ゆつまつばき〜大正浪漫風乙女ゲーム転生〜

@pppappp

プロローグ 前世の乙女ゲームの思い出

 ――咲き誇れ、恋乙女――


 これ、前世で流行った乙女ゲーム『花燈はなあかり―大正浪漫恋劇―』のキャッチコピー。

 前世。

 はいそうです、私が転生者です。

 自分は少し年の離れた姉2人と一緒にアニメを追っていただけ…、いや、姉が買った設定資料集も暇を見つけては読んでました。絵がよかったし、ゲーム版にはついてなかったヒロインの声がすごく可愛いと思ってました。動く度になびく髪の毛サラッサラだった。


 当時にわかに注目が集まっていた大正時代をモデルにした舞台設定。世間のレトロブームの波に上手く乗っかったゲームが人気を博し、アニメ化が決定、コミカライズ版・小説版の出版もされた。

 人気イラストレーターがキャラクターデザインを担当したのもヒットの理由の1つだろう。大正時代という世界観を壊さない、だが現代の美的基準を満たすよう各々個性を備えた(当たり前だが)イケメンの登場人物たち。ヒロインは派手すぎない容姿ながらも華奢で乙女心をくすぐる可憐さ。イケメンキャラとの対比が絵になる女の子らしい女の子。

 設定資料集を読んで知ったのだが、背景画や場面選択のアイコン1つ取っても世界観を壊さないよう、下書きを何度も何度も重ねているのだ。そのクリエイターたちの努力が、新しいもの古きもの、和と洋を織り交ぜた魅力的な雰囲気をつくりあげていた。

 ちなみにこの乙女ゲーム、スマホで操作するソシャゲじゃなくて携帯型のゲーム機でプレイするタイプだった。主にプレイしていたのは下の姉で、盛り上がる場面ではわざわざテレビ画面に繋いで大画面高画質で見ていた。それを上の姉と自分が横から見ては、「絵が綺麗」「心がときめく」「尊い」と感想を述べていた。

 肝心のストーリーはというと、ヒロインが通う学校生活を中心にして進んでいく。『帝都』という首都にある素質がある者しか入学できない特別な学校『国家術師養成学校』、ここへヒロイン(=プレイヤー)が入学する時点からストーリーが始まる。

『国家術師養成学校』とはどういうところか、を説明するために『異形』についても一緒に説明しよう。

 このゲーム世界には『異形』という妖怪・怪物・悪魔etc…をひっくるめたモノがいる。人々の悪心や山野の陰気から生まれ人の世に害をなす。強大な異形は世を滅ぼす力を持っていると言い伝えられている。この恐ろしい異形を退治できるのが術師なのだ。国家術師養成学校は国家の平穏と民草の暮らしを守る使命感を持った国家公認の術師を育てる機関である。

 ヒロインは国家術師を目指して勉強する傍ら、学長から頼まれたお使いをこなしたりする過程で攻略対象との仲を深めていくのだ。

 確か上の姉は全体的な大正ロマンの雰囲気に、下の姉は和洋折衷なキャラデザや衣装にハマったんだっけ。アニメ放送当時、小学生だった自分はこれで初めて『大正』という年号があったことを知ったし、上の姉の強い押しに押し切られ着物と編み上げブーツ、ベレー帽で神奈川の馬車道へ観光に行った思い出がある。


 自分が『花燈』の世界に来てしまったのだと気づいたのは学校から送られてきた入学案内を受け取ったとき。箔押しされている校章を見た途端、魂に搭載されている機能『現代の記憶のファイル』(命名自分)の中から、『花燈』のタイトルロゴが引っかかったのだ。タイトルロゴは学校の校章が題字の背後に重ねられるデザインだったから気づいた。

 ややこしい事なのだが時間差のことを言及しておかねば。実は自分、7歳のとき池に落ちて生死の境をさ迷ったことが切っ掛けで、前世の記憶を思い出している。そして、入学案内を受け取ったのが15歳。8気づかなかったのか!? と言われそうだけど言い訳させて欲しい。

 異形やら術師やら名前は聞いていたし、なんなら今世の姉2人(うっすらとしか顔が思い出せないのに、前世の姉たちに似ていると思える)は術師関係の職に就いている。でも、てっきり名前も知らない漫画か小説の世界にモブとして転生したと思い込んでいました。鬼〇の刃みたいな、一部ファンタジー要素のある、現実世界寄りで和風の作品の世界に。アラビア数字が普通に使われてたり、横書きが左から右だったりするのを見てマジな大正時代にきたんじゃないんだ、と判断したのだ。

 それらマンガ・アニメ文化、あとゲームなどの流行り物は下の姉が次々ハマるのを横で眺めながら知った気になる、そういう楽しみ方をしていたんです。つまり浅ーい“にわか”。『花燈』だってガチな嵌り方をしていたわけじゃない。ゲームをきっかけに、この時代に第一次世界大戦があったんだとか、関東大震災があったんだとか、海外ならタイタニック号の沈没事故とか現実の歴史方面に興味が向いていった。

 気づいたときには乾いた笑いが出たよね。

 8年も気づかなかった自分の鈍さと、適当すぎる神様の人選に。


 だってさ、乙女ゲーに転生っていったら、女子の特権じゃないのかなぁ。自分、前世も今世もだよ?

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