第9話 スタミナ自慢


2040年凱旋門賞ー煌びやかな衣装で着飾り、多くのセレブや大富豪たちが集まっている。しかし今夜の主役は彼らではない。

世界中から最強の競走馬になるべく集まった選りすぐりの競走馬18頭だ。



各陣営が天塩にかけて育てあげた馬たちは皆素晴らしい馬体をしている。それは煌びやかな衣装を纏ったセレブ達にも負けないものだった。

この大舞台に日本のダービー馬と我が子を送る祐一調教師。


「よしそろそろ入場だ、祐翠」


父親の祐一の言葉を聞いて、愛馬のシルバーグレイトにまたがる祐翠。


「おやじ、頂点に挑んでくるぜ。」


「おう!行ってこい!」



競馬場に向かう道中、ザルカバード騎乗のC.スミヨシ騎手が話しかけて来た。


「ジャパニーズボーイ!いい馬に乗ってるな。この馬の脚質は何なんだい?」


「いや、レース前に手の内明かす馬鹿はいませんよ。」


「はは、それはそうだな。しかもスタートのうまくないその子じゃ、差すかジャパンのダービーのようにマクるくらいしか選択肢はなさそうだしな。」


「しっかりチェックしてるじゃん。」



海外の競馬は日本と違ってゼッケンの番号と枠番が異なることが多い。ゼッケン番号は14番だが最内枠にはザルカバードが入った。


海外のレースは予定の時刻ぴったりにスタートしない。

各馬がゲートに入り次第レースがスタートする。

大レースといえどいつの間にかスタートするのが海外レースの特徴とも言えるだろう。


ピピピという音がなり、各馬が一斉に飛び出す。

日本の競馬と違いスタートの練習をしない海外の馬はあまりスタートがうまい馬は多くはない。



そんな中、絶好のスタートを切ったのはシーズンスターズ。

しかし本来差し馬の同馬は徐々にポジションを下げて中団まで下がっていく。



『先頭争いを制したのは、アブソルート陣営がラビット馬として用意したタンクバード』



2番手はメダリスト、それにダブルボンドの日本馬が続く。

その後に王者アブソルートが陣取った。

5〜8番手集団からアブソルートを見るようにセカンドオピニオン。9番手以下にバデイチ、ヴァンガード、イーストオーバーなどの息子達と下がってきたシーズンスターズが集まっていた。



そして最後尾に2頭、追い込み馬のザルカバードとここでもスタートが遅れてしまったシルバーグレイトというポジションに収まった。海外の馬に混ざってもシルバーグレイトのスタートはヘタなほうであった。



海外の競馬は極力道中のロスを無くす為に内枠ギリギリを各馬共回る為、2列の細長い馬群でレースは進んでいく。



差し馬には不利とされる凱旋門賞、中団以降の馬にとってはいつ仕掛けるかがレースの鍵になってくる。



メダリスト騎乗の横川和也騎手。

「予定通りのポジションに付けた。これはチャンスあるぞ。」


ダブルボンド騎乗の大和田竜二騎手。

「スタミナ勝負なら俺にも。」


アブソルート騎乗のR.ムーアJr.。

「‥‥‥」


セカンドオピニオン騎乗のK.ジェームス。

「今度こそ負けんぞジュニア」


バデイチ騎乗のエミネム騎手。

「スミヨシからの乗り替わり、このチャンス活かす」


ヴァンガード騎乗のD.リラード騎手。

「シルバーグレイトハドコダ?」


イーストオーバー騎乗のギーン騎手。

「ミドルペースだな…」


ザルカバード騎乗のC.スミヨシ騎手。

「どうするんだい祐翠?」


祐翠に話しかけるスミヨシ。

ザルカバードの外を走行するシルバーグレイトは以前最後尾。

各馬大きな変動のないままレースは終盤へ進む。


フォルスストレートこの後に待っている直線の前に待ち構える偽りの直線と言われるもので、ここで仕掛けてはいけないと言われるところ。しかし、祐翠はここでいく!


フォルスストレートで動いた祐翠を見て珍念が興奮している。

「祐翠くんいった!ダービーの再現だ!」


レースを一緒に観戦している祐翠の同期の他の騎手達の中には、無謀だという声を発するものもいたが、同期の風切はそれに反論する。


「常識に囚われていてはあの馬には勝てない。」


ぐんぐんポジションを上げていくシルバーグレイト。

それを見て、中団にいた有力馬も一緒に上がっていく。


D.リラード「ボクモイクヨ‥」


先頭集団のペースは変わらない。

そのため隊列は徐々に外に広がっていく。


最後の直線手前、先行集団の日本馬2頭がアブソルートより早めに仕掛けようと動きだす。


しかし…


ダブルボンド騎乗の大和田が自分の馬の変化に気づく。

「手応えが悪い、スタミナ自慢のこの馬が?!」


大和田は2番手から先頭に抜け出したメダリストの手応えを確認。

メダリストの手応えもいまいちな事に気づく。

横川「……くそっ」


馬なりで上がっていくアブソルートになんとかついていくメダリスト。

横川「ここまで差があるのか」


日本のG1の最長距離の春の天皇賞を先行して1、2着したスタミナ自慢の2頭が直線手前ですでに着いていくことが難しくなっていた。


ラビット馬と2頭をパスしてアブソルートが先頭に踊り出た!

「さあどの馬が来る?!」


そこに1頭の馬がアブソルートに向かって伸びてきた!


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