第70話独り回転寿司1

 WHOが忖度し、長年官房長官を続け令和おじさんの仇名を拝命した影の首相と、SNSで広報活動に勤しむ防衛大臣、聞く力のある検討し同期一番の男前だったおじさん達……オールドタイプの活躍により、新型日光冠ウイルスは一応の収束を見た。


 そのころから新幹線などの直通で寿司が来ると言う……こうなんとも味気の無い回転寿司にも慣れた頃……SNS上に現れた数多のロリスト達の活躍により、元々死にそうな外食チェーン店が悲鳴をあげている事を思い出した。

 数か月前の出来事は忘れ、世間は値上がりや東欧の紛争を嘆いたことなど忘れ、スポーツに熱中し、ネット民は隣国との関係や福祉支援事業のずさんさを嘆いている。

 こう考えると1年戦争って短いんだな……



「そう言えば回転寿司なんて暫く行ってないな……久しぶりに行ってみるか……」



 夏休み昼のせいかそこそこ込んでいる。食品テロリストの影響で空いていると踏んでいたのだが……どうやら俺の読みは甘かったようだ……とほほ。

 発券機で券を発行し30分ほど待つと自分の番が回って来る。

 一人用の席……カウンター席と言うのだろうか? 待つスペースからの視線を浴びながら食事をするのは少しばかりテンションが下がるが、まぁ致し方がない。



「先ずは軽めのものから注文するか……寿司屋に一人で来ると寿司安価スレを想起するな……やってみたい気持ちはあるけど流石に茶碗蒸しやワサビ茄子、麺類、大学芋ばかり食べさせられるのは洒落にならない。今日は値段を気にせずに食べよう!」



 タブレット端末で寿司を注文して待っている間に水を汲んでおく。熱いお茶がどうにも苦手で水か冷たいお茶が好ましい。


 活〆真鯛、活〆寒ぶり、かっぱ巻き、酢橘ひらまさ、極み熟成ゆず漬け桜鯛、大切りはまち、と先ずは白身魚系を一皿づつ注文する。

 醤油にシャリを付けてそのまま一口で頬張る。


 活〆真鯛は、淡白ながら脂の甘味が程よくありプリプリとした歯応えが楽しい。

 個人的な好みとしては、酢飯の味がもう少し強めなものが好みなのだがまぁ仕方がない。



「新鮮なのか適度に歯を押し返すぐらい弾力が強いし、噛めば噛むほど魚の脂特有の甘味が溢れて来やがる……少し高いけどリピート確定だな……」



 次に活〆寒ぶりを頬張る。脂がたっぷりとのっているため、魚特有の旨味は濃厚かつまろやかだが、パンチが利いており箸が進む。



「まろがすげぇ! 旨味と脂が絶妙に組み合わさり濃厚な深みを作っている……リピートしてぇ……」



 いつもなら、ガリを頬張り水を飲み腹を膨らませるのだが……今日は贅沢にも、酢橘ひらまさで口内をさっぱりさせつつ腹を満たせる。



「今日ぐらい贅沢してもいいよな……」



 ヒラマサは、さっぱりとした淡白な味わいで、食感はコリコリとしっかりとした歯ごたえを感じる。そこに酢橘の風味が加わり食欲が増進される



「Go〇gle先生にヒラマサって打つとブリとの違いとか、不味いってサジェスト出る割には滅茶滅茶美味いな……さすが逃げ恥の主人公、森山みくりの旦那だぜ。でもまぁ酢橘掛かって無かったら他でもいいかな……」

 


 続いて極み熟成ゆず漬け桜鯛を頬張る。

 柚子のいい香りを纏ったクセのない上品な味で大変美味しい。真鯛と同じ種類とは思えない。



「柚子の香りが魚臭さを消していて食べやすいな……これはリピート確定だな……」



 次に食べるのは大切りはまち。文字通りカットが大きく酢飯からかなりはみ出ている。

 口に入れると適度に脂がのって、プリッと身の引き締まった食感で、似た魚のブリに比べるとクセが少なく、養殖モノのためか色味は白っぽく脂が乗っており旨味が強い。



「『はまちを食う奴全員バカです……』ってぐらいの気持ちでいたけど、はち……お前こんな出来るやつだったんだ……素直にすげぇわ……」



 次に注文したのは、甘エビ、つぶ貝、ホタテ、特製漬けマグロ、サーモン、オニオンサーモン、ポン酢サーモンの味が濃いめのメンバー達。

 その間にかっぱ巻きを食べる。



「しゃきしゃきとした食感が美味い……寿司屋ってなんで定期的に炎上するんだろう?」


 

 最近だと、パック寿司のフタを醤油皿替わりにするとか、他人の頼んだ寿司を横取りしたり、醤油ペロペロ、レーンを流れてる寿司にワサビ乗せたり、スシにアルコールスプレーをかけたりと、去年から今年にかけて回転寿司を含めた外食チェーンが大きなテロ行為を受けている。



「SNSは人類には早すぎるものなのか……それとも事件が見えるかされただけなのか……」



 寿司が到着すると忙しなく、そこそこ早い速度で流れる台から寿司皿を取る。



「――――っと……危なかった危うく取り逃すところだった……」



 先ずは味の薄いつぶ貝から頂く……コリコリとした歯ごたえのある食感を楽しんでいると、醤油の味が薄れていく……すると小気味よく噛み千切れほのかな甘みが口いっぱいに広がる。


美味い。イカは嫌いなのだが貝なら許せるなぜだろう……考えているとつぶ貝が皿からも口内からも消えている……



「ストレスが溜まっているのかな……」



 続いて、甘エビを頬張る。うん甘い。醤油と甘エビの自然ながら強い甘さが咀嚼を促進させる。甘エビは自らの消化酵素の働きで甘くなっているんだよ以前、妹が教えてくれた事を思い出した。

 もや〇もんで見たアザラシの身体に海鳥を入れて発酵させた料理と原理は、同じようなものか……


 エビで思い出した。昨今ではコオロギを食糧危機の際の淡白源として注目されていると言う……ヨーロッパイエコオロギや熱帯原産のフタホシコオロギが主に飼育されているらしく、甲殻類アレルギーの懸念が叫ばれていたり、逃げ出した際の環境への影響を考えれば一昔前に騒がれていた。しかも陸エビとか呼んで売ろうとしているとか……    

 そこまでして売るならミドリムシ(ユーグレナ)でいいのではないか? と知識のない俺は愚考する。それにコオロギ食うなら日本人としてはハチの子とか、イナゴを食べろよ! と思うのだが……是非、議員先生方には有権者の前で食べて頂きたいものだ。


 ホタテを頬張ると、舌の上でとろけるような柔らかな舌触りと濃厚でコクのある強い甘みと旨味が、醤油の塩味で纏められダイレクトに舌に響く……



「美味い。安定の美味さだ……昔はマグロばかり食べていたが、気に入ったモノを時間を空けて食えば、その間も実質的にその間も食べていると言っても過言ではない。」



 美味い物の食いすぎで頭が馬になってきた……奇蹄目ウマまでくれば後は、約6000万年さかのぼって顆節目ウマとシカの祖になるかより大きなくくりの有蹄類にでもなってしまいそうだ。


 そんな状態で特製漬けマグロをキメる。

 山葵醤油にせずネタに山葵を付けるのが俺流だ。箸で山葵を摘まみネタに乗せそのまま醤油に漬けて頬張る。



「安定の美味さだ。漬けマグロでも醤油に漬けちゃうんだよな……オレ」



 最後にサーモン、オニオンサーモン、ポン酢サーモンを食べていく……やや生臭い匂いがするもののサーモンだから仕方がないと割り切って山葵を多めに付けて頬張ると、ねっとりとした上質な脂が口いっぱいに広がる。オニオンサーモンは玉葱の辛みとマヨが良いアクセントになっているし、ポン酢サーモンはポン酢が香りを誤魔化しさっぱりと食べさせてくれる。


「よし、あとは美味しかったものを追加しよう……」


 ガリを摘まみ、冷水を飲み干し寿司を待った。

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