鬼畜エロゲーのクズ主人公に転生したが、エロスキル「人体支配」を〝良いこと〟に使います。

あおき りゅうま

第一部 スレイブキングダム

第一章 盲目の王女——ルリリ・ナグサラン

第1話 えぇ……エロゲーの世界に転生しちゃったよ

 秦野翔はたのかける・33歳独身。システムエンジニア。

 転職に転職を重ねブラック企業を練り歩き、給料は上がるかわりにどんどん残業時間を増やし続け、ついに過労で死んでしまった男だ……。


 だが、もはやそんなことはどうでもいい。


「うお……ここは……どこだぁ?」


 海風うみかぜの匂いがする小さな部屋で俺は目覚めた。

 湿しめったベッドから体を起こす。

 部屋を見渡す。

 木でできている。

 ボロボロだし狭い。

 窓も小さく日当たりも悪い。

 部屋全体が揺れている。

 ゆらゆら、ぎしぎし———と。

 この感覚経験がある。昔、祖父の家に行くときに乗った小型船の上で味わった感覚だ。波に揺られている感覚。

 もしかしてここは……。


「……帆船はんせんの中か?」


 死んだと思ったらいきなりそんな場所にいる・


 ということは———、


「どうやら俺は転生してしまったらしい」


 理解が速いとツッコミを貰うかもしれないが、こうもお決まりのパターンをかまされるとそうも言いたくなる。

 いや、こういうのを転生というのかわからないが……俺は生まれた時から人生をやり直しているわけではないからだ。

 秦野翔という人格が覚醒した今現時点で既にこの世界の俺の身体は成熟しきっている。

 ザッと見下ろして見ても二十代前半ぐらいには、立派な青年にはなっている……。

 

 だが———、


「それにしても、何だよこの体……」


 だらしがない。脂肪のついた手足にだぷんと垂れた腹。


「重いなぁ……船の上にいるってことは……こいつ船乗りじゃないのか? だろ? それなのに、何だよこのだらしねぇ体……」


 デブだった。


 明らかに俺がいる部屋は帆船の中の個室なのだが、こいつはこの船の船長なのか?

 船で個室を貰えるって言うことは結構高い身分である証拠だ。

 船と言うのは居住スペースが少なく、多くの船員は一つの部屋で何人もすし詰め状態で寝泊まりさせられる。それが普通だと言うのに、俺が転生したこいつは個室を貰えている上にデブ……ということはろくに運動もしていない。ということは船の上での過酷な労働作業も免除されている。

 優遇されているということだ。


 …………だけどなぁ。


「マジかぁ~、せっかくならイケメンに転生したかったのに……デブかぁ……どうせ顔も不細工なんだろ?」


 と、鏡に顔を映す。


 結果は……ブスでした。


 金髪に、丸い鼻。そしてまんまるとした頬。それに一重まぶたのどこにでもいそうな普通のキモオタみたいなデブ。


「せっかく転生したのにこんなの嫌だよ……勘弁してくれよ……この状況を見る限り、どうせ貴族のバカ息子とかそんなんだろ? ……誰なんだこいつそれにこの世界観はどういう世界なんだ? 魔法とかあるのか? それとも中世ヨーロッパ時代に、過去に転生してしまっているのか?」


 何か手がかりを探そうと思い、机の引き出しを探る。


 名前と病気の名前が書かれたリストがあった。ほとんどが男性の名前で症状も「船酔い」や「壊血病かいけつびょう」などが記されている。


「カルテか? こいつ医者なのか?」


 なら———実は頭も良いのか?


 ごめん、デブで貴族ってだけで馬鹿だと思い込んでいた。


「お、日記もあった」


 カルテの下敷きになっていた〝それ〟を拾い上げる。


「書いてある書いてある。えーっと……こいつは……‶俺〟は何て名前なんだ?」


【CLAYC………】


 英語に近い文字と並びで書かれていたが、若干違う文字。

 この世界特有の文字だろう。


 普通は読めないし、理解などできようもないが———何となく自然と意味が頭に浮かんできた。

 若干、この世界で今まで生きてきた記憶があるようだ。

 

 名前はこう書いてある———『クライス・ホーニゴールド』。


「……ん?」


 その名前を見た瞬間、バチッと頭の中で電撃が走った。


 今まで疑問だったすべての点と点が、名前を見た瞬間に線でつながり、


「ああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…………マジかぁぁぁぁぁ……」


 強烈な失意しついに襲われた。


「よりによって……よりによってコイツかぁ……クライス・ホーニゴールド……俺が大学時代にハマってた……ゲームの主人公……」


 それはただのゲームじゃない。


「これ……抜きゲーで凌辱ゲーの超絶ダークな世界観エロゲー『スレイブキングダム』の超絶クズな主人公———‶クライス・ホーニゴールド〟じゃねぇか…………!」


 『スレイブキングダム』———、

 そのゲームと出会ったのは、大学時代の話である。

 俺は一人暮らしを始めた。

 親の目がなくなったことで、こっそりと興味のあったエロゲーに手を出し、はまってしまった。その後、基本的に純愛ゲームばかり買っていたが、ある時刺激を求めてついに買ってしまった凌辱ゲーム。それこそが『スレイブキングダム』である。


 世界観・ストーリーの概要は非常にシンプルで、剣と魔法のよくあるファンタジーが舞台で、主人公クライスがナグサラン王国という王国へ王女の治療という名目で招かれる。そしてその立場を利用し、王女や身分の高い女の子にエロいことをしまくって脅迫きょうはく篭絡ろうらくしていき、最終的には王国を乗っ取る———と、そういう話である。


「『スレイブキングダム』以外のエロゲーも生前してきたのに、よりによって転生したゲーム世界がコレ……!」


 運命のいたずらを呪うばかりだった。


「———それにこいつの固有スキルは人間の体を意のままに操る『人体支配』……!」


 『スレイブキングダム』のアピールポイントとして、主人公クライスのみが使えるスキルで『人体支配』という技がある。

 それを使って抵抗できない女の子を犯すという、鬼畜外道なことをするというのがそのゲームの魅力なのだ。


「こんなん、俺エロいことしかできないじゃねぇか……!」


 やりたくねぇ……。

 ゲームで楽しむのと実際に自分がやるのは全く違う。

 現実でやると楽しくないことだからフィクションで楽しむのだ。


 いや……無理にゲームの設定どおりにやる必要はないんじゃないか……?


「そうだ! なら‶良いこと〟に使おう!」


 物はなんでも使いようだ。


 他人の人体を俺の意志で動かすことができるのなら、転びそうになっているところを操ってバランスを取ってあげたり、事故に会いそうになっていたら、寸前に操って回避させてあげたり……そういう使い道もあるはずだ。


 そうだ善行を重ねていけば、いいんだ!


「そうしたら、この凌辱ゲーの世界でも、普通に幸せを掴んで生きていけるだろ……!」


 決意した。

 剣と魔法と暴力が渦巻く超男尊女卑な世界であっても、

 例え、ぬきげーの世界でも、

 例え、エロにしか使えない能力を持っていたとしても、


 俺は普通の人間としての幸せを築いてこの世界では平穏に暮らしていく———と。


 何でも、普通が一番に違いないのだから。

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