70 空白

 フランシュベルト北東へと向かった冒険者パーティ。

 しかし、作戦決行時刻の16時を30分回っても、未だ動きはなかった。

 謎の空白の時間が私達をやきもきさせている。


「最前衛を任せられた冒険者たちからは、未だ接敵の連絡がありません。

 おかしいですね……」


 エルミナーゼさんがそう言って首をひねる。

 第2陣の指揮を任されたのはエルミナーゼさんなのだ。

 おかしな状況に陥っていそうな戦況を、私達は固唾を飲んで見守っていた。


「まぁそう簡単にあれだけの距離を敗走してくるとも思えません。

 ましてやライン騎士団の本隊が敗れるとも思えません。敵に比較して圧倒的とは言えないまでも順当に勝る戦力だったのですから……。

 もう少し待ってみるのが妥当なところでしょう」


 とリエリーさんが戦況を分析する。


 そんな時だった。

 冒険者が走り込んでくる。


「接敵ー! 接敵ー!」

「来たか……!」


 走り込んできた冒険者を待機していた冒険者たちが囲む。

 冒険者はかなり息を切らしていたので、水が与えられた。


 水を飲み干すと、伝令となった冒険者が報告を始めた。


「ここから3kmほど離れた地点で第一陣がゴブリン軍団と接敵……!

 善戦しているものの押され気味だ。

 敵は本当に敗走して来たのか!? 物凄い数のゴブリンでまるで本隊のそれだったぞ!」

「なんだと……? キングは居たのか?」


 エルミナーゼさんが問うと、


「あぁいた! 遠目だったが王冠を被った個体を確認した!」


 と伝令がキングの存在を伝える。


「どういうことでしょう……まさかライン騎士団の本隊とゴブリン軍団の本隊は衝突していない……? そのまま後退してきていると言うことでしょうか?」


 リエリーさんが推理するようにくるくると指回しを始める。


「リエリーさんの推測が正しいとすると、不味いことになりそうですね……決して冒険者大隊が敗れるとは言いませんが、敵にフランシュベルトまで下がってこられると厄介だ。

 本陣へこのことを伝えてレェイオニードさんの指揮を待ちましょう。それまでは待機です」


 エルミナーゼさんが指示すると、再び別の冒険者が伝令となって本陣へと情報を伝えに行った。


 それが正しい選択だろう。私もそう思っていた。

 上級冒険者や特級冒険者で構成された第一陣の冒険者達が敗れる可能性は低い。

 いまは無闇に前線を広げず、持ち場を守る事が肝要に思えた。


 しかし、暫くして、疲弊して敗走してくる第1陣の冒険者が増え始めた。

 話を聞くと、あまりにも圧倒的数で押してくるゴブリン達相手に、疲れが見え始めたのが後退の理由だと聞く。決して冒険者達が命を落としているわけではない。そう思いたい。


「本陣より伝令! 第2陣はフランシュベルトを守る為、西へと展開しつつ接敵次第徐々に後退せよとのこと! 街ではなく西の森を主戦場となるよう調整せよとのことです!」

「なるほど……我々も出撃します!」


 エルミナーゼさんが宣言し、気合を入れる第2陣の冒険者たち。

 しかし、なにか嫌な予感がした私はエルミナーゼさんに鑑定索敵の是非を問うた。

 たくさんの冒険者達を巻き込んでの索敵になる。

 鑑定を察知できる冒険者には、きっと良い顔はされないだろう。


「いえ、今は大丈夫でしょう。

 接敵次第お願いするかも知れません。その時は頼みます!」


 エルミナーゼさんにそう言われてしまっては仕方がない。

 私はエルミナーゼさんの指揮に従い、共に前線へと突撃していった。

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