6 錬金術と大剣術を教えて下さい

 ミサオさんの工房を訪ねてから3日が経っていた。

 あれから私はリエリーさんと共に、再び草原スライム討伐に行く以外は、日常的ギルド受付業務に従事していた。


「リエリーさん、草原スライムの分泌液が余っていれば買い取らせていただけませんか?」


 ギルドに迷い猫捜索任務の達成を報告に来ていたリエリーさんに声をかける。


「え、構いませんが、何に使うのですか?」


 私はミサオさんのところで錬金術補助の仕事をしていた事を伝えた。


「それで私も錬金術に手を出してみようかと……」

「なるほど、その為に初歩的錬金素材のスライムの分泌液が必要なんですね!」


 リエリーさんはくるくると指を回しながら「分かりました!」と答えると、スライムの分泌液以外にも初級錬金術の助けになるだろうからといくつかの錬金関連物を私に譲ってくれた。


 【草原スライムの分泌液】。

 草原スライムの体を構成していた液体。

 等級値5。


 【火打ち石B】。

 大気中の炎元素を励起して火花を起こすことができる石。

 等級値10。


 【試験管S】。

 様々な液体を保存可能なガラス製の容器。

 等級値100。


「こんなにも沢山の試験管を譲っていただいてよろしいのですか?」

「構いませんよ、どうせスライムの分泌液の保存用に使っていたものですし」


 私はそれとなく、鑑定結果の等級値が高い試験管であることを告げると、


「あぁ、それは私が街の雑貨屋で最も優れたガラス配合であろうものを推測して買ったからですよ。私が出した金額は微々たるものです」


 リエリーさんは名探偵スキルを買い物に活用しているらしい。

 鑑定スキルがないのにここまで高品質の試験管を大量に持っていたのを不思議に思っていたけれど、名探偵スキルの便利さはやはり郡を抜いている。


「なるほど……私も鑑定スキルを保持しているので、よろしければ今度一緒に買物にでも行きませんか?」


 私がそう誘うと、リエリーさんは「喜んで!」と言ってギルドを去っていった。

 いつか買い物に誘ってみよう。




   ∬




「はい、どちらさまで……あらセーヌさん」

「こんにちは、ミサオさん実はご相談がありまして……」


 私はミサオさんの工房を訪ねて、初級錬金術の教えを請うた。


「あらあら……セーヌさんは冒険者以外にもご興味がお有りですか?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」


 私は日々生活する上で、錬金効果が付与されているアイテムが多数存在することに気づいていること、それらを自分の装備にも行えないかと考えている事を説明した。


「なるほどです、それならば、草原スライムの分泌液を集めてきてくださったのはとても良いですね! 防錆薬の作り方をお教えしますよ。

 少し勉強が必要でしょうが、セーヌさんは補助の仕事の際もとても優秀だったので問題ないでしょう」


 そんな事を玄関先で話をしていると、工房の中にはすでに先客がいるらしかった。


「エルミナーゼ。またセーヌさんがいらして、私に錬金術を教えて欲しいんですって」


 ミサオさんが振り返って、工房の中にいるらしきエルミナーゼさんへ声をかける。

 すると、暫くして大剣を背負ったままのエルミナーゼさんがすっとミサオさんの背後に忍び寄るかのように現れた。


「それは……いいのですかミサオ」

「えぇ、別に構わないけれど、どうしてかしら?」


 ミサオさんが心底不思議そうに、長い黒髪を掻き上げながら自らの首筋を撫でた。

 その青色の瞳にも疑念がありありと浮かんでいる。

 少しミサオさんに頼りすぎただろうか? そう考えていると、


「ミサオがいいのならば私は別に構いません……ですが、私もセーヌさんの事を詳しく知りたいですね」


 そうして、以前会った時にいきなり鑑定をしかけられて、鑑定妨害に一部失敗したことにエルミナーゼが気付いていたことを知らされた。


「それは失礼しました……」


 鑑定妨害が発動したときに、相手に鑑定されたことが伝わってしまうということを私は知らなかったのだ。丁寧に頭を下げてエルミナーゼさんに謝罪をした。


「ふむ……まぁいいでしょう。知らなかったのは仕方がありません」


 そう言うエルミナーゼさんだったが、やはりまだ表情は明るくなく私を警戒している様子だ。


「じゃあ、こんなのはどうかしら!」


 唐突にミサオさんが提案してきた。


「セーヌさんがエルミナーゼにも教えを請うの! どうかしら?」

「私がセーヌさんに教えるのですか?」


 エルミナーゼさんの表情には戸惑いの色がありありと浮かんでいる。


「なるほど……そういうことであれば私は何も問題はなく、エルミナーゼさんに師事したいと思うのですが……」


「そうですか……? 私が教えられるものといえば、この大剣術くらいなものです。あとは戦闘補助に特化した風魔法くらいですね……」


そう言って軽く大剣の柄を握るエルミナーゼさんだったが、未だ表情は芳しくない。


「あら、いいじゃない! 故郷ではエルミナーゼの腕は有名なのだから!」

「それはそうですが……。ちなみにセーヌさんは剣は……?」


 エルミナーゼさんが私を見やる。

 しかし今日は錬金術を教えて貰う予定だったので、帯剣してきてはいない。

 私はエルミナーゼさんに初級片手剣術を使う事、基本剣術のみを知っている事を教えた。


「初級片手剣術は問題なさそうならば……では、私が大剣術をお教えするということで……」

「あら、良かった! これでエルミナーゼもセーヌさんの事が知れるわね!」

「はぁ……」


 と、ため息をつくエルミナーゼさん。

 残念なものを見るような目でミサオさんを見るエルミナーゼさんは諦めの表情だ。

 私はミサオさんに錬金術を、エルミナーゼさんに大剣術を教わることになった。

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