第8話 そして現実に立ち返る
りんごが部屋に籠もってから数十分間が経とうとしていた。
部屋の中からは時折「うわぁぁ!」「くうぅっ!」
といったりんごの叫び声が聞こえたり、何やら袋をガサゴソ開けるような音やもぐもぐという咀嚼音が聞こえてきた。
俺はその間、部屋のドアの前の廊下に座り込んで、途方に暮れていた。
同居再開早々りんごの信頼を失ってしまった…。
やっぱり実家に帰ると言い出すかもしれない。
そうなったら、どうやって引き留めたらよいのか俺には何もいい考えが浮かばなかった。
部屋の中では、おそらく心中穏やかでないりんごが、やけ食いをしているのだろうが、先程あげた焼き菓子が少しでも役に立ってくれる事を祈るしかなかった。
神頼みならぬ菓子頼みー。
ガチャッ!
その時情けない事を考えていた俺の目の前の扉が開き、何とも複雑そうな表情のりんごが姿を見せた。
「浩史郎先輩…!ずっとそこにいたんですか?」
「あ、ああ…。その…。りんごに出て行くって言われたら止めようと思って…。」
俺はバツの悪さを感じながらも、俺はりんごの顔色を窺い、さり気なく出口を阻むような位置に立った。
「出て行きませんよ…。せっかく帰ってきたところだったんだから。」
りんごは目を逸らして口を尖らせながらも言いにくそうにそう言った。
「!!本当に?よかった…。」
俺はホーッと安堵のため息を漏らした。
りんごは安心するのはまだ早いと言わんばかりに俺を真っ直ぐに睨みつけてきた。
「ええ。人の日記を読むなんて最低の行為だと思いますが、緊急事態とかだったら、私も絶対しないとは言い切れません。だから、今回に限り許します。」
「あ、ありがとう。りんご。本当にすまなかった!」
「その代わり二つの事を約束して下さい。
一つはもう、絶対、何があろうと私の日記を読まないこと!暗証番号も変えましたからね。今度同じ事をしたら絶交ですよ?」
「わ、分かった!もう二度とこんな事はしない。誓うよ。」
「絶対ですよ?それと、もう一つ約束して欲しいのは…。」
りんごは言いながら、顔を赤くした。
「?」
「今後私の体が見た目的にどのように変化をしたとしても、絶対にそれを指摘しないで下さい。」
「……。りんご。さっき渡した焼き菓子もしかして、全部……。」
「聞かないで!何も聞かないで下さい!!」
りんごは拒否するように両手を突き出し、涙目になっていた。
そこは触れてはいけないところだったらしい。
まぁ、りんごは華奢な体つきだから、少し増えたぐらいでどうって事はないと思うのだが、女の子にとってはデリケートな問題なんだろうな。
俺はしっかりと頷いた。
「分かった。約束するよ。」
「よし。じゃあ、許しましょう。そしたら…。」
にっこり笑ったりんごだったが、何かを思い出したように渋い顔になった。
「ああ、そうだな。そうしたら、そろそろ…。」
俺も多分同じ事を思い出し、苦笑いした。
「試験勉強しましょうか。」
「…だな。」
俺達は同居開始早々、双方HPが0近くまで削られる打撃を受けた状態で、明日から期末テストという試練に立ち向かわなければならないのであった……。
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