7.本物のお嬢様に会ってみた!【かわいい!】


 吾妻が悪漢に絡まれていたところを助けてくれた救世主メイド

 悪意は感じられないし信用に足る人物ではありそうだが……。

 一旦カメラを止め、俺は二人の元に向かう。


「あ、東くん! このメイドさんに連れてってもらえることになったよ! どうよ〜」

「ああ、見てた。うちの演者を助けてくれてありがとうございます」

「……声からして若い男性、とても落ち着いた話し方を致します。カメラを切った音と衣服が擦れる音、大きな荷物を持っていますね。会話の関係性から、あじゅま様と同じクラスメイトでダンジョンストリーマーをやっているのでしょうか?」


 音だけを聴いて、俺たちの情報を見事に当ててきた。

 やはりこの女性、何ものか。

 それなのに、吾妻を傷付けずに男たちだけを蹴り飛ばす正確さと身体能力。本当に何者だ?


「糸目メイドさんだね。カッコいいよね……!」と、吾妻が耳打ちしてくるが、こいつの方が何も見えてないようだ。


「お褒めの言葉ありがとうございます……はっ、お嬢様がお呼びです。それではあじゅま様、東様。失礼致します」


 吾妻のヒソヒソ声にも反応したメイドだったが、突然、何かに反応して一直線にどこかへ行く。


「あ、メイドさん……! 追いかけようよ、東くん!」


 俺の返事を待たずに吾妻は走り出したので、仕方なく追いかけるしかなかった。



   **



「お嬢様、お待たせして申し訳ございません」

「構いませんわ。わたくしはいつもゆとりがありますので。それに優見、あなたはまた誰かを助けたのでしょう? とても素晴らしいことよ。誇りに思いなさい」

「お褒めの言葉をいただき誠に光栄でございます。家宝に致します」

「……どうやってですの?」


「──いた!」


 結構な距離を移動すると、朱色の和傘パラソルが備わったガーデンテーブルセットに座る、緑色の着物……ドレスか? を着た見るからにお嬢様らしき人物がいた。

 傍らには先程のメイドだけでなく、白髪の執事や、マスク越しでも分かるほどに優しく微笑む男性、服装的におそらくシェフもいた。

 温泉地に来たというのに、この空間だけヨーロッパの世界観が広がっている……が、和に侵食されてもいる。


「どなた?」

「わたしはダンジョンストリーマーの吾妻舞莉です! こっちは諸々してくれる東くんです」


 説明が雑いが全くもって正しかった。


「あら、ではわたくしと同じですわね。〝アオイ嬢の優雅なひとときチャンネル〟の植山葵うえやま あおいと申します。こちらは爺やの保科凌聞ほしな りょうぶん、シェフの中島拓味なかじま たくみ。そして、メイドの大城優見おおしろ ゆうみ。わたくしの世話係兼バディですわ」


 お嬢様の植山が紹介すると、従者の三人もそれぞれ礼儀正しく挨拶してくれる。

 上品で優雅な立ち振る舞いに、吾妻は興味津々だ。


 チャンネル名を聞いて、他のチャンネル研究をしていた際に視聴した記憶があることを思い出した。

 確かここのチャンネル登録者数は3.8万人ほど。大体、西脇市や井原市の人口並みだな。俺たちみたいなどこの市町村にもなれない登録者数の100倍もファンがいる。

 動画内容はご覧の通り、お嬢様とそれに仕える裏方三人がダンジョンを優雅に攻略していき、そこで得たものを紹介する。

 いわば紹介系チャンネルだったはず。

 初攻略こそないが、A級ダンジョンに挑める実力はある四人組だ。

 それにしても付き人たちの顔を他で見かけた気がするのだが……。



「それで、何かわたくし達に用があるのかしら?」

「はい! わたしたちとハコネダンジョンに一緒に行って欲しいんです!」

「お断りいたします」

「ありがとう! じゃあ、さっそくええっ⁉︎」

「A級以上のライセンスカードを未所有のため、他の探索者に同行しようと考えていたようですが、生憎わたくし達はそのような願いは引き受けていませんの」


 やはり見抜かれていたか……。

 この植山という女性、登録者数以上に実力を持っている。


「それに御二方、おそらくまだ高校生ですわよね。危険等級A級のダンジョンにおいそれと連れて行ける責任をわたくし達は背負えませんわ」


 植山の意見は至極真っ当である。

 自分より弱いものを連れても足を引っ張るだけ。変に死なれては後味も悪く、【何で連れて行くのを許可したんだ】と炎上する原因にもなりかねない。


「だいじょぶだよ! わたし強いし!」

「ならば、自力でA級探索者になるまで努力をしたらよろしいかと」

「うぅ……そ、そうなんだけど……」


 ティータイムを取る植山に取り付く島もなさそうだ。

 全て飲み切ったので、執事の保科が抹茶をティーカップに注ぐ……相変わらず和洋折衷しているな。


「仕方ない。別の人をあたろう。お時間を取ってしまい申し訳ありません」

「あじゅま様、東様。私めの勝手な判断で振り回してしまい大変申し訳ございませんでした。何かお力になれることがありましたら何でもお申し付けください」

「ではダンジョンに連れてって!」

「かしこまりました」


 許可するのかよ。


「こら、優見」

「お嬢様、大変申し訳ございません。切腹して責任を取ります」

「い、いいわよそこまでしなくても……! こほん、取り乱したところを見られて恥ずかしいですわね。優見は何でも肯定してしまうの」


 全肯定メイドとは、かなり従順に躾けられているようだ。

 執事もシェフもお嬢様の一挙一動をしっかりと把握しており、落雁を切らせばすぐに供給してくれる──和だな……。


「こほん、あじゅまさん、でした?」

「はい!」


 吾妻だ。お前も素直に返事するな。


「と、ここまでは厳しいことも申し上げましたが、わたくしは〝ゆとり〟がありますので、条件を二つ飲んでくださるなら御二方を連れて行っても構いません」

「おぉ、なになに!? 何でも引き受けるよ!」

「待て吾妻。そう簡単に相手の話に乗るな」

「ふふっ、しっかりとしたバディさんですわね。でも安心なさってください。違法なことはいたしませんわ」


「だって!」と吾妻は安心しきった顔をするが、悪いやつは悪いことをすると言わないんだよ。

 ……ただ、直感で悪人ではないことは分かるから、話は聞こう。


「一つはダンジョン内で手に入れた宝具や物品は全て我々が所有すること。わたくし達は紹介系NewTuberでありますの。ですので、宝具さえ頂ければ他は何していただいても構いません。御自身で手に入れた魔晶石は御自身の物にしていただいて結構です」

「わかった! わたしたちはダンジョンボスを倒してアーカイブストーンに名前が載りたいだけだから、いいよ!」

「なるほど初攻略者になるのが目的ですか。では、二つ目の条件に繋がるお話ですわね。保科」


 植山は保科に目配せをすると、彼が前に出てくる。 


「わたくしの執事バトラーですわ。わたくし達も本日、このダンジョンを攻略するつもりでしたの。ボスにトドメを刺していただいて構いませんが……わたくし達の足を引っ張ってもらっては困ります。それなりの実力があるのかどうか、彼と闘って実力を見せてほしいですの」

「わかった!」

「ただし、闘うのは探索者の貴方ではなく──バディの貴方でお願いします」


「えぇっ⁉︎ 東くんはたたかえないよ⁉︎」と吾妻は庇うが、断れる空気ではなさそうだし、荷物を置いて俺は前に出る。


「ふふっ、勇気だけは認めますわ。映像は演者と裏方が表裏一体となって作るもの。撮影編集してるだけでは命の危険があるダンジョンではただのお荷物ですわ。守られる必要がないことを証明してください。あじゅまさんのバディさん?」

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