第53話 一人じゃない今
中二病を「中二の時期にトラウマ的にショックな出来事がある事」だと、誤って解釈している様子のりんごに思わず違うと指摘してしまうと、りんごは熟れた果実のように真っ赤になっていた。
「そそ、そんな事は分かっていましたっぁっっ!!浩史郎先輩を試したんですよぉっ!!💢」
「うわ、声でかっ…!」
逆ギレしたりんごに近距離で大声で叫ばれ、俺は顔を顰めた。
「ゴフン!は、話を続けていいですか?」
「お、おう。すまんな。話の腰を折って…。」
反応からして、中二病を誤解していたのは確かなようだが、りんごが過去の話を俺に打ち明けてくれている大事な場面ではあったので、素直に謝った。
「中学の時は、そんな感じで周りから孤立してしまった私でしたが、その後仲直りした夢ちゃんに碧亜学園の高等部を受験するように勧められたんです。
それからは、私は夢ちゃんと同じ高校へ行きたい一心で勉強を必死に頑張りました。
その結果、無事碧亜学園に入れて、夢ちゃんも浩史郎先輩もいてくれますし、生徒会の東先輩や、石狩先輩ともお知り合いになれたり、風紀委員会の西園寺先輩達とも対決する事になったり、中学の頃からは想像も出来ない程今は楽しいです。」
「いや、西園寺達との事はあんなに大変な目に合って、楽しい事じゃないだろうよ!」
ほうっと幸せそうにため息をつくりんごに俺は再度気になるところを突っ込んでしまった。
「西園寺先輩達は怖いですけど、真正面からぶつかってくるし、面白いし、ああいうのは案外平気です。
それに、夢ちゃんと引き離そうとする西園寺先輩に私は「絶対に大好きな人の手を自分から離したりしません」と宣言したんでした。
今更、中学の先輩が現れたからと言って、尻込みして、浩史郎先輩と距離を取ろうするのはおかしな話でした。」
「そ、そうだよ。いつも図々しいぐらいにグイグイくるくせに、今更急に引くなよ。」
いつもの笑顔を浮かべるりんごに、俺は文句を言いつつ、内心ドキドキしていた。
宇多川の事で、「絶対に大好きな人の手を自分から離したりしません」という発言を俺にも当てはめたと言うことはりんごにとって俺は「大好きな人」という認識になっているという事なんだが…。
「ふふっ。そうですよね。私のつまらない話は終わりです。聞いてくれてありがとうございました!さっ。遅くなってしまったし、帰りましょうか?あっ…?//」
そう言って立ち上がったりんごの手を恋人繋ぎで握った。いい雰囲気になっているこの機会を逃すわけには行かなかった。
「ああ、帰ろうか?」
「あ、あの…。手…。//」
戸惑っているりんごに、俺はニヤッと笑って言ってやった。
「何だよ。嫌なのか?『絶対に大好きな人の手を自分から離したりしません』って言ってなかったか?」
「…!!///そ、それは言葉の綾で…!ちょ、ちょっと調べたい事があるので、一回手を離して下さい!」
「何だよ、急に…。」
りんごは顔を赤らめ、俺に文句を言うと、スマホで何かを調べ…、やがてウンウンと満足そうに頷いた。
「ふふっ。中二病とは、浩史郎先輩みたいな人の事を言うんですね?」
「な、何だと?💥」
衝撃を受ける俺に、りんごは優越感に満ちた笑顔を向け、手を差し伸べて来た。
「ふふっ。浩史郎先輩の精神年齢は中二みたいなので、高一のお姉さんが手を繋いで連れ帰ってあげましょうね?」
「くっ…。くっそぉ。」
何やら馬鹿にされているようで屈辱だが、手を繋ぐ機会をみすみす逃すわけにはいかなかった。
ギュッ。
りんごと手を繋ぎ、駅に向かいながら納得のいかない俺は聞いてみた。
「なぁ。俺のどこが中二病なんだ?言ってみろ?」
「ホラ、浩史郎先輩、ブラックコーヒー飲んでるじゃないですか!中二病の症例に背伸びして、ブラックコーヒーを読み出すってちゃんと書いてあったんですよ。ウププ。」
「はぁ?そんなの、ただの趣向の問題だろ?俺は背伸びしてるんじゃなくて、本当にコーヒーが好きだから飲んでるだけだ。」
鬼の首を取ったようにドヤ顔で語るりんごに、俺は呆れた。
「りんごのように、本当は苦手なのに無理して大人ぶってブラックコーヒー飲んでたら中二病かもしれないけどな。」
「ええー!私の方が中二病に近いって事ですか?!」
「そうかもな〜。」
「そんなぁ…。私、高一なのに!もう中学生は卒業しましたぁっ。」
りんごは、中二しかならないものと思っていて、やっぱり言葉の意味をちょっと勘違いしていた。
ちょっといい雰囲気になったと思ったら、いつもの軽口の叩き合いになってしまう。
それでも、背伸びでも、歩み寄りでも、一歩ずつこの猫との距離を縮められたらいいかとも思い、りんごと繋いだ手に少し力を込めた、夏の日の夜だった。
*あとがき*
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