第四部 振り返りマイマイ
ビワダンジョン
39.【人は話し方が9割】あとは元気が10割!会議はダンス、されどアズマイリ!
「いやぁ〜ひさしぶりの会議だねぇ〜。みんなワタシに会いたくてたまらなかったんだろうなぁ〜」
「違うから」
「えぇー、でもさんしょーちゃんはワタシに会いたかったよねー。だって毎日お見舞い来てくれたもんねー!」
「おめぇがいねぇと、仕事できねぇんだよ」
「さんしょーちゃんが照れてる〜」
「照れてねぇよ!」
「すみません、静かにしてください。もう会議室入りますよ」
黒いスーツ姿に身を包んだ永田、松實、三昌は探究省の長い廊下を進んでいた。
松實は退院したが、まだ腕にギプスを付けている。ただ、調子の良さは変わらない。
「──来たか」
「失礼します」
探究省会議室。
部屋の奥に座するのは、探究省大臣、
体のあちこちに古傷を抱える、十数年前はトップ探索者の一人として名を馳せていた人物である。
「みんな見てみてー! ワタシ骨折したんだよぉ⁉︎ ほらぁ!」
「松實さん、もう少し落ち着きなさい。今年いくつですか」
「にじゅきゅ! ワタシのチームでは一番お姉さんだからなぁ〜、頼られて困っちまうぜ」
下谷の傍に立つ、仕事のできるカッコいい女性代表のような風貌の
「お前、今年まだ28だろ」
「あれーそうだっけー?」
「1、2才上なだけで調子乗るなよ」
「さんしょーこーはい〜、チョコ奢ってあげようか〜?」
「うるせぇ! 私チョコ嫌いだわ‼︎」
「静粛に」
下谷の低音が響く渋い声に二人は黙る。
会議室には性別年齢層がバラバラの人達が多くいるが、みんなが等しく下谷に注目している。
それだけ人望が高い証拠だ。
「すみません下谷大臣、うちの者が失礼いたしました」
「ボスと呼べ」
「……ボス」
ただ、ちょっとだけ拘りは強い。
「今回、カルイザワダンジョン攻略の件、ご苦労であった。回収した宝具などは専門家に任せるとして──君たちが会敵した異端者について、詳しく報告してもらおう」
「はい」
永田はカルイザワダンジョンで遭遇した初瀬川について、東から教えてもらった情報と合わせて事細かに報告した。
松實が「ワタシの腕を折った悪いやつなの!」と口を挟むが、流されるくらいには重々しい雰囲気が場を支配する。
「──そうか。分かった。やはり異端者の活動が活発化してきているな」
「数も増えてきてるっす。うちに来てる子たちはみんな良い子なんすけどね。って、うちに来てるんだから、そりゃそうなんすけど」
異端者管理官──情報非公開の異端者を管理・監視するだけでなく、定期検診から彼らの健康の管理や能力把握。そして、これらを他の技術への転用できるかの研究など幅広く活動している。
「まぁ、ほとんどC級D級の子たちだから危険度は低いっすけど。問題なのは力がある子たちなんすよね?」
代表の
「ええ。現在探究省が確認しているS級ダンジョンの異端者は三人。永田探索官が遭遇したトットリダンジョンのジャスティスマンこと、戸籍名は初瀬川継嗣。彼はケーシィという歌い手としても活動しており、既にこちらはアカウント削除をしております」
「アァーずぎだっだのにぃ……また推しが消えた……悲じぃ!」
机に突っ伏してワンワン泣く女性。
パソコンやスマホ、ペンタブなどの電子機器から、アナログな書類まで、彼女の前だけ散らかっていて汚い。
「
「趣味だとぉ! これは私の人生だよぉ! 〆切明日までだから見逃せぇ!」
迷宮情報管理官──迷宮に関する多くの情報を取り扱う大事な仕事だが、現在情報は散乱。
ストレスで白くなった髪を掻きながら、会議にまで持って来た自身の同人誌を仕上げるのに手一杯だった。
「はぁ、続けます。他二人は放火系ストリーマーとして注目を集めるウメダダンジョン異端者、ハザマ。そして、顔出しこそしていませんが、洗脳系ストリーマーとして信奉を集めるキョウトダンジョンの異端者、
「そんなもんダンジョンを攻略したらいいじゃないか」
クイッと眼鏡を上げてから説明する繁長に口を挟んだのは、座っているのに立っているように見える男、
身長が230cmもあるのに痩せ型なので、マッチ棒を三つ折りしたみたいになっている。膝が机の上から出るくらい、ガニ股でないと座れない。
「おにいちゃんの言うとおり言うとおり! 攻略しちゃったら弱くなるなるんでしょ?
仲田圭介に肩車して座っているのが、
兄の半分、身長が115cmしかなく隣に用意されている席はファミレスで見かける子供用の椅子だ。
だが、彼女は23才であり、かつ今でも兄が大好き過ぎるブラコンなので、追いかけるように若くして探究省に入省し、仲田兄からは絶対に離れなかった。
「それが難しいからこそS級なんです」
「そんなの強い奴集めて、一つずつ潰せばいいだろ」
「おにいちゃんの言うとおり言うとおり〜!」
「リナリーリナリー! ワタシとさんしょーちゃんがいれば何でも攻略しちゃうよ!」
「………………」
「さんしょーちゃぁん! リナリーが無視する〜!」
「はいはい、黙れ」
仲田莉奈は兄を通さない限り直接は話せない。
彼ら兄妹もまた、松實たちと同じ探索官ではあるが、配信活動こそしていない。
「──永田探索官」
「はい」
「君は危険等級SS、ヨナグニダンジョンの異端者と共闘したらしいじゃないか。彼はどうだ。使えるか?」
「……彼は間違いなく信頼はできます。僕が保証します。ただ、彼は今、マイマイこと吾妻舞莉のマネージャーです。吾妻さんを守るためならばどんなことでも協力してくれますが、彼女を危険に晒すようなことをすれば、すぐに僕たちの敵に回ります」
「では、探究省の人間には、吾妻さんのサポートをするよう通達しておきましょう。……ボス、いかがなさいましたか?」
右腕を押さえる下谷は不適な笑みを浮かべていた。
「……吾妻か。懐かしい名だ……。右腕が疼くな……」
「ボス……(カッケー……‼︎ やっぱボスカッケーなぁ!
「あぁ、顔見知り程度にな」
(昨日、油はねしたとこ痛いな……揚げ物難しいな。あれは熱かったなぁ……)
下谷の傷はほとんどが自身のうっかりで付けたものである。
もちろん繁長含めて、誰もそれは知らない。
……そして、踊る会議室。
本当に踊る松實。
これら探究省の人間を見て、永田はこう思った。
(どうしてうちの人たちってこんなにも癖強いんだろうなぁ……)
謝り癖でもまだキャラが薄いほどに、ここにいるメンツはかなり濃かった。
改めて、この人たちと並ぶなら裏方でいいなと思い直した永田であった。
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