エピローグと外伝1-7

第53-55話立花さんとご飯1-3

 俺は大慌てで歩道を駆け抜ける。

 今の気分はまるでニューヨークの町を駆け抜ける超人にでもなったように軽やかだ。

 色鮮やかに塗られた門に背を預ける様にしていかにもギャルと、言った風体の女性がスマホを弄って待っていた。



「すいません。遅れました」


 

 全力疾走で上がる息を押し殺して邂逅かいこう一番、悪いことをした時は謝罪からはいる。こうすると少し怒りの溜飲ボルテージが下がるからだ。

 俺は抜けている部分が多いから、元気な頃の妹には良く怒られたものだ。



「LIMEの一つぐらいは欲しかったかな……探索者やってるとしょうがない事あるしね……行きたかったのは焼肉、奢ってあげるから先ずは腹ごしらえをしよう。君をとっちめるのはそっれからだ」


「はい」



 俺は大人しく彼女の後ろを付いていった。



………

……



「本当にいいんですか? 高そうなお店で奢って貰って……」



 立派過ぎる店構えに対して、俺の服装は随分と場違いな感じがして二の足を踏んでしまう。

 


「いいのいいの、アタシ稼いでるし、それに稽古つけてあげた時ボコボコにしちゃったからさ、そのお詫びって事で。

さ、遠慮せず行くよ……」


 

 そう言うと俺の手を引いて、強引に店に連れ込んだ。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」


 白いシャツを基調とし、黒のスラックスで無難にまとめた店員さんが案内をしてくれる。


「二名なんだけど開いてる?」


 座席を覗き込むように背伸びをしながら店員に尋ねる。


「ご予約がありますので、お席を選んで頂く事は出来ないのですが……よろしいでしょうか?」


 店員の口ぶりからすると団体客のようだ。


芸能人でも来るのかな?


「ええ構わないわ。コータローもそれでいいわね?」


 立花さんは振り返っり確認をとる。


「はい。大丈夫です」



 店員は一度礼ををすると、手で進む方向を指さして、「ではご案内します」と言うと席に通してくれた。

 飲食のバイトもやっている俺に取っては、もの凄い丁寧な接客に見えた。

 流石は高級店。従業員の態度も一流だな……


座席に座るとお冷とおしぼりが配膳される。



「何頼む? やっぱ最初は脂の少ない肉からかな?」



などと、メニュー表を見ながらキャイキャイと騒いでいる。

こういう姿を見ると「自分と同じ人間なんだ」と改めて認識させられる。



「そうですね。ご飯モノと飲み物も合わせて注文しましょう」



 メニュー表は一つしかないので、立花さんに提案して欲しいモノを頼んでもらおう。

 ママ活や若いつばめと思われるのは、少し癪だからな……



「気が利くね。アタシは生ビールと特上牛タン、キムチの盛り合わせかな、コータローはどうする?」


「じゃぁコーラとライス大と、牛タンに塩キャベツ系を一つ……」


「了解、了解、じゃぁ同じ特上牛タンにこのうま塩キャベツってのを一つづつでお願いします」


「畏まりました。少々お待ちください。」



 飲み物とサラダ、キムチ、ご飯が配膳され肉を待っている時だった。


「で、なんで遅れたの?」


 と本題を切り出した。


「実は変なモンスターと死闘を繰り広げたんですよ」


「変なモンスター? 合成獣キメラ系って事?」



 キメラ系とは読んで字の如く、複数の生物やモンスターの特徴を併せ持ったモンスターの事で総じて強力な傾向にある。



「まぁ似たような感じなのかな? 武装したオークと戦っていたんですけど……首を跳ね飛ばして殺したと思ったら中から変なモンスターが出て来たんですよ」


「寄生虫とかそう言う感じ?」


「近いんですけど、オークの中からそれを上回る大きさのモンスターが出て来たんですよ。ブタ面で蝙蝠の羽が生えていて芋虫と蛇を足して二で割った見たいな胴体で、蜥蜴見たいな足がいっぱいムカデみたいに生えてて魔法を使って来ました」


「――――ッ!」



バン! 机に手を突いて立ち上がる。


「お客様?」


 店員が不思議そうな表情を浮かべ駆け寄って来る。


「すいません。バランスを崩してしまって……」


 立花さんは誤魔化すように微笑みながら言う。


「さようでございますか……」


 店員は厨房に戻っていた。



「さっきの言ったモンスターの事は他言無用でお願いしたいの、ソイツはダンジョンに関わる存在なの……全くどうしてコータローの前に現れたのかしら……」


「構いませんけど、アレが何なのか? 教えてくれますか?」


「詳しい事は御上の判断になるから、接触者が知りたがってるってアタシが聞いておいてあげる。

 ただ私達はアレらの事を、魔人まじん想定外イレギュラーと呼んでいるわ。今言える事は何故ダンジョンはそこにあるのか? 本当にダンジョンは安全なのか? と言う事だけよ」


「……」



 実際問題、年々ダンジョンは増加している。

国力の少ない国では、ダンジョンの維持管理を国連や他国に委ねている場所もある。

 アフリカ大陸と南アメリカなどの一部地域では、ダンジョンからモンスターが流出し人が住めない領域が存在する。

 食料やエネルギー、環境問題は一定の改善が見られるものの、世界中を見渡せばそう言う地域も存在する。

 また優れた探索者には海外への渡航制限があり、一部の人々は費用の安い人型決戦兵器と揶揄する声もある。


 俺は探索者とは、迷宮とは一体何なのか? とプラスチック製のストローを前歯でガジガジと噛みコーラを啜りながら考えた。



「立花さんも言いにくい秘密を話してくれたので、俺も秘密を明かしましょう」


「改まって何よ。急成長の秘密でも教えてくれるの? 《魔法》や《スキル》の開示はリスクでしかないわよ?」 



 そう言うと結露したジョッキに口を付け、ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲み、「今なら冗談だったと思ってあげるから撤回しなさい」と、言外に言われてしまう。



「《ステータスオープン》」



 スワイプするようにして虚空に浮いたウインドウを一回転させ、立花さんに俺のステータスを見せる。



「嘘でしょ……」



 彼女の双眸そうぼうには驚愕の色が見えた。




――――――――――――――――――


加藤光太郎

  Lv.1 → 1(2へ昇華中)

 力:S → SSS → ?

耐久:A → SSS → ?

技巧:S → SSS → ?

敏捷:A → SS  → ?

魔力:C → S   → ?

幸運:I → H  → ?


《魔法》

皇武神の加護ディバイン・ブレス

・『南無八幡大菩薩』

・詠唱する事で金属に『鏖殺おうさつ』の特権を与える。

・『性質の強化』と、呪いカースに分類される頭を割るような激痛を相手に与える。


《スキル》 

【禍転じて福と為す】

・障碍を打ち破った場合。相応の報酬が与えられ、獲得する経験が上昇する。

・障碍が与えられる。また全てのモンスターの戦闘能力が上昇する。

・モンスターの落とすアイテムの質が良くなる。またステータス幸運を表示する。


――――――――――――――――――  




「『ステータス』の限界突破リミットオーバー……それに『ステータス』項目の追加効果を内包した運命干渉系の《スキル》をレベルアップなしで所持していたのね。

それに何この《魔法》……『鏖殺おうさつ』の特権、『性質の強化』、『呪いカースに分類される頭を割るような激痛』って複合 《魔法》にしても効果盛りすぎよ!」



 そう言うとツマミを頬張りビールをあおる。



「でも、全モンスターの戦闘能力上昇と障碍と表現されているイレギュラーモンスターとの戦闘が多すぎてこれでもギリギリですよ」


「いやこんだけブッ飛んだ『ステータス』じゃなければ、そりゃ格上の魔人を倒せないだろうけどさぁ~コレは酷いわ」



 そう言うとキムチを頬張りビールを飲む。



「何でソロで潜ってるのか聞こうと思ってたけど、こういう事だったのね。これは流石にパーティー組めないわ。厄介過ぎるしね……」


「ですよね……」


「まぁ、こんなおあつらえ向きの《スキル》を持っているんだ。アタシが仲介しなくても御上から声が掛かりそうなモノだけどね」


「そうですか……何か少し怠いんですよね。強敵との戦闘のせいでしょうか?」


「講習受けたでしょ? それはレベルアップの症状の一つで重い風邪に似た症状が現れるのよ。主に大量の経験を処理する際の変化が大きいから酷く疲れたように感じるらしいんだよね……一つ忠告しておいてあげる。

 数日はダンジョンに潜らない方が良いわ、レベルアップ後はテンションがおかしくなる奴が多いのよ……それが原因で死ぬ奴も多いのよ。それに……いえ何でもないわ……」



 そう言った立花さんの目は虚ろで、何かを思い出しているようだった。


 レベルアップ後に何かあったのだろうか?


 そんな事を話しているうちに皿に乗せられたタンが、運ばれてくる。

 金属製のトングを使って網の上に円形のタンを一枚一枚丁寧に並べていく……



「ゴホン。知っているとは思うけど、先輩として師匠として説明してあげる。レベルアップ後は『ステータス』が一度初期値までリセットされるんだけど、別に今まで積み上げてきた能力が消滅するわけではないわ。基礎値として蓄積反映され一目でわからなくなるだけよ。それにレベルが上がれば《魔法》や《スキル》《ステイタスの項目》が増えたりと恩恵は大きんだ。」


「『ステイタスの項目』と言うと、俺の幸運のような物でしょうか?」



 そう言うと取り皿に肉を置く。



「その通り、あ、タンありがとう。喜ばれるのはモノ作り系かな? 《錬金術》とか《鍛冶》、《調合》とか……」



 そう言うと、塩ベースのタレをかけてハフハフしながらタンを頬ぼった。実に美味しそうだ。



「戦闘系はないんですか?」


「もちろんあるよ? でも戦闘の補助に留まる事が多いかな……特大の秘密を教えてくれた事だし、より一層、指導に熱を入れてあげるよ。死なれても目覚めが悪いしね……今晩から明日にかけて酷い熱に苦しむだろうけど頑張ってね」


「楽にする方法とかってないんですか?」


「私は酒飲んで寝る事かな……未成年の頃は睡眠薬飲んで寝るとかそれぐらいしかないかな。人の分を焼いてばかりいないでコータローも食べなさいホラ男の子でしょ?」



 そう言うと雑にトングでタンを掴んでドバドバと肉を取り皿に置いた。



「ちょ! 立花さん流石に雑過ぎませんか?」


「いいのいいの、いい肉でもお腹いっぱいの時に食べれば、普通の肉と変わらないんだから、美味しく食べれば何でもいいのよ」



 そんな事を話していると、予約席の方では宴会が始まったようでなんと俺の好きなアイドル声優、月壬麻那花つきみまなかさんの打ち上げのようだった。



「隣、賑わってるわね。それに可愛い声の子がいっぱい。Yo〇Tuberか歌手かしら?」


「多分声優さんだと思います。聞き覚えがあるので……」


「声優好きなんだ。幸運の効果かしら……」


「【禍転じて福と為す】の効果である障碍を打ち破った場合。相応の報酬が与えらる。なら正直割りに合わないって感じがしますけど、芸能人と間接的に同じ空間に要れるのは得した気分になりますね……」


「そんなものかしら……それを言うならアタシも有名人だけどね」


「そう言えばそうでした」


俺は忘れていたとばかりの態度を取る。


「も~酷いなぁ」


 などと言いながら、和気あいあいと談笑していると……



「すいません」と背後から声を掛けられた。


「五月蠅かったですか? すいません」



 事を荒立てたくない俺は取りあえず謝罪から入る。

すると、「いえ、五月蠅かったとかそう言う訳ではないのですが……」と煮え切らない返答が帰って来る。


 どういう事だ? と首を捻っていると……



「あの! スリーフットレーベンズの立花銀雪しらゆきさんですか?」



 とその女性は話を切り出した。

 俺としては、「ああ、立花さんのファンか……」と言った気持ちしかない。



「はい。そうですけど……あなたは……」


「申し遅れました。声優の月壬麻那花つきみまなかと申します。先日のスタンピードの件で立花さんの事を知ってファンになりました」



 俺は飲んでいた飲料を噴出した。



「ブフォ」


「汚いなぁ~気管支にでも入った?」



 立花さんはそう言うと、ティシュを数枚掴んで渡してくれる。



「あの大丈夫ですか?」



 頭上で囁かれた甘めのボイスに思わず脳がくらりとくる。DLs〇teで買ったASMR(自律感覚絶頂反応とも訳される。心地よいと感じる音)の音声作品。

 『【ひざ枕・耳かき・囁き・歯磨き・添い寝・寝息・寝言】ASMR 彼女に甘やかしてもらう~同級生編~』を聴いて寝る事が日課になっている俺に取っては、彼女の囁きは日常の一コマと言って差し支えないのだが、生音声の威力は筆舌に尽くしがたい。

 俺が咳き込みながら悶えていると……



「あー気にしないで、この子アタシの弟子なんだけどアナタのファンでね。驚いてしまったみたいなの」



 立花さんは羞恥心で俺を殺す気なのでしょうか? さっき弄った事は謝りますから許してください。



「そちらの方がファンなんですね。驚かせてしまってすいません」



 ラジオと同じく腰の低い方のようで、ファンとしては嬉しい限りだ。



「いえ、すいません。ファンなら月壬さんのお声で直ぐに気が付かないといけないのに……」



とテンパり過ぎて良く分からない言い訳を展開する。



「骨の髄から声ブタね……」



と立花さんがボソりと呟いた。



「失礼な! すいません。木石ぼくせきの自分は席を外しましょうか? 芸能人と師匠の間で部外者には、聞かれたくない話でもあるでしょうし……」



 高校生として出来る限り気遣いで、邪魔にならないように気を配るのだが……



「立花さんのお弟子さんなら信用に値すると思います」


「ありがとうございます。 自分は、加藤光太郎と言います高校1年です」


「私が高校生の時よりしっかりしてる……」



 そう言った彼女の表情は少し悲しそうだった。

仕事とで疲れているのかな?



「お話したい事がありまして、コニコニ動画で私と一緒に番組をやっていただけないでしょうか?」


「「?」」」



 俺達の頭には疑問しかない。



「今回のスタンピード被害は、刀使いの男性の活躍で最小限に抑えられました。ですがJSUSAを含めた多くの団体は、初心者への教育を蔑ろにしている様見えるんです。なので初心者向けの講座を開いて頂きたいんです」


「幅広く見てもらいたいのなら、コニコニ動画よりもYo〇Tubeとかの方が良いと思うんだけど……」


「コニコニ動画でしたら、出演料と言う事で最低保証の金額は出せますよ? 今回のニュースの件で事務所も私もレッテル張りをされているので、コニコニ動画から一番組ぐらいやらせてあげると言わているので……コータローさんはどう思いますか?」


「自分としては何とも言えません。探索者にとっての飯のタネである戦い方を立花さんから教えて頂いている立場ですから……業界は間違いなく飛躍するでしょう―――――」


「なら!」


「――――それが甘いんです。タダでさえ長期休暇や土日は多くの学生が小遣い稼ぎにダンジョンに潜ります。それで割りを食うのは専業志望の人達です。彼らの狩場が荒らされれば中層、深層と奥へ進む人たちが減りダンジョンの謎引いては、スタンピードの学説の一つ、最奥に原因があると言う説の解明が遠のく可能性があります。

 何かを立てようとすれば、他が立たなくなるのはこの世の通りです。若輩者の俺でも歴史を学べば、朧気ながらにも理解できることです。ですからターゲットを絞りましょう」


「はい?」


「例えば武器の選び方や探索の仕方、死なない立ち回りを教えればいいんです。そうすれば文句も出ず、あなた達のイメージ払拭も出来ますけどいかがでしょうか?」



 立花さんの大きな瞳が獰猛に輝いた。



「つまりは初心者向けのハウツー動画に留めておけって言ってるのよ。

初心者向けの武器の選び方や、トラップの解除法。探索者の成り方などなど……私が先生であなたが生徒役で進めれば、丁度いいんじゃないかしら?」


「私が探索者ですか?」


「そう、だってコータローは二週間でlv2だしそれに一般人よ? 顔出し出来る訳ないじゃない企画を持ってきたのはそっちよ。

それぐらいやりなさい。」


「……」


「私は『やらない善よりやる偽善』って言葉すきだけど、他人にだけ押し付けるのは気に入らないわ……」


「……やります。仕事の都合があるので生放送ではなく録画を放送する形式でどうでしょう? 1,2週遅れてYo〇Tubeで配信。生放送は数か月に一回契約は……」


「あとでココに送ってくれる? 目を通しておくから……」


「はい。ありがとうございます」


 

声優って営業スキルもいるのかな?


 こうして気が付けばライブの打ち上げの人達に混ざって俺達二人は、焼肉を楽しんだ。月壬さんだけかと思っていたけど、他にも有名な声優さんが多く声ブタの俺としては夢のような時間だった。


 全く、なぜこんな田舎で大規模なイベントがあるのだろうか? 

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