第59話 離れている飼い主へのアプローチ《森野林檎視点🍎》

『店員のオススメ❣ 午後のエクセレントコーヒー:ブルーマウンテン豆を使った最高級の味わい…。優雅な午後のひと時を提供してくれます。』


「おおっ。なんか、すごい…!!✧✧

しかも、缶コーヒーなのに、400円もするなんて!?」


家族と一緒に実家から最寄りのコンビニにアイスを買いに来ていた私は、オススメ商品のコーナーにある飲み物に釘付けになっていた。


浩史郎先輩だったら、「ふっ。缶コーヒーで最高級だと?本当にそんなに上手いのかぁ?」って疑いながらも気にしてそう…。


ついシェアハウスで数日前まで一緒に生活していた小馬鹿にしたような浩史郎先輩の顔を思い浮かべていると、アイスコーナーにいた弟のかっくんに文句を言われた。


「おい、りんご、ニヤニヤしてないで、アイス早く決めろよ!溶けちゃうだろ?」


「あっ。はいはい、ごめん!じゃあ、私、リンゴチョコミントアイスで!!」


「りんごはいっつもそれね〜。」

「りんごちゃんとは、アイスの趣味合わないな〜。」


慌てて、ショーケースからアイスを持ってくると、お母さんといちごミルクアイスを片手に持った妹のいーちゃんは苦笑いしていた。


         ✽


「りんご、付け合わせの目玉焼き、また半熟になってるけど…。」


「ハッ!つ、つい癖で!」


ハンバーグに付け合わせる目玉焼きをつい浩史郎先輩好みの固さに焼いてしまい、フライパンを急いで火にかけ直す私にお母さんはいたずらっぽい笑みを向けた。


「この間買い物に行った時は、自分の物より、浩史郎くんの好きそうなものがないか探してたし、

さっきは掃除機に話しかけようとしてたし…。

りんごは、シェアハウスでの浩史郎くんとの生活に随分馴染んでいるみたいね〜。」


「い、いや、まぁ、3ヶ月近くも暮らしてたし…。それなりにはね…。」


「そうよね〜。何だかんだ言いながら、浩史郎くんと3ヶ月も生活してたんだもんね。急に離れてちゃって、りんご、寂しいんじゃないの〜?」


「い、いやいや、そんな、寂しいなんて事はないよ!私達は、猫と飼い主のような関係だし、お互い自立してるから!」


「ふうん?猫と飼い主って自立してるの?」


ぷるぷると首を振り、慌てて否定すると、お母さんは不思議そうに首を傾げた。


「里見さんに電話したら、りんごに会えなくて浩史郎くん寂しそうだって言ってたわよ?」


「えっ。」


「あんた、どうせ、ヒマでしょ?里見さんのところにお中元届けに行って、浩史郎くんの顔見てきたら?」


「えっ。え〜と。うん。浩史郎先輩も私も寂しいなんて事はないと思うし、もうすぐ忙しくなる予定だけど、

理事長(浩史郎先輩のお母さん)にはお世話になってるし、い、行こう…かな?」


私は何だか、急にソワソワした落ち着かない気持ちになり、組み合わせた指をもじょもじょと動かしてそう言うと、お母さんはにこやかに笑った。


「ふふっ。じゃあ、後で里見さんに電話してみるわね…。」


         ✽


それから、明日里見家に(何故かサプライズで)お中元を届けに行く事になった私は、先にメールで連絡を取ってみることにした。


家族で買い物に行った事、なかなか浩史郎先輩の好きなものを見つけられなかった事など取り留めもない事を書いて、

(サプライズなので、明日お家に行きますとは言えず)また8月からシェアハウスでよろしくお願いしますという文面で締め、送信すると、すぐに浩史郎先輩から、電話がかかって来た。


電話越しに数日ぶりに聞く浩史郎先輩の声に最初はちょっと緊張していたのだけど、相変わらず理不尽に怒られたりする内に話し込んでしまって、気が付いたら、11時近くまで時間が経ってしまっていた。


浩史郎先輩から、明日の予定を聞かれて、サプライズの訪問の事を誤魔化すのに、ちょっと不自然な感じに電話を切ってしまったけれど、この感じだと、嫌がられてる感じでもないのかな?


明日は、この夏休みに始めようと思っている事とかも含めて浩史郎先輩に色々お話できたらいいなと思って、浮き立つ気持ちでいたのだけれど…。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


翌日ー。


「シェアハウスから帰って来たら、浩史郎ったらボーッとしちゃってね?

苦手なピーマン料理出しても口に入れるまで気付かないのよ?」  


「ピーマン料理に気付かないんですか!?それは、すごいです!」


お中元を届けに行った私を理事長である里見先輩のお母さんは歓迎してくれ、客間で里見先輩の話で盛り上がっていると、玄関でカチャリと鍵の空く音がした。


「「!」」


コンビニに文具を買いに行ったという里見先輩が帰って来たらしい。


ガラッ!

「あっ。浩史郎、帰ったのね?

ふふふっ。浩史郎、りんごちゃんに会いたくてやきもきしていたでしょう?実はね、今…。」


「ああ?」


里見先輩のお母さんが、半分戸を開け、浩史郎先輩に話しかける間、やっぱり少し緊張して居住まいを正していると苛立ったような浩史郎先輩の声が聞こえて来た。


「違うって言ってんだろ?

俺だって実家に帰ってまで、四六時中りんごの事考えてるわけじゃない! むしろ、あんな薄情な奴の顔なんか、見たくもないね。」


…!||||||||

やっぱり、浩史郎先輩は私が来たの迷惑だったみたい…。


ガラッ!


私は居た堪れない思いで、彼の前におずおずと姿を見せた。


「そそ、そうですよね…。実家に帰ってまで、私の顔なんか見たくなかったですよね。浩史郎先輩、すみません…。」


「へっ。はっ?りんご??!」


3日ぶりにあった浩史郎先輩は目をパチクリとさせて、私を見詰めていた。



*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。


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