第52話 孤独な過去

「浩史郎先輩。私が中学の時の話を聞いてもらえますか?あまり楽しい話じゃないと思いますけど…。」


覚悟を決めたのか、真剣な表情で聞いてくるりんごに、俺はもちろん頷いてやった。


「いいよ。話せよ。ここまで来たら、俺も気になるし、ちゃんと知っときたい。」


「で、では、そこのベンチにでも座りましょうか…。何か飲み物奢ります。」


りんごは駅前広場のベンチを指差し、近くの自販機に向かった。


「いや、自分で出すよ。」

「いえ、私が奢ります!です!!」

「お、おおぅ…?わ、分かった。奢ってもらうよ。缶コーヒー頼む。」

 

自分も財布を出そうとすると、くわっと目を見開いたりんごに主張され、俺は押され気味に返事をした。


「了解です!」


りんごはニンマリ笑うと、自販機の缶コーヒーを買って俺に渡し、自分にはミルクティーのペットボトルを買い、

二人並んでベンチに座り、飲み物を飲みながら話を聞く流れになった。


「中学に入ったら、夢ちゃんは碧亜の中等部へ通う事になって、部活(サッカー)で一緒だった男子達とは疎遠になってしまって、小学校の人間関係が一気にリセットされてしまったんです…。

そして、軟式テニス部に入ったんですが、序列や空気を読んで発言しなきゃいけない女子の集団に、初めは戸惑いました。」


「ああ…。りんご、女子の集団あんまり得意じゃなさそうだよな。」


天然で思った事しか言えないりんごは、女子の集団で空気を読んで渡っていくのの難しいだろうな…、と容易に想像がついた。


「テニス自体は楽しくないわけじゃなかったんですが、いーちゃん、かっくんもまだ小さくて、部活よりお家のお手伝いをしている方がいいかと思って、一学期で辞めてしまいました。

さっき会った宮内先輩とも、特別何かあったわけではなくって、ただ、先輩は私の事を家の事情で部活を辞めざるを得ない可哀想な子=女の子の中で一番下の序列と思っていたみたいなんです。

そこまではまだ良かったんですが…。」


りんごは少し言葉を切って、一息ついた。


「いーちゃん、かっくんと同じ保育園に妹がいる同級生のと男の子がいて、その子と少し話すようになったんです。」


「ほ、ほおぉ…?」


やっぱり、りんごの過去には、男子の存在があったか…。


俺がピクリと頬を引き攣らせていると、りんごは慌てたように言った。


「と言っても、友達になりかかったぐらいですよ?浩史郎先輩に、接しているように全力でぶつかっていたわけではないです。


それでも、他の人よりは、その男子と話している事が多かったので、周りからは実際以上に仲が良いように見えていたみたいです。

男子の軟式テニス部で、大会でいい成績だったらしくて、女子からも人気がある子でした。


その内、私にも女の子の友達が二人出来て、その友達の一人にその男子との仲を取り持って欲しいと相談されたんですが…。」

「ああ。失敗したんだな?」


間髪入れずにそう言うと、りんごは目を丸くした。


「ええっ。どうして分かったんですか!?」


「いや、分からいでか…。君のように人の言葉の裏を読めない奴が友達の恋路を取り持つなんて高度な技術が必要な事出来るわけないだろう…!

ついこの間だって、猫カフェのスタッフのお姉さんと俺をくっつけようと企んで…。」


「ううっ…。あの時の事は言わないでぇっ!!トラウマで頭がキンキンするうっ!!」


りんごは頭を抱えて涙目になった。


「まぁ、その話はもういいが、失敗した後、その友達と、男子とは仲が拗れてしまったのか?」


「え、ええ…。確かにその男子は、森野とは違って、友達みたいな女の子らしい子と付き合いたいって言ってた筈なのに、いざ友達が告白すると振ってしまって…。

友達は、その男子が私を好きなのではないかと勘ぐって私を責め、私はその男子を責め、どちらとも気まずくなってしまいました。


その後、私がその男子を好きだったから友達との仲をわざとうまく行かないようにさせたという噂が立ち、

学校で、大半の女子に無視をされるようになった頃、その男子は宮内先輩と付き合い始めたんです。


全く、好きな人がいるのならもっと早くにくっついてくれていれば、友達と私の仲が拗れることもなかったし、変な噂が立つこともなかったのに…!

結局、宮内先輩とも付き合って3ヶ月位で別れてしまったらしいです。

その男子も本当にデタラメな人ですよ!」


「……。」


俺はその男子に怒り心頭になっているりんごに、どう声をかけようか躊躇った。


確かに、その男子の行動をりんごから見たら意思のハッキリしないフラフラした奴に思えるのかもしれないが、振られた友達の言ったように、そいつがやっぱりりんごに想いを寄せていたと仮定したなら、こう言ってはなんだが、その気持ちも分からないではないのだ。


全力でないにせよ、思春期の男子への接し方が完全に間違っているりんごに、明らかに他の男子とは違う軟化した態度を取られたら勘違いするし、好意を抱いたとして、まだ中学生男子だと自分の気持ちを素直には表せないだろうし、照れ隠しにりんごよりその友達を過度に褒める事もあり得るだろう。


さっきの宮内先輩と付き合ったというのも、りんごが自分の事で、友達と拗れて噂になってしまったのを見かねての行動かもしれない。


好きでもないのに付き合ったので、すぐに別れてしまってもおかしくない。


と、ここまで推論した中で、もし、りんごがその事実を知ったら、男子に対して気持ちがどう変化するのかと、俺は心穏やかではいられなかったのだが…。


「夢ちゃんにまで、その男子はやっぱりりんごが好きなんじゃないかしらって言われてしまって、大喧嘩になって大変でした…!」


「…!」


おっと。既に宇多川が指摘していた!しかも、あの仲のいい宇多川とまで大喧嘩になってしまったとは…。

やっぱり俺の推論は、色んな意味でりんごには伝えない方がいいな…。


青褪めながら俺はコクコクと自分に言い聞かせるように頷いた。


「中2になってからは、実父と亡くなる直前に再会する事もあって、本当に散々な出来事ばかりでした。

確か、浩史郎先輩も中2の頃、辛い出来事があったと言っていましたよね。

中二病とはよく言ったものです。」

「??」


腕組みをして、尤もらしく頷くりんごに、思わず突っ込んでしまった。


「りんご。中二病とは、中二の時期にトラウマ的にショックな出来事があるとかいう意味じゃないぞ?」


「っ…?!」


りんごは虚を突かれたような表情になった。


*あとがき*


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