ジャンジャの島
北見崇史
序
一
一番槍が貫いたのは心臓ではなく鎖骨の少し下だった。致命傷にはならなかったが、槍兵が前に転げるほどの勢いで突き刺したので、穂先は分厚い肉体を貫通して外にとび出した。血塗られた細長い鋼が、薄暗い部屋の中にギラリと光っていた。
二番槍、三番槍、四番槍が瞬く間に腹へと集中した。深々と刺したままグリグリと回して、内部にある柔らかなとぐろをかき回した。想像を絶する痛みが背中の骨を軋ませたが、その男は立ち上がった。謀への非道を糾弾するが、さらに三本の穂先が首に突き刺さって言葉を失った。足元に血溜まりができてしまい、そこに足をとられて滑ってしまうが、転ぶことはなかった。なぜなら、数多くの槍が刺さったまま支えていたからだ。
同席していた彼の配下たちも、ほぼ同時に槍ぶすまとなった。立ち上がることもなく、一瞬で殺された。外にいた者たちは鉄砲の餌食となった。火縄の煙で勘づかれることがないように、風下からの射撃であった。
かろうじて致命傷を免れても、駆けつけた兵がデタラメに振り下ろす刀に切り刻まれた。あまり器用でない武士の、ためらい気味の突撃は、かえって残忍なものとなった。上手く止めを刺すことができずに、多くがのたうち回りながら殺された。建物の中も外も、生臭くて鉄臭い真っ赤な湯気が立ち昇っていた。
見せしめのために、死体は野原に打ち捨てられ、触れることが許されぬまま放置された。カラスや鳶が食い散らかし、ウジ虫が涌くまま野ざらしとなった。近しい者たちの嘆きが、昼夜を問わず海原の向こうへと伝った。
二
苛烈な責め苦は女子供にも容赦なく行われた。
よく冷えた鋼鉄の{やっとこ}が女たちの乳首をつまみ、千切れる寸前まで引っ張った。すぐ脇では、ふいごに吹かれた炭が赤く青く燃えている。その中に突っ込まれている鉄の棒は、凶悪さを隠しもせず灼熱であった。
悲鳴は、その狭小な土地の隅々まで響いた。女たちの胸の下から下腹にかけて、焼けた鉄の棒がゆっくりと転がされて、やわらかな皮膚を丹念に焼いた。立ち昇る香ばしい匂いは、その行いをする者の嗜虐心をより過激な領域へと狂わせた。わき腹や背中、あろうことか陰部にまで硬質な灼熱に蹂躙された。命こそ奪われないが、それが故に絶命したいと切実に願っていた。
そして、子供たちにも同様の仕打ちが行われ、父親が罪のすべてを認めてもなお続けられた。藩への裏切りは重罪である。家族ともども連座となり、激しい拷問の末、極刑となった。自刃すら許されず、侍としてあるまじき姿で晒された。刑場に散らかされた家族たちの惨さに、見せられていた者たちの悲鳴がいつまでも続いた。
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