第12話 決着



後方から上がってくる馬を無警戒していた祐翠とアニバーサリーが同時に驚く。

「ザルカバード?!」



このレース参加馬の中でも小柄な3歳牝馬が自分より大きな馬達にぶつかりながら上がってきた。その身体には無数の擦り傷が出来ている。


(M.アニバーサリー)「転倒してもおかしくない危険な行為だぞ」

(C.スミヨシ)「勝利のためにはこれくらいのリスクは仕方ないさ」


馬群を抜け出しシルバーグレイトとシーズンスターズに向かって伸びてくるザルカバード。アブソルートとの縮まらない差に心の折れかけていた2頭では今のザルカバードの勢いには太刀打ちできない。


2頭はあっさりとザルカバードに抜かれてしまう。

ザルカバードが完全に2番手に上がる。


「今の彼女の勢いならいける、勝負だジュニア!」


ザルカバード騎乗のスミヨシが先頭を捉えに行く!

ザルカバードがアブソルートとの差を徐々に縮めていく!


5馬身…4馬身…3馬身…


「このペースならゴール直前でアブソルートを捉えられる」


「まさか追ってくるのが彼女とはね意外だったよ」


「勝たせてもらうぞジュニア」


直線残り150m…ザルカバードが更に加速!

伝説の馬の不敗神話が遂に途切れるのか、このレースを見守る競馬ファン、全てのホースマンが感じた刹那ジュニアが呟いた。


「じゃあそろそろ追い出すかな?」


「はっ?!!!!!」


何とジュニアはここまでアブソルートを全力で追っていなかったのだ。ジュニアが左手に持っていたムチを右手に持ち替えた。

唖然とするスミヨシ。


「嘘だろ…」


ジュニアがムチを1発アブソルートに放つとすぐさま急加速。

それまでの他馬の争いが虚しくなるほど鮮やかに再び2番手のザルカバードとの差を広げ出した。


5馬身…6馬身…あっという間にふたたび着差を広げて行く。


強い…強すぎるアブソルート!圧倒的だあああああ』


この馬が現役である以上勝ち目はない、そう思わせるような圧倒的なパフォーマンスでレースを締め括った。


『アブソルート、今ゴールイン!何とこのレース6連覇!この馬は衰えるということを知らないのか!』


8歳にしてこのパフォーマンス、終わってみれば過去最高のメンバーと言われたこのレースを2着に8馬身差をつけるレコード勝ち。


2着でゴールしたザルカバード騎乗のスミヨシがジュニアに声をかける。

「完敗だよ、ジュニア!強いなアブソルートは」


「いやいやザルカバードも大したもんだよ、久しぶりにこの馬にムチを入れることになったからね」


「まさか今までのレースでは殆ど全力を出してなかった?」


アブソルートがムチを入れて加速させたのは僅か150mのみ。まだまだ余力充分なその姿に絶望感を抱いたものが殆どだった。


シルバーグレイトがゴールイン。

最終的には再びシーズンスターズにかわされて何とか4着でゴールしすぐさま停止した。


全身がヘロヘロで全精力を出し尽くしての完走だった。

そんな様子に騎乗の祐翠はすぐさま下馬し愛馬の健闘をねぎらった。

「お疲れ様グレイト。」


凱旋門賞が幕を閉じたーーー


最終結果

1着 アブソルート    レコード

2着 ザルカバード     8馬身

3着 シーズンスターズ   4馬身

4着 シルバーグレイト   1馬身2/3

5着 イーストオーバー   クビ

6着 バデイチ       ハナ

7着 セカンドオピニオン  アタマ

8着 ヴァンガード     2馬身

14着 メダリスト

17着 ダブルボンド

中止1頭

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