二話 『入学して分かったこと』

この白鷺学園に入学して数日が経った。数日この学園に通って驚いたことがある。



それは白鷺学園が思った以上に広いということだ。しかも学園とは思えないほどに施設も充実している。例えばゲームセンターにゴルフ場にテニスコートなどと挙げ出したらきりがないぐらいには沢山あるのだ。漫画だと、そういうのはサラッと流されてたからこんなに沢山施設があること知らなかったし……



後驚いたことといえばコンビニがあることだろうか。名門校にコンビニがあるとは思っていなかったからだ。今度行ってみよう、とそう思った矢先……



「きゃあああー!冬馬様ー!」



女子達の声援が聞こえてきた。……相変わらずの人気だ。彼が廊下を通るたびに必ずと言って良いほど黄色い声が上がる。



本人は全く興味なさげだけど。こんなに騒がれてこんなに黄色い声が上がっているのに気にも留めないのもどうかと思うが……そんな彼でも、時折笑顔を見せる相手がいる。その相手は……



「ああ!香織様だわ!この二人が並ぶと他のものが全て霞んで見えてしまうから怖い!」



九条香織。才色兼備で文武両道で尚且つ美人と全てを欠け備えた女神と言われている。いや、本当に。漫画でも思ったけど間近で見るとやっぱり美人だ。こんな人すら作中の透華は嫌いっていたらしい。流石に嫌がらせは出来なかったみたいだが。要するに嫉妬だ。



「香織。今日のお茶一緒に……」



「ええ、いいわよ」



そんな微笑ましい会話だ。王子もわかりやすく笑顔になってるのに対し、女子達はため息を吐く。まぁ、王子がこんな笑顔を見せるのは香織様だけだもんね……そんな彼が王子と呼ばれるようになったのは香織様が原因だ。確か悪ふざけで王子って言ったらそのまま定着しちゃったかとそんな感じだ。



王子も最初は不満そうにしてたけど、香織様が付けたあだ名だから特に文句は言われることもない。流石に王子と面と向かって言う度胸のある生徒は誰一人いないけどね。



「冬馬様の隣は九条様がお似合いすぎて近寄れないわ……透華様もそう思わなくて?」



「え?ええ、私もそう思いますわ」



不意にそう言われ、そんなことしか言えなかったが、王子に夢中な女子達は『ですよねー!』といってまた王子の方に視線を向けていた。



『透華様』呼びは前までは当たり前だったが、今となっては違和感しかない。様なんていらないんだけど、私の家が王子や西園寺には劣るものの、そこそこ財力が良いらしい。正直言ってそこら辺はよく分かっていないが、とりあえず私の家は凄いらしい。



「香織ー!」



「あ、呼ばれてるから行くわね!またね!」



そう言って香織様はその場をさっていく。王子って男どころか女にまで好きな人を取られたくないのか……?だってあの目は絶対に殺意の波動に目覚めてるよ……!恐ろしい子!




…だけど……王子。貴方は振られる未来確定なんだよ……可哀想だけど。そしてその隣に美穂ちゃんが来るし……うーん、これは反感買ってもしょうがないなぁ……美穂ちゃんも魅力的だし香織様に負けず劣らずの美人だけど、やはり庶民という立場が邪魔をしている。

 



「透華さん、大丈夫ですか?体調が悪いのでは?」



「はっ!いや、大丈夫です。心配してくださってありがとうございます。……華鈴様」



白鷺華鈴。白鷺学園の理事長の孫という最大の武器を手に持っている女の子だ。今の華鈴様は愛想がいいが、初登場だとこんなに愛想は良くない。一匹狼で群れを嫌う……そんな女の子と書かれていたから。だから今の華鈴様は私にとって新鮮だ。



だからこそ、残念だ。この華鈴さんが後数日経ったら見れなくなってしまうなんて。……まぁ、美穂ちゃんに出会ってからは普通に笑顔を見せるけどね。美穂ちゃんは心優しいから理事長の孫という立場とかそんなのは関係なく仲良くして欲しいって言った唯一の女の子だし。



「……そうですか。何もないのなら良かったですわ」




そう思っていると、華鈴様はそう言って去っていった。……本当、こんな美しい笑顔が作り物だなんて信じられない。



できることなら華鈴様を一匹狼になんてさせたくない。だけど、それは非常に困ることがある。それは、美穂ちゃんと華鈴さんの『友達』になる場面がなくなってしまうことになるから。私だって事情は知っているし、美穂ちゃんと同じ台詞を言えば華鈴様だってきっと救われるだろう。



だけど、それは美穂ちゃんの役目を取ることになる。それは嫌だ。だって美穂ちゃんは好きだから。もし仮に私が美穂ちゃんのことを嫌いならその役目を取っていたかもしれないが、私もそんなに性格は悪くないし。だから、私は彼女と偽りの付き合いをしなくてはいけない。友達一号は美穂ちゃんだけど、友達二号は私がいいなぁ、とかそんなことを思っていると、お腹が鳴った。



「……お腹すいてきた」



私は小声でそう言ってとある場所へと急ぐのだった。



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お嬢様というのは大変だな、と私はため息を吐きながらもそう思う。だってコンビニ行くのだってコソコソ行かないといけない。お嬢様がコンビニ行くなんて!って周りのみんなはそんな反応だし。以前の私……好き勝手していたあの頃なら私もそう思ってたけど。前世の記憶思い出したの中学生でよかったなーって心の底からそう思う。小学生の頃は本当に好き勝手にやってたし。



でも、いじめたり嫌がらせをしていた訳じゃないから周りから裏で何か言われても憎まれてはないはず……



それに小学生の頃の友達というか取り巻き達は殆ど違う中学校に行ったんだよね。だから、ここにいるのは小学生の私を知らない人ばかりだし!



「はぁ~~、友達欲しいな」



私にだって友達が欲しい。原作には出てこなかった子……つまり!原作に出てこない女の子と交流が持ちたい、と意気込んでみたはいいものの、残念ながら私の周りには友達ではなく、私の媚を売るような人達しか来なかったのである。前の私ならそれで満足していたが今は違う。



「はぁぁ……」



私ーー城ヶ崎透華の友達作りはまだまだ続くことになりそうだ……

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