第56話

 さっきから何回も攻撃をしている、しかし一度も当たっていないみたいだ。

 相手は人間の形をした霧のような存在、触っている感触はあるのだがダメージが通っていない?

 交わされているというより……まさか相手はここにはいないのか?


「魔術神、お前は本当にこの洞窟の中にいるのか?」


「ここは洞窟なんかじゃありませんよ。ちゃんとした部屋の中です」


「それじゃあ質問を変える、俺の半径五メートル以内にいるのか」


「もちろんですよ。この通りあなたに攻撃もできるでしょう」


 右足に傷を負ったらしい。

 勇者たちの剣とは比較にならない強さだ。


「まさかその程度で苦しんでいるわけじゃないでしょうね?」


「っっ……」


 声を出さないように我慢するので精いっぱいだ、今度は左腕をやられる。

 相手に攻撃される場所を予測して、それでカウンターを入れるしか方法がないか。


「それじゃあ最後、あなたはこれで動けなくなりますね」


 動けなくなるということは左足を狙っていることに違いない。

 これで傷を負ったらもう動けない、最後のチャンス。


「私の手が……」


「残念だったな魔術神さんよ。ようやく姿を現してくれたようだし、次はこっちの番だ!」


 相手だと認識していた白い霧は本体を隠すための防具の一種だったようだ。

 それにしても白い……というか透けているな。

 相手は顔にも体にも布をまとっていて、顔などの情報はわからなかった。


「私のことを観察する暇があるのなら、攻撃すればよかったものを」


「そんなに傷を受けたいのか、魔術神というのは相当な変態だな」


「くっぅ……」


 両足にいつものように石をぶつける。

 これが効いたらしく相手の声が変わった。


「私のことを舐めてもらっちゃ困る。まさか人間ごとき相手に攻撃魔術を使う時がくるとは……上級魔術ライトニングキャノン!!」


 魔術神の魔術ってことは……当たったらレベル297の攻撃を受けるのと同義ってことじゃないか!

 何としてでもよけなければ。


「なにっ?! この部屋の頭上すべてから攻撃されるだと?!」


 ビャァァァァァァ

 ギャァァァァァァ


 光のすべてが恐竜のような顔、鳴き声でこちらに向かってくる。

 くそ、追跡されるなら逃げた意味なかったじゃないか。

 こうなったら魔術自体を消せば……!

 近くにあるものをひたすら頭上にある魔方陣に向けて投げつける。

 少しづつひびが入っていく、これで……。


 ドッカーーーーン


「…………」


「どうやら引き分けのようですね」


「何を言っているんだ、お前のことはかなり攻撃したぞ」


「こちらはあの魔術を同時に十個以上使えるのです。疲れ切っているあなたではそのすべてを壊すことはできないでしょう」


「そうだな。それで、さっそく聞かせてもらおうじゃないか」


「出来損ないにそんなに愛着がわいているのですね。いいでしょう、彼女は幼くして両親がなくなってしまったのですよ。それでこの教団で預かることになったのです」


「それがどうやったら欠陥品になるんだ」


「リックがその子にある改造を施したのですよ。予定では私のレベル上限解放の手助けをしてくれるはずだったのですが、どうも自我が残っていたようでね。私のことが嫌いだから協力したくないと言われてしまいまして」


「それで失敗作と言っているのか?」


「ええ、私のいけにえになるはずだったのに、敵になってしまうなんて……。まあ殺すつもりなんてないですからそこはご安心を」


「ふざけんのもいい加減にしろよ」


 そんな理由で人のことを欠陥扱いしているのに腹がたつ。

 こいつを欠陥神にしてやろうと思って立ち上がる。

 どうやら相手に感づかれたらしい。


「おっと、そろそろ時間です。それではまたいつか会いましょう」


 魔術神がそういうと、俺の体は光に包み込まれた。

 前にもこんなことがあったような気がする……。

 この不気味な感じ、間違いない酔っ払った時の瞬間移動もこいつの魔術のせいだったんだ。



「魔王、ちょっと大丈夫? 応急処置はしておいたけど」


 気が付くと、俺はマーシャの横で眠っていた。

 いつかの時と同じで上半身裸にされて。


「またマリーに裸にされたか」


「ちょっと、傷の手当てをしてくれた恩人にそんな言い方はないんじゃない?」


「そんなにひどかったのか。すまない」


「二、三日すれば後もすっかりなくなるだろうけどそれまでは安静にね」


「そうするよ、ありがとうマリー」


「これくらい大したことじゃないわ。傷の具合を見た感じだけど、よくて引き分けってところかしら?」


「その通り、やはり魔術かそれに代わる何かを手に入れる必要があるな。レベル297と同じくらい火力の出るものがいい」


「ありふれているかもしれないけど、武器を装備してみるのはどう?」


「そんなので攻撃力が三倍になったら苦労はしないさ」


「それじゃあ飛び道具を使うとか」


「……そっちのほうがいいかもしれないな」


 武器や防具をつけたところでステータスが三倍になるようなことが起こるとは考えにくい。

 威力の高い飛び道具であれば、もしかしたら魔術と同じかそれ以上のダメージを出せるかもしれない。

 問題は飛び道具をどこで調達するかだ。


「マリーは飛び道具について詳しい人を知ってるか?」


「うーん。申し訳ないけど私にはさっぱりだわ。ブラントさんが一番詳しいと思うけど最近見ないのよね」


「そういえば俺も最近会ってないな、前からよくいなくなるような人なのか?」


「たまにふらっといなくなることは結構あるわ。最近少なくなったと思ったけど」


 それじゃあそこまで警戒する必要はないのかもしれない。

 もっと大きな問題である魔術教、そしてマーシャについてのほうが重要な気がする。


 特にマーシャのほう、彼女が改造人間だったとは……。

 開発者はリックと言っていたよな。一度見たことがあるし、今度二人だけでじっくり話し合いがしたいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る