第14話 邂逅

「凄いな・・・」

「ええ、とても美しい光景。言葉も出ないわ」

「私も王国は初めてなので、魅入られてしまいます」


 まさに、ファンタジーだ。夢に描いた・・・いや、想像以上の絶景だ。あのひと際目立つ大きな城がエルシュタイト城か。城下町も数えきれないほどの建造物が立ち並んでいた。所々水路のようなものが見える。

 町の入り口は広く大きな川が流れていて、城下町に入るには吊り橋を渡らなければいけないようだ。その吊り橋前に騎士が2名立ち構えている。

 これから、あそこで3年間生活するんだな。


「あぁもう身震いしてきた! これで強力な魔獣が潜んでいたら最高だな」

俺は無意識に手を力強く握りしめていた。


「もう、兄さんそればっかりね」


「フフフ」

 マリアは呆れフィオは笑っている。


 吊り橋に到着すると、騎士に事情を説明し入国許可書を見せて何事もなく城下町に入ることができた。町に入場し馬繋場で停止した後、御者が馬から降りて扉を開けてくれる。


「私は、ここまでですぜ。学院から迎えの方が来る手筈になっているので、暫くお待ちくだせぇ」


「了解。3日間ありがとうございました」


 周囲を見渡しながら、言われた通りこの場で待機していた。

 すると、前方から初老の男性が歩いてくる。


「大変失礼かと存じ上げますが、レン・フェイグラム様でございますか?」


「はい。そうです」


「お初にお目にかかります。私、王立ソルシエール学院長の秘書を務めさせて頂いている『マルコス』と申します。フェイグラム家御一行様をお迎えに上がりました」


「分かりました。それでは、案内よろしくお願い致します」


 そう言うと、マルコスさんは学院に向かい始めた。俺たちは後ろを歩いていく。

 ・・・しかし、このマルコスさん、秘書より執事って感じがするけど全く隙がないな・・・全方位に神経を張り巡らせている。俺がもし背後から攻撃しても避けられるかもしれない。只者じゃない・・・ちょっと戦ってみたいとも思った。


「本当に凄く賑わっているわね。私たちの町と何もかも違うわ。人もかなり多いわね」


 そう、さっきから見ているけど、ここにいる人たちは様々な種族の人が往来している。


「聞いてはいたけど、本当に人族だけじゃないんだな」


「ええ、平和な証拠ね」


 そう言えば、さっきからフィオが黙っている事に気づいたので様子を見てみる。すると、周りを見向きもせず俯いて歩いていた。


「フィオどうした? 大丈夫か?」


「え・・・あっ、はい・・大丈夫です」


 とは言いつつ、少し顔色が悪いな。


「もしかして、人が多いから人酔いでもした?」


「・・・ええ、そんなところ、です。心配させて申し訳ございません。でも大丈夫です」


「・・・・・」


 少し考えて、俺はフィオの手をそっと繋ぐ。


「!? レン様!」


 驚いた表情で俺の方を見る


「これなら、少しは気分が落ち着くかなと思って・・・嫌だった?」


「いえ・・・その、ありがとうございます。嬉しいです」


 俯きながら少し照れていた。でも顔色に赤みが戻った感じがする。手を繋いで正解!


『ニギッ』


「!? 痛い!」


 突如左手に痛みが走った。すると・・・


「兄さん、私も少し人酔いしたので手を繋いでくださいね」


 話聞いていたな・・・とても人酔いした顔つきになっていないけどな。


「分かった・・・分かったから、もうちょっと握る力を弱めてくれマリア。痛いよ」


「あら、ごめんあそばせ」


 ったく、この妹様はよ。

 ・・・しかし、この状況はちょっと恥ずかしいな。1人ならともかく両手を2人の手で繋いでいたら、さすがに目立つ。さっきからすれ違う人たちに視線を送られて恥ずかしさが込みあげてくる。


「レン様、到着いたしました。ここが王立ソルシエール学院でございます」


 圧巻! さすが王国一の学院なだけはある。


「なんて優美な建物。惚れ惚れするわね」


「この様な素敵なところで魔法を学ぶのですね」


「学内は一段と素敵ですぞ。それでは、このまま学院長室に向わせて頂きます」


 興味津々で辺りを見渡しながら学院内に入ろうとした時、不意に1人の女性とすれ違う。


「!?」

 俺は、立ち止まった。なんだ、今の感じは・・・


「ちょっと兄さん、急に立ち止まってどうしたの?」

「レン様、如何なされましたか?」


「・・・・・」

 俺は答えない、というか2人の声が聞こえていなかった。

 この世界に来て、今まで感じたことのない感覚。胸の奥で何かを訴えかけているかのような・・・どこか懐かしいような・・・

 後ろを振り返り、その女性の姿を拝見した。黒髪で腰の付近まで伸びた髪、ここの学制服だと思うものを着ている。


「・・・ねぇ」

「ねえ、兄さんってば!」


「!!」

 マリアの呼ぶ声が唐突に聞こえ、マリアに振り返る。


「ああ・・・ごめん、ちょっと気掛かりな事があったけど思い違いだから大丈夫だ。フィオも急に立ち止まってすまないな。さあ、行こう」


 そう思って歩き出そうとしたら、今度はマリアが後ろをずっと見ていた。


「・・・・・・」

「どうしたマリア? 行くぞ」

「あっ・・・うん」


 その間、マルコスさんは何も言わず、その場で佇んでいた。

 近づくと・・・

「もう、よろしいのですか?」

「ええ、大丈夫です。突然立ち止まって、ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。では、参りましょうか」

 う~ん、紳士だ! ちょっと憧れるかも。

 再び俺たちは、学院長室に向かい歩き始めた。



――――学院長室


「失礼いたします。学院長、フェイグラム家御一行様をお連れ参りました」

「ご苦労さん」


 椅子に座って窓の外を眺めていた学院長がこちらに振り向く。


「!!」

 女性・・・しかも若い! 歳は30前後くらいだろうか・・・年配の男性と勝手に思い込んでいた。


「この度は、特待生としてお招きいただき誠にありがとうございます。フェイグラム家嫡男のレン・フェイグラムと申します」

「同じく、長女マリア・フェイグラムと申します」

「側仕えのフィオ・ローゼンと申します」


「ああ、君たちを歓迎する。私は当学院の長をしている『アイヴィ・グレイスノート』だ。よろしく」


 アイヴィ・グレイスノート・・・どこかで聞いたような・・・


「まぁ、気楽にしてくれ。私は堅苦しいのが苦手でね。普通に話してくれ」



「早速で悪いが君の事を調べさせてもらった。驚いたことに僅か7歳でギルド登録したみたいだね。だけど、これだけしか分からなかった。魔獣討伐もそれ以外のギルド案件の記録が一切ない。これが表向きのレイ・フェイグラムの冒険者情報だ」


「・・・・・・」


 どこまで嗅ぎ付けている?


「いくら領主の嫡男と言えど、7歳の子供が普通にギルド登録なんて不可能。それに、これまで何もしていなかったなんてあるはずがない。これが本当なら既に登録抹消されている。だから裏があると勘づいたよ。それが、少し前にフェイグラムの視察から帰ってきた騎士団から聞いた『脅威度Bクラス以上の魔獣を1人の青年が見たこともない魔法で討伐していた』に繋がった」


 これは、全部知られているな。


「それで、私のギルド経歴はもうご察し済みで?」


「ああ、本当に驚いたよ。その若さでね」


「それは学院長の胸の内に秘めておいてください」


「ふふ、私はそこまで無粋じゃないさ。安心したまえ」


「でもね、レン君。実績はあるだろうが、君の強さがどの程度の物なのか実際に私は見たことがない。今回、君たちを特待生として招き入れたはいいが、特待生としての実力を示せないようなら、この話は無かった事にしようと考えている」


「・・・なら実力を示せばよいのですね。どの様な方法で?」


「なあに、簡単さ! 私と手合わせしてくれ。私が納得いったら合格」


「ええ!? 学院長と、ですか・・・」


 戦うなら上級生の特待生とかと戦うと想定していたが予想外


「学院長なのですから当然弱いということはないはず。そこにいるマルコスさんよりは強いですよね?」


「ほう・・・マルコスの実力を見抜くか。目は確かなようだ。まあ、れば分かるさ」


「専用の闘技場が離れにある。そこに行こうか!」


 突如、学院長と戦うことになったが、遠路はるばるここまで来て『お疲れさまでした』なんて、言わせるつもりはない。実力未知数の対人戦は初めてだが、思う存分戦ってやろうじゃないか!

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