第58話ex1本屋の姫と高校生

 本屋それは僕にとっては、未知の世界へ旅立つための『切符』を購入する場所だ。

 だが今日は生憎の雨。

 これが移動を伴う旅立ちであれば、憂鬱ゆううつな気分になるが、僕の場合は少ないお小遣いで買う。貴重な『本が濡れる』と言う問題はあれども、鞄の中に入れビニール袋にでも入れて置けば大丈夫なのだが……鞄を漁っても生憎とビニール袋は鞄には入っていなかった。



「はぁ……」



 短い溜息を吐くと暦の上では、もう春が近いと言うのに真っ白い息になった。

 意を決して、駐輪場に愛車のGASGASパンペーラを置き、自動ドアを潜ると、店先の薄汚れたカーペットで入念に靴底についた泥を拭う。 

 真新しい雨梅雨に塗れた紺の学生服に身を包み、クロックスのゴム底で塩化ビニールの床を踏み締めると、『ギュッ』『ギュッ』という乳幼児が履いているような音の鳴る靴を履いているような気分になり、恥ずかしいと同時に気が滅入る。



「久しぶり加藤君。今日は買い物?」



 そう言って声をかけて来たのは、バイト仲間の武田さん。

 清楚可憐な絶滅危惧種の大和撫子と言った雰囲気と容姿で、おっぱい登山家としては残念なまな板体系スレンダーな女性だ。



「ええ……そっちはバイトですか?」



 姫カット(昔みた漫画で知った)のぱっつん前髪以外をワザと靡かせこう言った。

 この女性ヒトは良くナンパされるの事を、「うっとおしい」と言うのだが、その抜群の容姿を使って俺のような、女慣れしていない男子を持て遊ぶのが大好きな一面を持っている。


 そんな事もあって、「げぇ」と言う表情が一瞬でも出ていたのか、武田さんからの返しの言葉はチクリと来るものだった。



「そ、誰かさんがバイトのシフトに入らなかったせいでね」



 チクリと嫌味を言う。


「ぐ……」



 バイトのシフトに入らなかったのは、ダンジョンに潜るためである。

 武田さん達には申し訳ないがお金的にも、目標の為にもダンジョンに潜った方がイイのは明白である。



「それに、私の胸を見てまた小さいと思ったでしょ? そう言う視線に女の子は敏感何だよ? おっぱい星人と言えどチラリと横目で見るぐらいにしないと女の子に嫌われるよ?」



 ぐうの音も出ず、素直に「すいません」と謝罪に出る。


 仕方がない幾ら“揺れない”おっぱいとは言えどうしても、胸元に視線が吸い寄せられるのは、男と言う生物にとっては本能に似たものだ。



「見た目だけなら直球ど真ん中なんだけどなぁ……」



 俺はボソボソとした声で独り言を呟いた。

 本当に性格以外はドストライク……おっぱい登山家の俺が妥協してもいいと思うぐらいには美人なのだが性格が終わっている。



「おい、コラ! 私に不満があるっていうのか?」


「いえ、何も……」


「男子は二次元見たいな巨乳が好きかも知れないけど、女子からしたらそこまでは要らないのよ……胸の下に空間が出来るからどうしてもデブに見えるからね」


「な、なるほど……」


「だからゲームや漫画の制服でも、コルセット見たいなお腹の辺りを絞る服を取り入れる事で、リアリティを出してる作品もあるよね。乳袋とか現実でやろうとしたら、そこだけ布面積を足してやらないとシルエットが良くは見えないのよね……」


「……」



 何で胸が無いのにそんなに巨乳に詳しいのだろう? と考えていると……



「何で胸が無いのにそんなに巨乳に詳しいのだろう? って考えているでしょ?」


「――――ッ!?」


(あ……ありのまま今、起こった事を話すぜ! 何で胸が無いのにそんなに巨乳に詳しいのだろう? と考えていると……それを相手に言い当てられてしまったのだ!)


「思考盗聴?」


「どうしてそうなる……」



 武田さんは呆れたような表情を浮かべた。



「アルミホイル巻かなきゃ!」


「うちの休憩室にあるのはトップ〇リュのだからあんまり意味がないと思うよ」


「じゃぁメ〇カリで!」


「大体ナットとか寝袋の外装を剥がしたモノばかりじゃないか……」


「確かにそうですね……」


「そうかい。落ち着いて良かったよ……」



 大学生の武田さんは、バイトリーダーで僕の教育係りでもあったのだが、こういう性格と性的対象が基本女性の二刀流バイと言う事もあり、こうして軽口を叩ける程度には仲良くして貰っている。



「どうして分かったかっていうとね。顔に出てたからだよ」


「顔ですか……」


「そ、その胸で巨乳の苦労が分かるの? って顔してた」


「あはははは……」



 俺は愛想笑いを浮かべ事態の収拾に努める。

 ダンジョンなんてとんでも無いモノがあったとしても“思考を読む”なんていうトンデモな物体は、現在公式には発見されていないのだから……



「そりゃ胸はないけど想像ぐらいは出来るよ……私のサイズでも走って揺れれば痛むからね」


「そうなんですね……」


「まぁ想像よりも元気そうでよかったよ。ここでバイトしてた頃の君は張り付けたような笑顔だったからね。私やバイトそれに店長も心配してたんだ……まぁやりたい事、熱中出来る事が見つかって良かったって思ってるよ……」


「ご迷惑をおかけします。それとありがとうございます。」


「良いんだよ。これぐらい……君は高校生だ目上の人に迷惑をかけて生きていけるのは年若い人の特権だよ……まぁそう言う私もまだ子供なんだけどね……」



 こうして俺は剣術の指南書とラノベを数冊購入した。 

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