121 王への謁見の手続き

 リードリヒさんを逃し、サトゥルヌス家をあとにした私達は、冒険者ギルドへ帰ってすぐに早馬業者を頼んだ。ホウコさんに身の危険を知らせるためだ。


「本当ならば一刻も早く駆けつけたいのですが、そうも行きません……リードリヒさんの次の手が気になります」

「そうですね……議会には顔を出すのでしょうか?」


 私の心配に、リエリーさんがいつものように指回しをしながら聞く。


「さぁ……他の開戦派だけで多数を占められるならば態々リードリヒさんが出ることもないと思いますが……」

「ふむ……カロルさんの動向も気になるな。あれだけの使い手が昼夜問わず襲ってくる可能性があるというのはあまり芳しくない状況だね。どうしたものか……」


 ラフバインさんがそう状況を慮り、私も打つ手なしとばかりに視線を落とした。

 しかし、リエリーさんは諦めない。


「セーヌさん。ニール王に謁見を申請しましょう! 状況は見えてきました。例え議会が開戦派で占められているからといって、ニール王の鶴の一声があれば魔族領への侵攻がそうであったように、開戦派の方たちを抑え込むことができるやもしれません」

「そう上手く行きますでしょうか?」

「やってみる価値はあるかと……!」


 指回しをやめたリエリーさんが強い口調でそう言った。


「それではレイナ姫に取り次ぎを頼みましょう。それまでカロルさんの襲撃に各自警戒を!」


 私の警戒呼びかけにネルさんが「出来る限り頑張ります」と答え、リエリーさんが「はい!」と元気に返事をした。




   ∬




 あれから貴族街門を抜け王城門でレイナ姫へのお手紙を渡すと、私達は宿へと戻ろうかと話をした。まだ部屋を三部屋借りてからフレちゃんさんの山へ向かうまでの一泊しかしていない事実を思い出し、多少勿体なく思う。

 しかし結局、私達は宿に戻ることなく、貴族街にあるラフバインさんの邸宅にお世話になることになった。カロルさんの襲撃が怖かったからだ。


「まぁまぁこんな可愛らしい冒険者仲間を連れてきたのは初めてじゃない。みなさん狭い家だけど歓迎するわ」


 ラフバインさんの奥さんにそう歓迎されつつ、私達は居間にあるソファで休むことになった。


 翌朝。結局カロルさんの襲撃はなく、私は朝起きて鑑定を展開し周囲を索敵する。


「たくさんの貴族たち以外に、特に脅威はなさそうですね……」


 呟くと、リエリーさんを起こしてしまったようだ。


「おはようございますセーヌさん……敵方に動きはありませんか?」

「はい。そのようです。カロルさんも続けて狙ってはこないということでしょうか……?」

「そうかもしれませんが、要警戒ですね!」


 そうして朝ラフバインさんの奥さんの作った手料理を食べると、私達は冒険者ギルドへ向かった。


「レアさん! 変わりありませんか?」


 私は業務を始めていたレアさんを見つけ声をかけた。

 昨晩早馬業者を頼みにギルドへ戻った時には既にお家へ帰ったあとだったのだ。


「はい。トリスタルさん達が泊まり込んで守ってくれているので大丈夫なようです。セーヌさんたちはあれからサトゥルヌス家でなにか?」


 問われ、私はサトゥルヌス家で起きたことを全て説明する。


「ですので、レアさんもカロルさんの襲撃には十分にご注意下さい」

「そうでしたか……分かりました。トリスタルさんにも伝えておきます」


 レアさんはそう言うと、ギルドの端に座っていたトリスタルさん達に声をかけに行った。


「ツバキさんとダンビエールさんはご無事でしょうか?」


 私が心配すると、ネルさんが「あのツバキさんならきっと大丈夫ですよ!」と笑顔で答えてくれた。そうして午前が終わろうかという頃、冒険者ギルドに来客があった。


「レェイオニードさん!」


 私は冒険者ギルドに訪れたレェイオニードさんを見つけて声をかける。


「どうもセーヌさん。本日はレイナ姫を連れてまいりました……」

「やっほーセーヌさん! お手紙ありがとうございました!」


 鎧を着込んだレェイオニードさんの後ろからレイナ姫が顔を出した。

 レェイオニードさんとは対称的にレイナ姫は冒険者の格好をしている。


「お手紙でなんだか物騒な話を読んだから、レェイオニードを連れてきたわ! これなら守りは万全でしょう?」

「そうですね。超級暗殺者と言えどもレェイオニードさんの守りは破れないでしょう」


 私はレイナ姫の問いに納得するように首をゆっくりと縦に振った。


「それで、お父様に会いたいのよねセーヌさん達?」

「はい。私とリエリーさんと、ネルさん、それにラフバインさんとで謁見をお願いできないでしょうか?」

「え! ラフバインってあの剣神ラフバイン!?」


 目を大きく輝かせるレイナ姫。


「はい。その剣神ラフバインさんです」

「レイナ姫様、いつかの折に父王と共に謁見させて頂いた時以来ですな……大きくなられた」


 ラフバインさんがレイナ姫を見てそう笑った。


「その頃はまだ小さくて覚えていないんですが……貴方があの古今東西冒険者図鑑にも載ってる剣神ラフバインさんですか?」

「はい。ラフバインです」

「わ、わたし昔からラフバインさんに憧れてました! 握手して頂いても?」

「そんなことで良ければいくらでも」


 ラフバインさんが右手を差し出す。

 それに豪快に齧りつくように右手を差し出したレイナ姫はラフバインさんの右手を握るとぶんぶんと上下に大きく動かした。


「レイナ姫……それは良いのですが、謁見のお話です」


 私が話を戻すと、「あぁ! ごめんなさい」とレイナ姫が居住まいを正した。


「それでは皆さんをこれから王城へご案内します。午前の議会が終わった後、午後の議会が始まる前にお父様に謁見なさってください」


 レイナ姫がそう私達に言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る