切り取られた時間の肖像

物部がたり

切り取られた時間の肖像

 近所に写真館と呼ばれる家があった。写真館と呼ばれていても、写真屋さんではなく、写真を沢山飾っていた家だからそう呼ばれていた。

 写真館には高齢のおばあさんが一人で暮らしていて、近所に住んでいたれいはおばあさんによく可愛がられていた。家に招かれて、色々なお菓子をもらったりしたものだ。れいは子供心に写真を沢山飾ってある理由が気になって訊いたことがある。

「どうして写真をいっぱい飾ってるの?」

 写真を飾っている家は多いと思うが、おばあさんは壁という壁を覆うようにして、家全体を絵画のように飾っており、知らない人から見るとそれは少々異常に映った。

「何でだろね。アルバムに仕舞っていたら見ないからかね。こうやって飾っておけば、否が応でも目に入るだろ」


 おばあさんが飾っていた写真は、昔飼っていた犬や猫の写真、おばあさんより早くに亡くなった二人の夫の写真と子供たちの写真、両親や祖父母の写真に、友人の写真など様々である。

 おばあさんは写真に切り取られた人々を見つめて、涙ぐむこともあった。

「おばあさん……大丈夫……」

「ああ、この年になると涙もろくなっていけない……」

 おばあさんの時間は写真と共に切り取られているとれいは思った。

 れいはまだ、おばあさんの歳の半分も生きていないが、今なら過去を忘れられないおばあさんの気持ちが少しわかる気がした。遺された者の痛みがわかる気がした――。

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