルブル振る。
…見えるのは同じ絶景。
心臓が止まるくらいの冷水を全身にぶっかけられたような感覚にとらわれる。
ここ…、どこ?
よくよく自分の身体全体をゆっくり確認する。
たしかたしか確か…だったよなぁ、
記憶にある俺。
たしか平均的な成人男性位だった身長。
その身体が随分ミニマム化してしまっている。
間違いない。
何度確認しても、めちゃちっさい。
いやいや、やだやだ大人になんてなりたくないー、俺はこのまま一生マイ スウィート ワールドで生きてくんだーっ!
この温室から一歩たりともでないからなっ、えっへんゴホゴホ…げほっ
三才児的無邪気な現実逃避、身体だけでなく精神も退行したくなる。
この身体が俺、俺がこの身体そして、来たことも見たことさえないここ…
一体どこ?
どういうこと?
日中は地味なスーツに身を包んで過ごすことの多かった俺。それがいま、ちっさくて自称だけど愛くるしく見えているこの肉体。
着ている服はパリッとした皴一つないスーツ、ではなく妙にジャストフィットしたパジャマ服…。
これって素材は麻だろうか…、少しごわつく無地で泥にまみれたズボンとシャツ。
そして、なぜだろう。屋外なのに靴も靴下も履いてない。かわいらしい素足…。
はぁーっ?
俺はどこ?ここは誰?
今一度、改めて辺りを見渡す。
うんうん、たしかにたしかに…。
ここ、たしかに記憶にない…。
うんうん、間違いない、うん。
…さっぱりわからん
あーっと吐き出すように声を出し、ごろんっともう一度横になる。
えーつとなにかな今聞こえた声は?
聞き覚えのない声。
「あー、あー、あー、テス、テス、テス、ただいまマイクのテスト中…」
他人が聞く声と自分が聞いてる声は違うってことは知ってるけど…、
えーーーーーーーつと…、これはそういうことだよな。俺は身体も声も幼児化してしまっていると…。
俺の知る声より2オクターブは甲高い!
無意識な溜息がでる。
目の前にはさっきと何も変わらない青い青い空。
うん綺麗だな…、
そして地べたには、幼児化したおっさんが1人寝そべっている。
「あー、やっぱ夏っていいな。俺はこの夏の空が好きなんだよな」
…俺は、たぶん俺なんだよな、そして今は子供らしい俺なのかな、それとも俺らしい子供なのか…。
気づくと蝉の声が耳に響く。
少し静かにしてほしい。
その耳をつんざかんばかりの蝉の鳴き声と容赦なく照り付ける眩しすぎる陽の光が、じんわりと俺の冷静さを奪い取っていくのを感じながら、吹き出してきた冷たい汗が目に入る前になんとか拭った。
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