ダンジョンストリーマー‼︎ 〜人気急上昇中のJK配信者はチート級に強い──ではなく、全て倒してるのは裏方の俺〜
65.人生の99%は思い込み!あ〜、みんなマイマイチャンネルを登録しないといけない気がする〜
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「──三昌奏と松實幸はお互いに守らないと思わされている……。すみません、どういうことですか、溝口管理官」
「そのままの意味っすよ。永田管理官。幸ちゃんは幼児退行、奏ちゃんは不眠症と記憶障害があるっす。だから守ってあげないといけないっすよね?」
数年前、異動の指示が下され永田。
探求省内に隠された研究所へと溝口に呼ばれた彼は、真実を聞かされていた。
「……うぅー、マジであの二人の記憶は大作だったぁ……はぁ、金ないー……」
部屋にあるベッドには遠藤美春が勝手に寝ていた。
彼女も関係するので、呼ばれたわけだが。
「あの二人は遠藤管理官の宝具で記憶を上書きされてるわけですね」
宝具:オーバーコートタブレット。
遠藤はオバタブと略して呼ぶ、ペンタブ型の宝具。
対象を登場人物として漫画を描くことで、描かれた内容があたかも存在していた記憶として対象に上書きすることができる能力を持つ。
規模や、現実と乖離するほどに求められるクオリティやページ数が増えていき、縛りとして締切が短くなるなど、連発することはできないが、完成すれば確実に強力な効果を発揮する。
ダンジョンが各地で発見された頃、早々に政府がこの宝具を押収したことで、今日まで情報操作が思い通りになった。
「そゆことっす。あの二人は失うわけにはいかないっすからね〜。最高傑作っすから」
「……人の手で生み出された異端者、ですか」
松實と三昌はそれぞれ天涯孤独の身だった。
17年前、まだ門番も探索者もいなかった時は、外に出た魔物に近隣住民が襲われる事件が多発した。
これにより、取り残されてしまった子供を政府が引き取り、そして──
「子供たちに魔晶石を埋め込み、どのような影響を及ぼすかを実験した」
「その通りっす。ビワダンジョンで異端者の存在が確認されて以降、運動能力や回復力の高い者、優れた第六感の持ち主など。異端者が確認されては捕縛され、実験と拷問が繰り返されたっす。これを自分たちで作り出せないか……好奇心は倫理観を凌駕するもんすからねー」
多くの子供達が異端者化の実験に巻き込まれ、残ったのはたったの三人だった。
松實と三昌。もう一人男の子がいたらしいが、彼は脱走して行方をくらませている。
先述した後遺症は残ったものの、一般人よりは高い頑丈さを持つようになった。
だから、松實が骨折した時も、寝れば3日ほどで完治した。
「それが探求省が抱える闇……」
「勘違いしないでくださいっすよ。うちらは関係ないっすからね。引き継ぎはされたっすけど」
「ぐがー!」と、遠藤は騒音級の寝言を立てて寝る。
異端者や宝具を使い、金や権力などを総取りして支配しようとしていた害は、途中入省した下谷によって一掃された。
しかし、人権侵害にあたる国際的な問題に下谷は、国内外から批判され、体制が整う前に隙をつかれて国民にさらなる被害がもたらされるのを防ぐために、宝具:オバタブを使って闇を丸ごと奥底にしまい込んだ。
「いいっすか。永田管理官。彼女たちは自分たちのことを何も知らないっす。無理に真実を伝えても、記憶と違う現実におかしくなってしまうのはあの子達の方すから。まぁ、元々おかしな子達だったすけど。ただ、二人はこの世界を変える要になる、探求省の財産すから。くれぐれも壊れぬよう、世話をするっす」
そして、二人の管理を任された永田には宝具:ディサラレーションが渡された。
何かあれば、これで動きを制限しろとのことだ。
彼は松實たちをとても可哀想だと感じた。
大切な思春期を奪われて、記憶を上書きされて、身体は成長するのにいつまでも大人にはなれずに、探求省内に縛られる。
「とわくんこれ見てみてー! この動画ー! ダンジョンってのがあってねー、配信してるんだってー!」
普段勉強しない松實のために、NewTubeで勉強できる動画を見せていたはずだが、いつの間にかよそ見をしていたみたいだ。
生き生きと永田に見せてきたのは今は過去の探索者。吾妻大悟の動画。
「ワタシも冒険してみたいな〜。ねー、さんしょーちゃん!」
「……まぁ、松實がいなければ」
「うぇ〜、本当は一緒がいいくせに〜」
「うるせぇ!」
四六時中、自由のない彼女たちを管理していて、永田は情を湧かざるを得なかった。
「……すみません、お願いします。彼女たちと共にダンジョンに行かせてください」
数年後、永田は下谷に頭を下げた。
「いいだろう」
「すみません、僕が責任を持って見ます。何かあれば僕が彼女たちを守ります。何かあれば……僕が彼女たちを殺します。だから……! え?」
「長々と喋ったな。構わない。最近はVNewTuberなる手法があってだな。モーションキャプチャーで動きを分析すれば、今の彼女たちのデータも取れる良い機会となる。顔出しはできないが配信活動も可能だ」
下谷からあっさりと期待以上の許可を得て、彼女たちは探索官に役職を変えて、ダンジョンを攻略するようになった。
ちなみに、松實が三昌の本名を言っても問題にならないのは、名前が探求省に与えられたもので、調べても出ないから。
永田の努力もあって、今では制限も少しずつ緩和されるようになり、松實と三昌は不自由ない生活を送れるようになった。
「いいのですか、ボス?」
永田が去った後、繁長は下谷に質問した。
「ああ、大丈夫だ。記憶になくとも、彼女たちには堪え難いことを強いてしまった。それくらい許さねば、誰が私達を赦すだろうか。……それに、永田管理官なら心配ない。彼は、元S級探索者だからな」
◇ ◇ ◇
「はぁ、二人だけで本当に大丈夫ですかね。すぐ油断するし」
時は進み、渋谷スクランブル交差点。
「僕は裏方志望だったのですが。これで彼女たちのサポートできているなら、たまに動くのも悪くないですね」
倒れる六人の異端者を横目に、ヘルメットを被ったままの永田は日が沈む空を見上げた。
(……つ、強すぎる……! ひ、一人で異端者六人やっつけた、たた……⁉︎ ば、バレてないし、逃げよっ……)
下戸は始終ずっと見ていたが、敵うはずないと諦めて遠くまで退散していった。
◇ ◇ ◇
「よーし! マイマイのとこいこー!」
藤岡を撃破した松實と三昌。
交換した宝具も返し、次行く方向を決める。
「よし、こっちだな」
「じゃあ、逆だー。さんしょーちゃん方向音痴だもんねー」
「お前よりマシだから。ったく……、道がいっぱいだし。じゃあ間をとってこっち──」
「──ねぇ、さんしょーちゃん」
「ん? なに、っ──ぁ、ゲホッ……⁉︎」
呼ばれて振り返った三昌の腹に刺さる、幅の広い刀。
彼女を刺したのは……松實幸だった。
「ま、松實……おまえっ……っ⁉︎」
そして、松實の後ろでのそりと立ち上がる藤岡の姿があった。
「くそっ……‼︎」
「及第点です。しかし、先生に手をあげるとは、とんだ不良児たちだ」
衣服に汚れはあっても、付けたはずの傷はもう何もなかった。
白湯華のような宝具の使用形跡もない。
ただ、彼自身の回復力が再び立ち上がらせた。
「あれ、さんしょーちゃん……あれ、あれれ……」
「松實に何をした‼︎」
「教育ですよ。更生のための教育です」
藤岡が松實の両肩に手を置くと、彼女は言葉を失い俯く。
「実は私は、NewTubeでいくつか教育系のチャンネルを所有しておりましてね。その内の一つを、彼女はたくさん視聴してくれてたのでしょう。私の自慢の生徒です」
「うん、ワタシ数学できるもん……」
生気なくボソボソと呟く松實に、三昌はある事実に気付く。
「洗脳を配信……っ⁉︎ まさか松實が……!」
「〝無意識な裏切り者〟です。あなたたちにとってね」
聞きつけた情報を全て横流しにし、重要機密を盗み送っていた犯人。
それは松實幸だった。
「松實さん、よくできましたね。満点まで後少しです。目の前の友人にトドメを刺しなさい」
松實が二本の剣を握り締め、三昌にじわじわと迫っていく。
「──ははっ……あはははは‼︎ なんだよ松實ぃ、洗脳されてんのかよぉ……だったら脳みそ洗って戻してやんないとなぁ!」
「んー、ねみゅいー……。さんしょーちゃんも一緒に
ハイになった三昌は血が流れ出るのも気にせず立ち向かう。
日は沈み、長い夜が始まる。
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