第2話お見舞い
7月14日、時刻は16時を過ぎたころ、平成一期一番目の仮面ラ〇ダーの愛車でもある。GASGASパンペーラを走らせ、妹の入院する病院に向う。
国立病院機構豊橋医療センターは地域病院として、他に比べ規模の大きな医療機関である。
当然敷地も広く駐車場から10分程掛かる、それにうんざりしながらも、最早慣れた見舞いの順路を迷いなく進む。
妹は大部屋ではなく個室に居るため、誰に気兼ねする必要もない。
ブーツの床鳴りが、リノリウムのフルフラット廊下に響く。
軽金属で出来た吊下げ引き戸に軽くノックすると、いつものコツコツと軽い音と、割と元気そうな声が響いた。
「はい! どなたですか?」
良かった今日は元気そうだ。 俺は内心で安堵の言葉を呟いた。
「俺だよ。俺」
「あ、コータローか、どうぞ……」
好奇心と言うか退屈さ故の期待から一転、いつも会いに来るノーマルキャラが来た、と言わんばかりの興味の失い方だ。
心なしか声音にも落胆の色が見える。
この猫のように真っすぐ感情が態度にでる、ツンデレ感がたまらない。
引き戸を開けると、病院独特の消毒液と漂白剤それに薬品が入り混じったような独特の臭気が鼻を付く。一瞬顔を顰めそうになるが最愛の妹に不快な思いをさせないためにも気合で耐える。
「昨日ぶり、元気してた?」
出来るだけ陽気に話かけた。
大きなクリクリとした瞳が印象的な、ショートカットの少女である。
顔立ちや、ベッドから起こした上半身を見る限り、体つきはまだ幼い印象受けるが、中学生の平均からもそう大きく外れてもいないだろう。
着ているパジャマが少し地味なのが、彼女が病人である事を示している。
「今までほぼ毎日通い詰めていたのに、一週間以上も顔を見せない兄妹愛のないコータローの事なんて知らないよ……」
どうやらご機嫌ナナメの様子。
こういう時は美味しいモノで、機嫌を直してもらおう。
「はい、お土産」
お土産に渡したのは、最近評判の洋菓子屋のプリン。
クリームのように濃厚で、カラメルの苦みが良いアクセントな一品だ。
「それって……」
「応! 一個500円以上する、高級プリンだよ」
瓶に入っているのだが、レトロチックな入れ物がカワイイと中高生の間で話題らしい。
俺にはよくわからない話だが……
「わーっ!! ……って、危うくいつもみたいになぁなぁで済ませるところだったよ! 全くもう。テスト週間はしょうがないけど最近あんまり来ないじゃん」
どうやら俺が来ない事が不満らしい。
「ごめんて……最近バイト始めたんだよ。ももかに美味しいもの食べさせたくて……」
俺は嘘を付いた。
ただただ弱って行く妹を見たくないのが一つ、そしてそんな妹と接するのが辛いと思ってしまっている事だ。
妹の患っている病気は、『魔力結晶化による魔力欠乏症』と言う。
身体に存在する魔力が結晶化する事で欠乏を起こすと言う奇病で身体の一部、あるいは全身にモンスターのような魔石が生成され、それによって身体を傷付けると言う病気だ。
病の進行速度は人によるらしいが、癌と同じく若年は進行が早い。
妹はステージ4で離れた部位への転移が確認されており、ステージ5になれば魔石が体表あるいは臓器を覆う事になってしまう。
「はぁぁああああああああああああっ!!」
妹の大きな声がフロア住に響く。
「五月蠅さっ!」
「そんな綺麗ごとはいいから、その受験で訛ったプヨプヨなお腹を何とかしてきたら?」
俺の腹を人差し指でツンツンと突いた。
我が県が産んだおでんツンツン男みたいな真似はやめなさい。
「ひっど! いくらお前でも言っていい事と悪い事があるんだぞ?
俺だって明日からの夏休みで、畑仕事ぐらいは手伝うよ!」
「ホントかなぁ? 私だって少しでも庭を散歩して、スタイル維持に気つかってるのに……」
「無理だけはするなよ?」
「無理しなきゃ動けなくなっちゃうんだから……無理ぐらいはするよ。
ああっ
「ああ」 俺は桃華の手を握り締める。
桃花の言う
一般人が購入可能のラインのそれでも実際『治るらしい』が正解。
それ以上の
以前アメリカのオークションで、約50億円で落札されたと言うニュースを見た事を思い出した。
「絶対に取って来てやんよ」
「何それ、コータローじゃ多分無理だよ……ダンジョン何て危ないし、コータローとろいから大怪我しちゃう。私だけでも大変なのにお兄ちゃんまでどうにかなったら……パパもママも悲しむよ……」
普段は頑なにお兄ちゃんと呼ばないのに、感情が高ぶったのか珍しくお兄ちゃんと呼んだ。
「大丈夫。そのために金貯めてるんだ……近所にダンジョンでもできれば毎日だって通うのに……」
「あはは、怪我しない程度に頑張ってよ……期待しないで待ってるから。
それとゲーム機貸してよ、病院てやる事無くて暇なの!
スマホゲーは、課金したくなっちゃうし……ゲーム機貸してよ。後、前手に入ったって言ってたPZ5貸してよ。
動画見てたらニューヨークの町並みをパルクールとワイヤーによる立体アクションで駆け抜けるアクションゲームがやりたいなって……」
「ワイヤーマンな! 良いぞアレは。
PZ4版よりも反射とか光の表現がPZ5の方が綺麗なんだ。
しかも日本特撮版の衣装とボイスまで収録されている!!」
ヤーマは俺のお気に入りの特撮の一つで、特撮戦隊で人型巨大ロボが登場したのは、ヤーマからだったと記憶している。
「コータローってほんと、特撮とか好きだよね……」
呆れたような声で桃華は答えた。
「特撮には男の夢と、希望が詰まっているんだ」
「はいはい。次来た時でいいから持ってきてね」
桃花は呆れたような表情を浮かべる。
「分かったよ。夏休み中は時間作ってくるから」
「お見舞いならおじいちゃんがお菓子とか一杯持ってきてくれるし、コータローはどうせなら肌の乾燥とかシミをケアしてくれる下級
簡単に言いやがる……
「紹介されても、JCじゃねぇか! 犯罪じゃないけどちょっと……」
桃華の友達を紹介されたところで、胸が育っている
妹がいるせいで妹萌えが理解できない俺にとっては、同年代から年上の方が魅力的に映る。
なぜなら、おっぱいが大きい可能性が高いからだ。
胸の大小に貴賤は無いが、『大は小を兼ねる』と言うだろ?
「でも精神年齢とか考えると、男子の方が年上の方が良いと思うけど、下手に同い年より上手く行くと思うけどなぁ……。
まぁコータローみたいなおっぱい聖人は、年下……貧乳には興味ないだろうけど……」
「べ、別に俺はおっぱいで女を選ぶような事はしないぞ?」
(やっべぇぇ、見透かされてやがる)
「そうだよね。あえて言えば大きいのが好きなだけで、女の子が好きなんだもんね。このスケベは……」
「男がスケベで何が悪い!約束だからな? 下級
「いいよ? 才能のないコータローが文字通り必死になって取って来てくれるんだから、私も一肌脱いで女の子の一人や二人紹介するよ!」
同じ母親の血を引いているだけあって、妹も俺と同じようにキレやすい。だから煽ってやれば乗って来ると言う訳だ。
「じゃぁ今から行ってくるから、紹介する女の子厳選して待っておけ!」
俺は捨て台詞を吐いて病院を後にした。
「ポ〇モンじゃないんだから……」
――――と呆れた妹の声は俺には届かなかった。
思い返せばそれは、漠然とした目標が『妹の見舞い』から『ポーション入手』に変わった瞬間だった。
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