第6話 服選び

「いらっしゃいませー。どんな服をお探しですか?」


 お店につくとすぐに店員が話しかけてきた。


「この子にピッタリな服を探しているんだ」


「ありますよ、ちょっと待っててくださいね!」


「魔王様のは聞かなくていいんですか?」


「ああ。俺はもう決めてあるからな」


「まだここに来てから一分もたってないですよ。もしかして、前からこのお店知ってたのです?」


「いや、今日初めて来たよ。俺はこれにする」


 服は着れればいい。

 防具は頑丈さも多少は考慮しなくてはいけないが、服はなんでもいい。

 一番最初に目についた服を二着持った。

 ズボンも同じように選ぶ、というよりも取る。


「魔王様決めるの早いね」


「まあな、速度だけならだれにも負けないさ」


 そう言って笑っていると、店員が戻ってきた。


「おまたせしました。こちらの三着がピッタリだと思いますよ!」


「全部かわいい! これは試着してもいいの?」


「うん、あそこの個室で着替えてね」


「それじゃあ魔王様着替えるね!」


「わかった」


 俺も個室の前までついていく。

 決してやましい気持ちがあるとかではない。

 たぶんないだろうけどまた誘拐でもされたらたまったものじゃないからな。


「えーと、これ取って最後にこうして。できた!」


 マーシャがカーテンを開けた。


「魔王様どうかな? 似合ってる?」


「ああ、すごい似合ってる」


 オレンジ色のシャツとピンクのスカート。

 マーシャにとてもあっている。


「やった! それじゃあこれにする!」


「そんなに早く決めていいのか? せっかくだし他のものも来てみたらどうだ?」


「いいの、魔王様がほめてくれたからこれがいい!」


 そう言ってマーシャはカーテンを閉めた。


「そういえばもう左手は大丈夫かな?」


 警備隊の人に軽く洗ってもらい、包帯を巻いてもらった。

 それを外してよく見てみたが傷は浅かったようで、もう止血されていた。

 動かしても……大丈夫だな、よかったよかった。


「魔王様お待たせ!」


「早かったな、それじゃあお会計するからちょっと待ってなさい」


「はーい」

 ……それにしてもちょっとばかし買いすぎてしまったか。

 会計の値段をみて少し後悔した。


「いやまてよ、そういえばさっきの兵士が報奨金くれるとかって言ってたよな。服代の足しになるくらい出てくれないかな」


 明日の報奨金を楽しみにしながら店から出る。


「魔王様、謝らなきゃいけないことがあるんだけど」


 歩いているとさっきとは変わって申し訳なさそうに言う。


「別に怒ったりしないから何でも言ってみろ」


「ジュース買ってくるって言ったのに、帰り道のどこかで落としちゃったみたいなの」


「それならマーシャを探すときに見つけたよ。宿の近くに立てかけておいたから多分まだあるはずだ」


「そうだったんだ。ありがとう魔王様!」


 マーシャはそう言って抱き着いてきた。


「やめろマーシャ、今抱き着かれるとバランスが崩れる」


「ああそっか。せっかく新しい服買ったのにまた汚れちゃうところだった」


「さすがにこっちも汚れたらたまったものじゃないからな」


 離していて思い出したが、マーシャの服も俺の服も汚れているんだったよな。

 念のため着替えてからご飯にしたほうがいいよな。


「あっ私のカバン置いといてくれたんだ!」


 宿につくと、マーシャがかばんに駆け寄っていった。

 とりあえず無事に帰ってこれてよかった。


「魔王様ありがとう」


「そんな感謝されるようなことはしてないぞ。それより早く中に入ろう、外は寒い」


「はーい、魔王様」


 あとをついてくるマーシャはかばんを両手で大事そうに持っていた。

 お気に入りのものだったんだな、何はともあれ無事に帰ってこれてよかった。あの時はどうなることかと思ったし。


 部屋に入ってとりあえず荷物を置く。


「はー汗かいちゃったし着替えよう」


 マーシャは買ってきた服を持ってすぐに服を脱ぎ始めた。


「マーシャ、さすがに何かで隠してくれ。それかどっか別の場所で着替えてくれ」


「えー。すぐに終わるしいいじゃん」


 そう言いながらズボンに手をかけている。


「あー分かったから、着替え終わったら教えてくれ」


 着替えをやめさせるのは無理だと分かったので、俺は目をつむった。

 意識しなければいいだけなのかもしれないが、目の前で着替えられたらいやでも気になってしまう。


「魔王様ー。これ同じ服が二着あるんだけどどっち着たらいいかな?」


「洗濯用で二つずつ買っておいたんだ。別にどっちからでもいいぞ」


「そんなこと言わずにどっちか言ってほしいな」


 声からにやけているのが伝わってくる。

 俺が困ってるのを楽しんでいるのか?


「どうしても行ってくれないんだ。それじゃあ右か左でもいいから」


「それじゃあ右がいい。これで満足か?」


「右ねわかった! もう着たよ」


 ああ助かった。

 目を閉じているだけなら平気だが、服を脱いでいる音、はいている音のせいで目の前で何が起こっているのかを想像してしまった。


「やっぱりその服に合ってるな」


「魔王様はなんでもほめてくれるよね! うれしい!」


「そりゃあ似合ってるからな」

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