第18話 レース後


今後伝説の新馬戦として長く語り継がれるであろうレースが終わった。

勝ち馬はレース前から本命しされていたサイレンススタート、2歳馬にしてコースレコードを更新してしまったハイパフォーマンス。



新馬戦としてはかなりのハイペースで逃げながら何と自身の上がり三ハロンは33.0秒。一級品の差し馬の切れ味を逃げながら披露したのだ!



しかしこのレースを見た者の殆どはレース前にはシンガリ人気。血統も厩舎も地味で、新人騎手のデビュー戦と全く期待されていなかった馬の衝撃の末脚に驚いていた。



スタートで出遅れて行き脚もつかなかった同馬は、徐々にスピードに乗るも直線残り400mの時点で先頭のサイレンススタートとは70メートルほども後方に位置していたのだ。レース後に勝利した息子を迎えに待っていた祐一だが、頭の中はフラッシュフォワードのことでいっぱいだった。


「いったい奴の上がりは何秒だったんだ?!」



祐翠がレースから帰ってきて祐一が迎える。


「サイレンスの様子は?」


「親父…ああ、サイレンスは大丈夫だよ…」



大本命馬のおもやの辛勝に祐翠の表情は優れなかった。

そんな息子の気持ちに気づいた祐一。


「勝ったのはお前だぞ暗い顔するな!」



普段厳しい物言いを全くしない父親の激に我に帰った祐翠。


「ああ、そうだよね。」


祐翠は胸を張って同馬のオーナーに顔を向けた。

そして2着に負けてしまった風切もレースから帰ってきた。

フラッシュフォワードの調教師の一八。


「惜しかったな春馬。」


「あ…申し訳ありません。スタート出遅れが全てです。」


「いやこの馬は元々出脚はつかない馬だからな気にするな。」



自分の厩舎の新人騎手のデビュー戦を労う一八調教師だったが正直な気持ちは違った。


「(春馬には悪いが正直勝ち切って欲しかった。あれだけの脚を使ったんだダメージが心配だ伝説)」



その心配の通りフラッシュフォワードは脚だけでなく全身が震えて辛そうな状態で、それを察した風切はゆっくりと帰ってきていた。


「ともあれお前もフラッシュもこれからだ春馬!」


一八調教師は春馬の頭を掴みながらそう言った。

そんな春馬や祐翠という新人騎手の大活躍を騎手ルームで出迎える珍念と小和田。

2人が同時に帰ってきた。


「祐翠くんおめでとう!…春馬くんは残念だったね…」


「ああ!珍念ありがとう!」


「珍念サンキュー!」


負けた春馬も珍念の言葉に感謝を示す。


「うん、危うく風切くんには初勝利先を越されちゃうところだったよ」


珍念は風切を励ます為に自虐で笑いを誘う。

風切・祐翠「え?!」


2人は同時に驚いた。

「あれ?珍念ってまだレースで勝ったことないんだっけ?」


祐翠は恐る恐る質問した。

「う…うん。知らなかったっけ?」


場が凍りついた。

そんな空気を察した珍念。


「あれ?みんなどうしたの?笑ってよ??」


「…笑えねぇな………」


「ああ…」


後に新たな伝説と言われる新馬戦が終わった!

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