フロートがなくなる前に

@uminosoto_999

第1話 

田舎ってやつは何もなさ過ぎて驚くものだ。青春時代をこんな土地で過ごしていたのは我ながらすごいことなのでは、と思う。まあ、何もないと言いつつももちろん何かはある。海がある。山がある。畑・田がある。うむ、やはり何もないと説明するのが正解だろう。僕の地元はそんな田舎である。そんな田舎で過ごした日々を昨日のことのように思い出す。普通に生きているだけなら思い出すことなんてあるはずがないが(決して地元が嫌いなわけではない)、今回ばかりは思い出さざるを得ないだろう。まあ、地元を振り返れるくらいには元気になってきたということだ。2か月前に知らない番号からの連絡があった。そこから世界は悲劇に包まれる。いや、悲劇をすでに起こっているものであり、僕の中での悲劇ということだ。どうして彼女は死ななければならなかったのか、誰も教えてくれなかった。


 「お久しぶりです」

 「久しぶり、こんな形で再開するなんて嫌ね」

 「そうですね、できれば会いたくなかったです」

 「失礼なこと言うのね。まあそう思うのは無理ないわ」

 「どうして加奈子はあんな目に合わなきゃいけなかったんですか」


加奈子は僕が高校生の頃から好きだった、大切な人。高校を卒業してからは進路も違ったから会う機会はなかった。大学に入学していろんな人と話したり付き合ったりもした。でも、加奈子以上に美しくてかわいくて、魅力的な人なんていない。僕は高校生ながらに加奈子が運命の人だなんて本気で思っていた。そんな風に思っていたのはもちろん僕だけだ。加奈子は僕なんかが付き合えるような人ではない。勉強をやらせれば学年1位、運動をやらせれば校内どころか県大会で1位になってしまうような人だ。性格はもちろん誰にでも優しくて生徒会長もこなしてもう非の打ち所がない。誰もが憧れる存在だった。


 「私だって知りたいわよ。とにかく中に入りましょう」

 「そうですね、行きましょうか」


お互いにまったく様になっていない、真っ黒な服でお線香の香りに包まれていく。

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