第16話 天神様とお酒の冷え方

 まず、エールをひと口。


 日本で飲んでいたような……ビールと少し似ているが、味わいとかがいくらか違った。発泡と苦味はあれど、若い年頃である今の私にも非常に飲みやすい。


 惜しい箇所と言えばだが。



「……ぬるい」



 せっかくの味わいを台無しにしてしまうほど、エールの温度は冷たくなかった。


 やはり、ビールが冷たいのは……日本や外の国の風習なのだろうか?



『ぬ……る、い?』


「……ミザネ殿の知る、酒とは違うのだろうか?」


「うん! もっともっと……まるで、氷水のような!!」



 あの飼い猫の店でも……瓶ビールだが、かなり冷やしたものを提供してくれらからね!


 店の規模に問題がなければ、ビールサーバーと言うのを取り入れたかったようだが、あれは致し方あるまい。弟子もとったが、ギリギリ三人が限度の小さな厨房だったからな?



『マスター……冷たい、の……好き?』


「こう言う飲み物については……だけど」


『……ま、って……』



 テーブルに乗せていたフータが、私の持っているグラスに……ふーっと息を吹きかけてきた。息が触れたところから……少しずつ、冷たくなっていく!?


 持てないわけではないが、先程よりもはるかに冷たくなったのだ!!



「……フータ、何を?」


『ト……ビト、も』



 と言って、私のと同じことをすれば……トビトのグラスも少しずつくもっていった。息だけで……まさか冷たく出来ると言うのか?



「……冷たく、してくれたの?」


『……うん。ぼ、く……氷、だから』 


「属性が、氷?」


『……あ、と……風』



 二つも属性があるのは……中級だからか、私やトビトにもあるかもしれないが……世界樹が伝えてなかっただけか。


 とりあえず、せっかくの冷えたエールが勿体無いので……またグラスを傾けていく。トビトも同じようにしていくと。



「「うまい!?」」



 同じエールなのに、温度が違うだけで……先程とは随分と違った。


 まるで、キンキンに冷やされた瓶ビールや生ビールのよう。


 これは……料理も合うのではと……日替わりの香草焼きを口にしたが、抜群に合った!


 トビトも自分の鳥の丸焼きを実に美味しそうに食べていたよ。



「……何かしたのかい?」



 女性が気になったのか、おかわりらしいエールのグラスを持ってこちらにやってきたのだ。



「えっと……僕の精霊が、エールを冷やしてくれて」


『う、ん!』


「……それで、食いっぷりが増すのかい?」


「勝手なことして、すみません……」


「いや、それはいいんだけど」



 チラッと、女性はフータを見たので……これは、と私は提案してみることにした。



「お姉さん……試してみます?」


「うーん。本当は仕事中にダメだけど……ま、旦那にも提案してみたいさね? このエール冷やしてくれるかい?」


『う、ん!』



 と言うことで、フータがキンキンに冷やしたエールを持って女性は厨房に戻っていき。


 少ししたら、旦那と呼んでいた厨房の主までやってきて、エールの冷やし方を細かく聞かれたのだった。


 代わりに、三食分の代金は返金してくれることになったからね? お金に困ってはいないが、それくらいの対価なら受けることにしたのだ。

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