第13話 天敵の再来
「よう、浩史郎。お前に知らせとかなきゃいかん事があってな。」
ホームルームの時間俺は後ろの席の恭介にこそっと
耳打ちされた。
「何だよ?藪から棒に。」
「今日西園寺さんが学校に来てる…。」
「?!! 嘘だろ!?」
「声が大きい。浩史郎。」
俺は今度は声をひそめて恭介に問い糾した。
「いや、だって、彼女、イギリスに留学してたんじゃないのか。」
「先週から日本に帰って来てるみたいだね。それと同時に今まで大人しかった風紀委員の活動が活発になってね。西園寺さんが動いているのは間違いない。
これはオフレコにしといて欲しいんだけど、風紀委員から生徒会に校則の改正案が上がっているんだよね。」
「改正案?」
「そっ。男女間の交際を禁止するっていう内容の改正案。違反者には、部活禁止、謹慎、停学や、退学といったなどの罰則事項つきの。」
「はあ?恋愛禁止?そんな校則生徒が反対するに決まってるだろう。」
「まぁ、碧亜は自由な校風が売りの学校だから、反対する生徒も多いだろうね。けど、支持する先生達は結構多くて、特に生活指導の谷本先生なんかは積極的に後押ししてる。もちろん生徒会長は断固反対する方針だけど、先生方がバックについてるから、無碍にはできなくて、場合によっては生徒総会の議題として取りあげる事になるかもしれない。」
「だけど、風紀委員は何だって急にそんな提案を…。」
「浩史郎、分からない?西園寺さんの狙いはお前だよ。浩史郎を自分だけのものにする為に、校内恋愛禁止にしようとしてる。」
恭介は指を突きつけて、俺に恐ろしい事を告げてきた。
「ひっ!何でだよ?校内恋愛禁止にしたら、西園寺だって俺にアプローチはできないだろ?」
「まずはライバルを叩き落としたいんだろ。西園寺さんは風紀委員長で、学園内でも力を持ってる西園寺グループの令嬢。例え秘密裏に浩史郎と付き合ったとしても揉み消す力は十分に持ってる。」
「それにしたって、その為に校則まで変えようとするなんて…。」
「西園寺さんは手段を選ぶ人じゃないからね。
そのぐらいやらないと、ライバルに対抗できないと思ったんだよ。例えば、今校内で一番浩史郎と噂にもなっているのは、宇多川さん。いつもお昼一緒に食べてるでしょ?」
「嘘だろ!?何でだよ?お昼食べてるのはりんごも一緒なのに。」
「宇多川さんは綺麗だし、財閥の姫様だし、何かと目立つ人だからね。今までの浩史郎の女性遍歴から言って大半の人は、可愛い系で庶民的な森野さんよりは宇多川さん狙いと思ってるよ。
ただ、西園寺さんの情報収集力を思えば、近い内に森野さんとの事まで辿り着くだろうけどね…。宇多川さんの友達というだけでも、森野さんを利用しようとする可能性もあるし、今の内に対策を練っておいた方がいいんじゃないの?」
「!!」
その時丁度恭介のスマホからピロンピロンという着信音が聞こえた。
恭介はスマホを確認すると、苦笑いして俺に見せてきた。
「あらら、もう遅かったみたいだよ?」
それは宇多川からのメールだった。
『緊急事態です!りんごが、風紀委員の西園寺さん達に保健室に誘い込まれて、大変な事になるところでした。
すんでのところで、私が間に入ったけれど、
今後の対策を練りたいので、東先輩申し訳ないけど、元凶の女ったらしを連れて次の休み時間、屋上前の階段に来てくれますか?』
続いて、送られてきた絵文字は、火の海を背景に、般若の面を被った猫が刀を持って許すまじ!と叫んでいるものだった。
その怒りが「元凶の女ったらし」に向けられている事は明白だった…。
俺は次の休み時間まで、背中に走る悪寒と恐怖に必死に耐えながら過ごした。
*あとがき*
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