最凶悪役貴族に転生したけど、なぜか美人令嬢たちが次々と甘えてくる件について
脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー
プロローグ
エロゲのとあるキャラ『リューライト・シェイド』の人物像を一言で表すなら‘怠慢の嫌われキャラ‘に尽きるだろう。
詳しく話せば長くなるので、簡潔に話そう。
人気エロゲ『花束と魔眼の貴族学園』に出てくる最悪のキャラクター、それがリューライト・シェイドである。
侯爵家のリューライトには想いを寄せる幼馴染がいた。
が、その幼馴染にちょっかいをかけ続けたあげくフラれてしまい、そのストレスから自暴自棄に陥ってしまう。
そして、暴飲暴食を繰り返しぶくぶく太り、不良生徒に成り下がった。
結果として、学園中の生徒から見下され腫物扱いを受ける。
――リューライト・シェイドとはそんなキャラだ。
かつては神童と期待されたほどに将来が期待できる怪物であったのに、一度フラれたくらいで闇落ちするなんて大馬鹿野郎と言わざるを得ないだろう。
(ホント……大馬鹿野郎だ)
失恋の痛みを知っているからこそ。
そしてリューライトと同じく失恋の痛みから暴飲暴食に走ったからこそ。
リューライトなんて舞台から姿を消す悪役貴族であるにも関わらずである。
それはどこかリューライトが悠斗にとってみれば他人事の様に感じられなかったからだろう。
悠斗も恥ずかしい話、リューライトと同じく初恋の人にフラれてしまい、そのストレスから暴飲暴食を繰り返してしまっていたのだ。
そのためだろうか。
一週間前にプレイし終えたエロゲのキャラ『リューライト・シェイド』は強烈に悠斗の頭に焼き付いて離れてくれそうになかった。
自暴自棄、暴飲暴食、怠慢、怠慢怠慢……。
そんな自堕落な生活を送ったリューライトの末路とは。
かつて信頼してくれた従者であるメイドも主人公キャラになびいてしまい、妹も、それこそ幼馴染も心惹かれていく。
リューライトの行きつく先は闇落ちからの主人公の暗殺。
だが、結果として、見限られたキャラ達に阻止されシェイドの出番は幕を閉じる……。
かつて信頼してくれた家族や従者から嫌悪の眼差しを向けられるなんて不遇もいいとこだろう。
そんなリューライトと同じ末路なんて―――
(俺はいやだああああああああああああああああああ……!)
深夜3時。
衝動的に悠斗はリューライトと同じ人生は歩みたくないと思い、自転車を全力で漕いでいた。悠斗にだって見限られたくない人たちが存在しているのだ。
リューライトと同じ末路は辿りたくない。
その想いからの行動―—ダイエットに励んでいた。
だが、人生というのは呆気なく幕を下ろしてしまうものなのだろう。
悠斗は二つの明かりの前に飛び出してしまい――
「……えっ」
時間の全てがゆっくりと感じられ、やがて悠斗の世界を真っ白に染める。
大きな衝撃が身体に走り、気づけば悠斗は地面に倒れていた。
耳にブレーキ音が聞こえたことから、ようやく悠斗は状況を把握する。
(………こ、これが俺の末路か)
意識を完全に悠斗はそこで手放した。
♦♢♦
「……ん……んん……っはっ! はぁ、はぁ。こ、ここは?」
悪夢に苛まれて目を覚ました悠斗だが、見知らぬ天井と室内に呆けた声を漏らしてしまった。
悠斗が目を覚ましたのは天蓋付きの優雅なベッドの上。
あたりは小洒落たアンティークな家具の数々。
床にはいかにも高級そうな絨毯が敷かれていて、貴族を彷彿とさせる広い部屋だった。
「これは……ゆ、夢……なのか?」
視界の先に広がる全てのものに見覚えがない。
間違いなくこの部屋は悠斗自身の部屋ではなかった。
慌ててベッドから飛び起き、悠斗は鏡の前に向かう。
なぜ自分でそんな行動を取ったのかは分からない。
――ただ、何となく予感がしたのだ。
ファンタジー世界に造詣の深い悠斗の頭によぎるのは‘転生‘の二文字。
あり得ないと思いながらも、固唾を飲んで鏡の前に悠斗は立つ。
「……っ!」
悠斗は姿見で自分の容貌を確認すると、思わず目を見開いてその場で固まる。
鏡に映り込んでいたのは悠斗であって悠斗ではない。
精神自体は悠斗のものだが、肉体、つまるところ容姿が悠斗のものではなかったのだ。
自分でも何を言っているのか分からないが事実としてそうなのだから信じて欲しい。
恰幅の良い身体に、寝ぐせからか雑に乱れた青い髪。
言葉を失うほかないだろう。
「……う、嘘だろ」
見間違うはずもない。
悠斗は鏡に映り込んでいる『自分』の顔には見覚えがあった。
この容姿にこの体型。そして、裕福な家柄と一瞬で判別できるほどの豪奢な寝室。
「やばいって……これはやばい」
嫌な汗を額に滲ませ、悠斗はその場で膝をつく。
この醜い容姿と目つきの悪さはどう考えても………
「リューライト・シェイド……だよな」
そう、悠人はエロゲ『花束と魔眼の貴族学園』に出てくるあの嫌われ者——リューライト・シェイドの姿になっていたのだ。
悠斗は唖然としながらも、その場で思いっきり頬をつねった。
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