第1章 王都襲撃(マリック攻略ルート編)
第2話最初のイベント
ゲームの中の物語における1番最初のイベントは魔猿の王都襲撃である。マリックという登場人物の攻略ルートにも当たるこのイベントで王都は壊滅的な被害を受けかける。ここで物語の主人公はマリックという登場人物を命の危機から救うのだが、、、エルザも別の場所で王都を救うほどの英雄的な活躍をしている。エルザがいなかったらマケドニア王国はなくなっていたと言われるほどだ。そして、この言葉は次のように言い換えられる。私がこの国を救うほどの活躍をしなければ、マケドニア王国は詰む。
もともと人生をかけてゲームをやりこんでいたおかげで魔法の呪文はすぐ覚えられた。ただ問題はすぐにパソコンのボタンを押すように体がプログラミングされていることである。魔法を打ちたい、という場面が来ると自然と指が動いてしまう。
「炎よ、私の魔力を贄にし現出せよ」
私がそう唱えると巨大な炎が私の身体を渦を巻きながら包み始める。
「流石お嬢様です」
ローラはそう言って誉めてくれる。でもこれは元の身体の力であって、私が自身の努力で掴んだ力ではない。私は中古で買ったゲームソフトにラスボス前まで進めてあったセーブデータがあったならばそれは全部消して最初から進めるタイプである。少しむずがゆい。複雑な気持ちだ。ゲームの世界に来てしまった以上、最初のステータスはなるべく高い方がいいんだけどね。
「問題は実戦経験だな」
ローラに聞かれてつっこまれても困るので聞かれない程度に小声でつぶやく。
「ところでお嬢様、もうそろそろ17歳のお誕生日ですね」
「ええ、そうね」
ちなみにシナリオ内に描かれているのは17歳からなのでここからが激動の一年というわけだ。
「魔法中期試験の準備はできておられますか?」
魔法中期試験、貴族の子息が17歳になったならば一年以内に受けるのを義務付けられている試験である。魔法と頭についているがその内容は歴史、剣技、簿記、など多岐に渡る。この試験によって職業への適性を決定されることになり、そのあとの進路が決まる、たしかこんな感じだった。でも今の私には正直どうでもいい。なぜならここでも事件が起きて魔法中期試験は存在そのものがなくなるからである。
「そうね、万端よ」
「そうですか、流石お嬢様です」
メイドのローラは目を輝かせてまたそう言った。そういえば彼女は原作でもエルザの狂信的な信者だったな。
ゲームでのエルザ・ローゼンタールはプレイした人の心をつかむと同時に、ゲームの中でもその強さと容貌から男子女子問わず人気があった。彼女の炎魔法は既にこの世界でも到達している者が一握りしかいないぐらいの領域に到達しているといっても過言ではないだろう。やはり最強格の敵というのにふさわしい。どうにか彼女の力を使いこなさなければ。
「こんにちはマリック様」
「……君はだれだ?」
傍目から見ても容貌麗しい男女が会話をしている。主人公のマレーヌと攻略対象であるマリックだ。私はそれを覗いていた。学校の天井のダクトから。これがゲームの中での一番初めの出会いだったなあ、と私は埃っぽい天井のダクトから感動していた。高い身長とその少し静かで冷徹な人を寄せ付けようとしない声、腰に差した大剣。すべてが好きだ、ゲームの中のキャラクターが目の前にいるという現実に涙が止まらない。画面そのまま目の前にいるのだ、重度の乙女ゲーオタクにとってこんな幸せがあろうか。
「マレーヌ、といいます。どうぞよろしく」
どうやらマレーヌは一番目の選択肢を選んだらしい。いいぞ、そのままマリックからの好感度を稼ぎ続けろ。
「そうか、俺に自己紹介をするのは無駄なことだぞ。どうでもいいことはどうせ覚えていないからな」
相変わらずムカつくほど冷淡な男だが、それがいい!!冷徹仮面系はこうでないと。デレたときの感動はより素晴らしくなる。
「わかったわ、じゃああんたの名前も忘れてあげる」
「そうしてくれ」
「え?????」
二人が去って、別れようとした時私はつい声を出してしまった。声の出所を探られないように天井のダクトから出していた顔を隠す。いや、おかしい。
「ちゅう、ちゅうちゅう」
「なんだ、ネズミか」
「天井のダクトに人が隠れているわけないか」
二人がそのまま去ると私の頭は目の前の事象を理解できずにいまだ混乱していた。
「わかったわ、じゃああんたの名前も忘れてあげる」
こんなセリフは作中に存在していない。選択肢にもない。言ってみて分かった。私がゲームのセリフを忘れているはずがない。つまり、あのマレーヌは作中に出ているマレーヌではない????どういうことなのだろう。もしかして私が来たことでこの世界の何かが変わっているのではないか。様々なことを考えてしまう。
もし、彼女の言動でこの世界の流れがゲームと変わってしまったら、、、私は助かるかもしれない。けれど主人公の行動が読めないというのはこの世界でなにが起こるのかわからないということでもあり諸刃の剣だ。注意するようにしなければ。
私は彼女の行動を心にとめることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます