第28話 対暴走魔獣戦③

「まさか・・・」

「ひっ」

 回復していたエミリオが尻もちをついて怯えていた。


「さっきはよくもやってくれましたわね・・・」

 回復が完了し、リンが鬼の形相でゆっくりとこちらに歩いてくる。


「お、おい凛・・・もう大丈夫なのか?」

『ギロッ』

 声をかけるや否や、物凄い目つきでレンを睨みつけて、無視してナイトメアヘッジホッグの方へ向かっていく。


「こ、こえぇぇ」

 アレな部分がキュッとなり縮こまってしまったのは内緒である。


 リンがナイトメアヘッジホッグに近づき立ち止まり睨みつけ、ナイトメアヘッジホッグも獲物を狩る態勢に入る。


「グルルルルル」

「覚悟しなさい、クソ魔獣・・・木っ端みじんに切り刻んで差し上げます! ウォラァァァァ!」

 直後、魔力を開放し、その周囲の地面が揺れ始める。


「待て、ディアナ、マルコス・・・あれは近づいたら巻き沿いをくらう」

「その様ですな。どうやらリン殿はバーサク状態に近い状態ですかな」

 加勢しようとしていた学園長たちは、リンの近くにいると危険と感じ様子を見ることにした。


「凛・・・まるで、現世の某格闘アニメを見ているような感じになっているぞ・・・でも、チャンスだな。あいつが戦っている間、あの魔法を試してみるか」


 ナイトメアヘッジホッグの前足攻撃を躱し、リンが飛び跳ね胴体を複数斬り刻む。着地後、すぐにバックステップし魔法詠唱に入る。


「ダークメルト!」

 黒き炎がナイトメアヘッジホッグの前足を高熱で燃やし溶解していく。


「グワァァァ」

 前足をジタバタさせ炎を消そうとするが消すこともできず、硬い皮膚がただれてよろめく。


「これで、終わりだー! 死にぞこないの腐れ魔獣! 冥界に落ちてハデスに〇〇掘られやがれー」

 リンはキレると、言葉遣いがとてつもなく悪くなる。


「リンちゃん、下品・・・」

「ああいうところは現世の頃と全く変わってないな」


 チャンスと感じ、一気に詰め寄るリン。しかし、そう簡単にやられるほど弱くはないこの怪物は前足を痛めながらも急速回転し、尻尾攻撃をしてくる。


「!? そう何度も同じ手を食らうか!」

 大鎌を尻尾が来る方向に構え、障壁を出し防御に切り替える。


『ギィイイイン』

「ぐっ・・・」

 防御しても威力は相当なもので、耐えきれず吹き飛ばされる・・・が、床にたたきつけられる寸前、受け身を取り回転してダメージを逃がして難を凌ぐ。

態勢を整え前方を見ると、ナイトメアヘッジホッグは口を開け光線の準備に入っていた。


「なっ! このクソったれ魔獣め」

 リンは大鎌を前方に掲げ、防御態勢に入る。


「魔力全開! シールド展開!」

 直後、光線が放たれる。前方に4層のシールドを展開させるが、いとも簡単にシールドを破壊していき、最後の障壁に衝突する。


「ぐぅ・・・なんて威力してやがる」

 なんとか破壊されずに済んだが、このままだと突破されるのも時間の問題。光線が切れるかリンの魔力が切れるかの勝負に陥っていた。


「ロックインパクト!」

 突如、横から魔法の援護が入り、岩石で物理的に光線を捻じ曲げた。


「フレアサークル!」

 ナイトメアヘッジホッグが炎の柱で覆いかぶさる。


「フリーズフィクサメント!」

 ナイトメアヘッジホッグの前後ろ足を凍結させて動けないようにした。


「グォォォォォン」

 ディアナ・学院長・マルコスの連携攻撃によりチャンスを作り出した。


「今だ! リン君!」

「・・・・・ありがとう」

 キレていても、礼儀は辛うじて尽くす。

リンはすかさず魔力を大鎌に込め、ナイトメアヘッジホッグに詰め寄る。


「さあ、これで本当に終わりだ! 黎黒の閃撃“弐振烈破”」

 巨体の下に潜り込み、首元から右後ろ足付近まで高速で斬り刻む・・・そして斬り終わった後、素早くサイドステップし、今度は左後ろ足から首元めがけて斬り刻んでいった。


「ギュアァァァァァ!!」

 斬られた胴体から大量の鮮血が飛び散り、その場に大きな音を立てて崩れ倒れた。


「やったか・・・」

「今度こそ、終わりましたかな」

「ふう・・・面倒な相手でした」

 やりきったのかリンは通常モードに切り替わり、言葉使いも正常に戻っていた。

 そして、少しふらつきながらも生死の確認を伺いにいく。


「まだだ! そいつはまだ生きている! 凛、そこから離れろ! でないと消え去るぞ! 学院長たちも下がっていてください」

「!?」

 声のした方に振り向くとレンが何かをしようとしていた。


「あなた、いったい何をしようとして・・・」


 リンが戦っているさなか、レンはその周囲に7つの魔法陣を構成していた。


「レン君、これは・・・」

「わわわ、何か凄い魔法が来そうな予感」


「七星の種よ、彼の陣に集え」

 すると、全属性の魔力が指定された魔法陣に宿り輝きだしていく。


「我が魔を傀儡とし、天一柱となり、力を示せ」

 7つの魔法陣に散らばった各属性の魔力が上空にある巨大な魔法陣に集束されていく。


「数多の恵みを余すことなく、全ての業を葬り去れ」

 巨大な魔法陣からさらに7層の魔法陣が構築され、とてつもない魔力が一点に集中していく。


「消え去れ! セプティレートブラスター七星集束砲!!」

 全ての属性を使役できるレンのオリジナルの超絶集束魔法が、瀕死状態のナイトメアヘッジホッグに向け放たれた。

 轟音と共に眩い光に包まれ、辺り一面が真っ白な空間になったかのように囚われた。


「うっ、なんというバカげた魔法・・・眩しすぎて何も見えない」

「しかし、これだけの威力なのに、爆風らしきものが一切ない」


 暫くすると光が弱まり、目が開けられる状態になる。


「ようやく、目を開けられるようになったけど・・・えっ?」

 魔法の着弾点には何もなかったかのように魔獣の跡形がなく、ただ床に飛び散った鮮血と焦げ跡が残っていた。

 この魔法は、全ての属性が交わることにより、次元そのものに干渉し射程内の対象物を異次元に飛ばす魔法・・・要は消滅魔法のようなものだ。なので、射程内に入ると、どんな生物でもこの世界から消え去ってしまう危険な魔法でもある。だが、レンがこの事に気づくのは、まだ先の事である。


「はあ・・・はぁ・・・もう・・・むり・・・」

 魔力全部使い果たして、その場に倒れこんだ。


 ナイトメアヘッジホッグは消滅し、この戦いの幕は閉じた。

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