第1話 疑問
かの者は夜の王であった。数多の吸血鬼を従え、人々を恐怖のどん底へ突き落したという。かの者は一切の支配を望まず、不老不死の力を持ち己の望むままに世界を改変したものである 。
「ふーん。それで?」
「それだけだけど?」
「んだよ。つまんねーな。影の王とかおとぎ話じゃねーか。」
「影の帝王な。」
「どっちでも一緒だろ。」
「ったく。相変わらず適当だなお前は。」
「いつも通りだろうが。」
そうこのいつも適当なのが俺『佐影 閻羅』〈サカゲ エンラ〉の日常会話である。そして、一緒に話しているのが『武川 史雅那』〈タケガワ シガナ〉である。
「にしてもよ閻羅、おかしいと思はねーか?」
「何がだよ。」
「このクラスの吸血鬼の数さ。」
「そうか?今どき吸血鬼なんて珍しくもないだろ。」
「確かに珍しくはないが、このクラスだけ吸血鬼が八割なんだぜ?」
「ほかのクラスは違うのか?」
「ほかのクラスどころか、過去のクラスメンバーを見ても異例のことだぜ?」
「まあ、吸血鬼がクラス三割制度が廃止されたんだし、こういう事があっても不思議はないんじゃないか?」
そう、去年国は教育機関でのクラス編成で吸血鬼三割制度を撤廃したのだ。理由としては、これまでは吸血鬼が集団となって暴動を起こすことを未然に防ぐために、鎮圧できる三割程度の人数しかクラスに含めることはできなかった。しかし、種族差別を訴える者が増え、吸血鬼も人々を襲う心配の無くなった今の時代に合わせた政策のようだった。
「でも、ここのクラスだけってのはおかしくないか?」
「まあ、別にそんな不思議がることでもないだろ。」
「考えすぎか?」
「そうだろ。まあ、俺は帰るぜ。じゃあな史雅那。」
「お、おう。じゃあな。」
史雅那と別れた俺は一人帰路についていた。
「まったく、史雅那の奴また変な噂話信じやがって。〈影の帝王〉だっけ?ただのおとぎ話の類だろ。」
そう、この時の俺は思いもしなかったのだ。その〈影の帝王〉がおとぎ話なんかでは無かったのだという事を。
影の帝王 シグマ @SIGUMA777
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