3-2 『花燈』の攻略対象について

 2杯目を注ぎ、鉄瓶をどかした豆火鉢の上で串団子を温め直し始める。ちょっと網目模様がつくくらいまで待つ。横着して串団子の包み紙をお皿の代わりにしよう。小さな豆火鉢の効果範囲はは指先を暖めるくらいなものの、背中には陽光が当たり、身体は全体的にポカポカ暖かい。

 里見がノートのページをめくり、登場人物の設定が記された部分を開いた。

 第一部には4人の攻略対象が登場する。1人目は各務原藍蘭かがみはらあらんという1つ上の先輩。明るくフレンドリーで正義感が強い性格をしている乙女ゲームにおける王道キャラ。そして、名前で察してもらえると思うが1年い組の各務原蒼羽子かがみはらそうこの兄である。

 2人目は藤崎真佑ふじさきしんすけ、こちらは2つ上の学年だ。不真面目でサボり魔、女遊びの噂も絶えない先輩。でも、悪い男に惹かれる心理なのか、ふと見せる寂しげな姿に母性がくすぐられるのか、アニメ版のヒロインは最後まで藍蘭と真佑の間でグラグラ揺れていた。


「この2人は学校で名前を聞いたことはあっても、直接姿を見てはないね」

「藤崎真佑ならパーティーで会ったことあるぞ。挨拶しただけだけど」

「えっ、そうだったの」

「うん。ところで各務原蒼羽子のところに書いてある『ライバル/悪役令嬢』とは?」

「ああそれね。えーと、恋愛って往々にして障害があった方が盛り上がるじゃない? ヒロインの恋を妨害するための役回り、と言えばいいかな」

「孤立するよう仕向けられたヒロインに恋人役が声をかけたり、虐められているところに颯爽と助けに入るとかかな? 個人的な意見を言わせてもらうと、いじめなんて女同士、若者同士の間にはない方が珍しいんだけど。自分で対処方法を見つけないと」

「… …それは置いといて、次の2人なんだけど、俺たち既に面識があります」


 前置きしてから次の2人について説明する。

 3人目は香港を拠点とする大貿易商の息子にして、日本・朝鮮支部の支店長をしている柳静リュウジン。ヒロインには甘々だが、商売上の邪魔者や裏切り者には冷徹な二面性を持つ男である。過去の出来事が理由で、日本人女性に強い憧れを抱いている。

 そして4人目は、身分的には大正時代の日本で最高位に近い皇族の男子、今上天皇の皇子であらせられる、晶燁しょうよう様。霞桜に例えられる儚い見た目のやんごとなき少年。ヒロインと同い年だが外部受講生であり、また身体が弱いことを理由に一部の授業には出席しない。世間知らずな面があり、浮世離れした雰囲気をまとっている。

 柳静と晶燁、里見の記憶ではこの2人はアニメでは、藍蘭と真佑に比べて出番が少なかった。柳静は外国人居留地以外ではヒロインと接触しないのに、初登場シーンで見たヒロインの行動が余程気に入ったのか、毎回好感度高い対応をみせてくれる。晶燁はアニメが進むにつれヒロインが悩んでいるとき、見抜いて相談役になるシーンが主になっていった。

 ゲームでは流れるような洗練された立ち居振る舞いと桁違の財力・権力でヒロインをお姫様気分にさせてくれるキャラたちだった。

 瑛梨は里見から4人の設定を聞くと難しい顔をしていた。片手には残り一つになった串団子。


「柳静氏は性格は変わってない。けど、。晶燁はヒロインとどうこうなる余地はある。けど、している、という感じだな。はあ、各務原藍蘭先輩と藤崎真佑先輩は、あの2人と1人の少女を巡って争うわけか…」


 瑛梨は腕組みして天井を睨む。


「勝ち目あるの?」

「例えヒロインが自分以外を選んでも、力業と搦手で堕としそうだよね。大哥ダーグァとあき君なら」


 うんうんと、瑛梨の疑問に頷きつつ里見も串団子をパクッと食べる。

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