第8話
絶望した。思わずマジかよと口に出すほどに。
仮説とはいえ事実と言っても過言では無い現状に呆気に取られていた。
転移魔法はマークをしていない状態だとランダムに転移すると言ったが、時空を超えて転移させるまで至るとは思わなかった。
ランダム転移で生還者が居ないとなればその世界とは別の場所に飛ばされたのではと仮説を立てられるのだが、生憎生存確認はされているので、例外が無い限り見つからない訳が無い。見つからなかった人達は、運が悪く見つかる前に命を落とした可能性があると言われているが、別次元に飛ばされているとなれば発見されないわけだ。
巡り巡って貴重な例外の中に入ってしまった事に、今程不幸だと思ったことはこの先無いだろう。
現実は受け止めきれないが、状況は把握出来た。が、どうにも浮き足立った感じがしてとても違和感がある。本調子に戻りそうなタイミングで横槍を入れられて気分はマイナス。とてもじゃないが自分の身体の回復を喜べなかった。
「………ねぇ、本当に大丈夫?」
大丈夫じゃないです。なんて、口が裂けても言えない。ここまでしてくれたのに、俺には帰る家が無いんですと切り出せるわけが無い。またこの2人の厄介になってしまう。
正直に言う、というのは難しいだろう。恩を仇で返す、という訳では無いが、信憑性のない与太話をいきなりされて、彼女らは困惑するに違いない。
だが後先の事も考えなければならない。言葉は通じるようだが、文字は果たして読めるだろうか。生活基盤を確立しなくては根無し草状態であるし、金銭を稼ぐ為には時間がかかる。
話した方がリスクとしては軽いだろうが、果たして彼女達がどういう反応をしてくるのか。2人を隠れ蓑にして生活するのはかなりいいとは思うが、流石に俺からお願いするのは無理な話。もう暫くと引き止めて来るのなら俺はそれにあやかろうと思う。
かなり博打打ちみたいな運任せだが、それによって今後の俺の生活が左右される。
世の中やっぱり難しいな。
「……あの、そういえば貴方の名前、聞いていなかった、です。よければ教えて、です」
話題を変えてくれたのはルコアの隣に立つ美少女、カンザシ。俺の表情か、雰囲気を感じとってくれたのだろうか。少し強引なやり方だが、今回ばかりは感謝する。
「……あ、ああそうだった。喋れるようになって少し浮かれてたよ。俺はレン。苗字は無いただのレンだ。これでも一応前線攻略━━━っ」
あっ、あっぶない。つい肩書きを語ってしまうところだった。思わず口を抑える。
別次元だから話したところで問題は無いように思えるが、一応俺が率いていた部隊は最重要機密であるため、長である俺がペラペラと喋る訳にはいかない。もし元の世界に戻れたとして、喋りぐせ癖が残っていたら大問題だからだ。
「……あー、と、特技は無いが体力と腕っ節には自信がある。なんか困った事があれば言ってくれ」
言葉を濁し誤魔化す。力があると思わせる為に右腕に力こぶを作る。寝たきり生活の反動で少し筋力が衰えているかもしれないが、そこいらの男達よりかは大きいはずだ。
反応はどうだと2人を見ると、何故が憐れんだような、悲しい表情を俺に向けていた。え、そんなに俺の苦し紛れな行動は恥ずかしかった?
「……もしかして貴方━━━━━」
「━━━━━未登録男児?」
はい?
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
未登録男児。言うなれば、出産した際、男であるという申請をしなかった者のことを指す。
男児というのは貴重な存在であるため、産まれた瞬間から商品として管理される事になる。
『教会』━━━━━裏では性教会と呼ばれている━━━━━が男児を買い取るのだが、その買取から免れ、またはあえて報告しなかった取りこぼしの男児。それが未登録男児という存在である。まああくまでも世間一般的に区別しやすいようそういう名称で呼ばれているが、正式な名称は明言されていない。
未登録男児は言ってしまえば社会から置き去りされた存在だ。
何故そうなるのかと言うと、産まれた瞬間から種付け役としてその人生を費やす為に『教会』が教育後古今東西に売り捌くのは説明したが、売られた男は購入者が出来て初めて身分というものが確立する。男の人権は地域によって様々だが、大抵の場合手厚く飼われる事になる。
では購入される前はどうかと言うと、それまでは『教会』所属の修道士扱いになる。教育内容にも修道士の為のカリキュラムが入れこまれているため、人権は無いが『教会』が自身の存在を守ってくれている。
故に、未登録男児は言ってしまえば、生きていく上で生活の保証がされない野良動物と同じようになってしまうということだ。所有者がいないため、その身欲しさに女性が群がり、凌辱の限りを尽くす。男性にとってはたまったもんじゃない。
襲われない為にも必要な証明、それが正常な男性なら誰もが願うテンプレルート。
誰が悪いかと言われれば間違いなくその男児を産んだ女性が悪い。登録しなかった為に後の人生を棒に振る事になるからだ。
未だ発見されていない未登録男児もいるが、まさか私達の前に現れるとは思わなかった。
所有物である男との見分け方は1つ、身体のどこかに刻まれた印紋があるかどうか。売られた男性は所有者となった女が好きな所に焼印を入れることが出来るため、大抵の場合鼠径部の上辺りか胸元にいれられる。
彼にはそれが何処にも無かった。ルコアが見落としをしているかもしれないが、もし無かったとしたらそれは大問題だ。主に私達の性欲的な意味で。
つまり主がいないペットのようなもの。野良であるなら、拾っても誰も文句は言わないし。言わないというか言わせないのだが。
私が彼の所有者になっても何ら問題ないと言う事である。そう思うだけで股辺りがとんでもない事になってきている。まずい、流石に垂らし過ぎた……。
「………あー、えーと。なんて言ったらいいんだろうか……」
彼は表情を卑屈に歪め、うんうんと唸り声を零しながら何かを考えている。その表情、ヤバい。
「あっ、い、言いずらかったら言わなくてもいいの!!私達は事情を何となく察してるだけだから!!」
ルコアが何かに気付いたのか、慌ててそう返す。
確かに、未登録男児だと聞いた所ではいそうですなんて答える男性はまずいないだろう。誰にも食べられてない新品未使用の肉棒携えた性処理専用道具だと馬鹿正直に公言する人が何処にいるのか。
察してると言っても、それが本当にそうなのかと言われれば、結局は彼の返答次第。人によっては印紋を付けず、アクセサリーや何か形になるものを身に付けさせている所有者もいる。彼にはアクセサリーと言った装飾品は身につけていなかったが、もしかしたら何処かで外れてしまったという可能性もある。
変に手を出すと、後々持ち主が現れてややこしくなってしまうので慎重にいかなければならない。
「……いやまあ、事情、というかなんというか……。俺も説明が困るというか……」
「気にしないでっ。この話はやめましょ!!とりあえず、レンくんの傷が癒えるのが優先よ」
「ああ、そうさせてもらうよ……。何から何まで申し訳ないな」
「気にしないで欲しいな。それに、傷は癒えても体力は低下しているだろうから、日常生活を私達がサポートするからリハビリ頑張りましょっ」
ちゃっかりサポートとか言ってるが、ただ身体をまさぐりたいだけでしょ。
「……外傷的なものは完治してるし、身体の異常はなし。後は少し運動して体を慣らしてからでもいいかな……」
「う、うんうん。それがいい。暫くここに腰を下ろして、回復を待つべきですっ」
「……2人がここに居てもいいと言ってくれるなら、お言葉に甘えよう。その代わり、俺も何もしないというのは気が引けるから。何か手伝える事とかあったら、なんでも言って欲しい」
「っ!?!?!?!?????!!!!なっ、なななななななんでもぉおおっ!?!??!!!!」
未来永劫ここに居てください。私と子作りしてください。私と結婚してください。私と将来円満に暮らしましょう。貴方との子供なら私何人でも孕めます。1回中に出されただけで排卵して受精できる自信しかないです。毎日毎日絡み合うような熱烈な交合いで愛を育んでいっぱい私を孕ませて永遠の愛を誓いましょう。なんせ私は命の恩人で貴方から何でもするって言ったんですから拒否権なんてありません。そのおっきな肉棒で私の中をえぐりまくってドスドス赤ちゃんの部屋押し潰して私を快楽昇天させてください。━━━━━。
なんて、言えるわけが無いのだが、屋根の下で男と二人っきり(ルコアは数えないとする)。何も起きるはずがない。本当にお願いしてしまおうか。
さっきルコアといい感じの雰囲気出していたから私でもワンチャンいけるのでは?
運動、運動と言ったか。一体どんな運動なのだろうか。私としては優しいキスから全身を舐めまわして舐め合いたい。理想としては後ろから必死に腰を振って貰いたい気持ちと、マングリ返しにしておしりの臭いを嗅ぎながら玉や竿を扱き舐め回したい気持ちがある。あの逞しい体で持ち上げられてそこから一気に突く激しいものも捨て難い。
あー、ムラムラする。全部やってもらおう。男は性処理にしか役に立たないから仕方ない。
「……じゃ、じゃあいっぱいお願いしちゃおっかな〜……、なんて……」
おい。どうしてそこで怖気付く。子種くださいとか交合いましょうとか何でも言え。
そのぶっとい指で私のお股まさぐって貰おうとは思わないのかこの行き遅れは。
「なんでもいいぞ。……さっきの続き、とか」
「ぶふぉっ!?」
え?今なんと言ったのだろうか。明らかにルコアにだけ耳打ちをした。私は仲間外れなのか。寂しいな。
一先ず、(ぼちぼち会話する程度には仲良くなった、と思う。あの人、私の事好き過ぎ?押し倒すの時間の問題?)私とレン様、後ついでにルコアの3人で生活する事になった。
まずはちゃくちゃくと好感度を上げて、目指すはお嫁さん。
無価値な私にでも、それぐらい求める権利ぐらいあるよね?
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