72.1番大きいダンジョンに行ってみた!(1番新しくもあるみたい!)


『ふー! おつマイリー! なんとか魔物を全部倒しましたー! いや〜疲れたね! お肉食べた〜い』


 頭に乗っているオーデュイがにょいーんとスライムの腕を伸ばし、自撮り風に吾妻を撮影していた。

 吾妻はカメラに向かって、生配信を観ている人に話しかけている。

 目の前にまだSS級異端者がいるというのに。


(意味わかんない……ホタルのファンを一人で全部倒したの……⁉︎)


 彼女は明らかに強くなり過ぎていた。

 それは自覚なく(本人は最初からそう思っていたが)、東もこれほどまでとは気付いていない。


(ありえない! ただの人間がここまで戦えるわけない! 何か理由が……っ、ちょっと待ってこの力……)


 彼女に内包された秘密に気付いたホタルはステージ上から話しかける。


『ねぇ。もしかしてイズモダンジョンに行った?』

『ん? うん! そだよ! って、何で知ってるの⁉︎』


 吾妻も驚くが、それ以上に既にSS級ダンジョンに行って帰って来たことに驚く視聴者たち。

 誰も疑うことはなく、みんなが素直に吾妻を褒め讃えていた。


(やっぱり、ソウシが手を加えたんだ……! もしかしてこの女が先導者たる器……)




『……認めたくない』

『みんなコメントありがとー! ……え?』


 呑気にコメント返していると、再び地面が揺れ出す。


「マ、マイマイ! もしかしてだけど……あの子も動画出演したいのかも⁉︎」

『そうかも! オーデュイ天才だ! ホタルちゃんだっけ。一緒に動画出ようよ! ほら、ホタルちゃんのコメントもあるよ!』


 オーデュイが見当違いを伝え、全力で間違いに乗っかる吾妻。

 すると、ホタルは少しだけ怒りを抑える。と、同時に揺れも小さくなる。


『……なんて?』

『【ホタルちゃんかわいい!】とか!』

「【ホタルちゃん強くてカッコいい】もあるよ!」


 ちょっと気を良くしたホタルは、もっと見せて欲しいと吾妻に近寄りコメント欄を覗いた。


『……確かにそうコメントある』

『でしょ! じゃあさ、これから──』

『でも! お前の方がかわいいってコメント多い‼︎ ホタルが1番じゃないとイヤだぁ‼︎ ふんっ‼︎』


 吾妻を回し蹴りして飛ばしたホタルが激情する。それに合わせて世界がまた揺れる。


「マイマイ大丈夫⁉︎」

『うん! オーデュイ守ってくれてありがとね!』


 オーデュイが瞬時に体を広げ、クッション材として吾妻の身を守った。

 コメント欄も【優秀過ぎる宝具!】として、オーデュイは称賛された。

 そう、視聴者にはオーデュイを魔物ではなく、喋るスライム型宝具として通している。

 無理がある設定だが……何故かマイマイファンは信じてくれている。


『ホタルが1番妹で可愛くて、完璧で究極のアイドルなの! そんなの分かってくれないなんて……もう直接魅了してあげる』


 ホタルが右手を突き上げると、体中に魔法陣が浮かび上がる。


『おぉ⁉︎ 光るタトゥーだ!』

『ハザマおにいちゃんたちがね、ホタルのために準備してくれたの。たくさんのファンが見てくれるステージを……! おにいちゃんがいっぱいできるよって!』


 そして、アキハバラダンジョンは崩壊した。



   ◇ ◇ ◇



「……うっ、動けませんわ。早くここから立ち去らないと……」


 ハザマとの戦闘を終えた植山は、疲労と傷により行動不能となり仰向けに倒れていた。

 しかし、崩落の音は無常にも近付いていた。

 このままいれば確実に巻き込まれる。


(わたくしはここまでしたか……申し訳ありません、皆様方。そして、爺や、中島、優見……!)


 迫る天井に、死期を悟った植山は目をギュッと閉じた。


「……あら? まぁ、猛李王さん」


 目を開けるとそこには、落ちてきた瓦礫を大剣で防いだ猛李王がいた。


「……痛い」

「猛李王さんのお陰で助かりましたわ。ありがとうございます」


 植山のお礼に、猛李王は目を逸らることで答えた。


「……立てるか」

「それが、まだ動けそうになくて……その、お願いがあるのですが……」


 そのお願いとは、動けない植山の足代わりとなること。

 つまり、正座した植山をその姿勢のまま運ぶのだ。


「ふふっ、少し前まで優見にこうやって運んでもらっていたのになんだか懐かしいですわ」


 猛李王は初めて女性と密着(?)したことで、今一番死にそうになっていた。


「……っ⁉︎ あの方が消えてますわね」


 倒したはずのハザマがいない。

 かなり気掛かりではあったが、このままいては二人とも危険なため、植山は猛李王に抱えられながらその場を脱出した。



   ◇ ◇ ◇



 渋谷、スクランブル交差点。

 異端者6人を討伐した永田は残った魔物を殲滅した後、他の探求省職員と合流していた。

 異端者たちは捕縛され、既に護送された後だ。

 もう一人、事前に報告を受けていた下戸幽鬼の所在だけ不明だが、ひとまず仕事は終了していた。


「……引き続き一般人の避難誘導を──」


『──みんなー! ホタルのライブに来てくれてありがとー♪』


 砂嵐が映し出された後、突如として渋谷の広告ビジョンにホタルが登場した。

 それだけじゃない、渋谷の……都内中の広告ビジョンやデジタルサイネージ。さらにはテレビやスマホに同様の動画が流れていた。


「なんだ……? ……っ⁉︎」


 地震が起きた。

 それに伴って、渋谷10Q──シブヤダンジョンの入り口から空に向かって光の柱が立ち昇る。

 それが他の場所からもいくつも確認された。

 光の柱が空で繋がり、いずれオーロラのように移り変わる色をした膜が東京の空を覆っていた。



   ◇ ◇ ◇



「……ハハッ……何も終わっちゃいない。むしろこっからや」


 ダンジョンにを見上げながらそう呟いた。ハザマは壁にもたれかかり、戦闘で負った傷を庇っていた。


「デモで注目を集めて東京に人を集める……でもって、洗脳した探求省の連中や魔物を使って、逃げれんよう東京の内に内にと追い込んでいった」


 ハザマが下戸を使役し準備させたのは、術式を仕掛けた石などをのダンジョンに置くことだった。


「エンタメには仕込みが大事なんや。ほんま大変やったでぇー、東京のダンジョンを繋ぎ、一つにする術式なんて。やったことないっちゅーねん! ハハッ……ほんま、先生の考え分からんわーって先に宣誓しときゃよかったわ」


 東京23区それぞれに存在する、23のダンジョンを崩壊させ、アキハバラダンジョン異端者の能力で大きな一つのダンジョンに組み替える。


「……世界中にダンジョンを生み出す。ワシらの目的が叶いそうやわ。そのためにも人間には、生贄として死んでもらわなあかんな。このトウキョウダンジョンでなぁ……‼︎」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る