第4話



タイトル変更致しました。あんまりいいタイトルが思いつきません。









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喉の渇きにより再び眠りの海から浮かび上がる。水分が少ないせいで目がしょぼしょぼする。

瞼越しに刺激する光が鬱陶しく、目が光に慣れるのに数秒を有した。


そこには、見慣れない天井が広がって……いる訳ではなく、何故か大きな山のような膨らみが2つ、視界を支配していた。



「……おや?起きたのか?」



ぷるんと山が揺れた。再び光が鬱陶しいぐらいに眩しくなり、もう一度顔を顰める。

それと同時に、視界に入ってきたのは何故か仮面をつけた赤い髪の女性。……あれか、病気予防でつけるやつなのだろうか。医療従事者としては徹底しているようだが、如何せん目の前にそんなイカつい仮面をした人物がいるという現状は、なんともスリリングと言うかなんと言うか……。


返事を返そうにも声が出ないため、こくりと頷き相手の様子を伺う。

顔色は分からないが、息を一つ吐く声が聞こえた為、何か考え事をしているようだ。



「……返事をしない辺り、やはり発声する器官が傷付いている可能性がある。少し染みるだろうが‪、水と一緒に回復薬を飲んで貰えると嬉しいんだがね」



回復薬、とは一体なんなのだろうか。彼女はそういうと目の前で透明の容器に入った、恐らく俺が飲む為に用意してもらった水の中に、翡翠色のした光沢のある容器の蓋を開けて数回口を下に向けて水に中身を落としていく。

少し濃度がある翡翠色の液体は、水に着水すると一瞬にして水が翡翠色に変わった。光に照らされ少しキラキラと輝いて見えるが、これを飲めと言われると少し抵抗感が芽生えてくる。


多分今俺は顔を顰めているのだろう。彼女は俺の表情を見てか補足するかのように言葉を続ける。



「回復薬は初めてかい?まぁ、男性じゃああんまりお目にかからないだろうね。大丈夫、薬草を調合した結果こんな色になっているだけだ。毒素も無いし、不味くは無い……とは思うが、飲みやすい様には加工されている品物だ。生憎と風邪薬は君には効かなかったからこの回復薬も効かないかもしれないが、飲まないよりはマシさ。私も、早く君には良くなって欲しいからね」



俺の頭を少し持ち上げ、頭が高くなるように後頭部辺りにタオルを重ねていく。

ゆっくりと、口を開けた俺の口に液体が流し込まれ、俺はそれを躊躇しながらもゆっくりと飲んでいく。

苦い、青臭い、なんだか喉にベッタリと絡んでくる。しかし何処と無く喉がすぅーと涼しく感じるようになってきた。痛みが引いて、体内に久しぶりの水分が入れられて身体中が喜んでいるようだった。



「即効性は無いが、しばらくすれば傷に浸透して多少は回復するだろう。それまではゆっくりとしている事だ。それまでの間、こちらで面倒を見る」



まだ当分喋る事は出来ないのか。まあ当初の目的である水を飲む事が出来たので取り敢えずは心配無い。不安は一個消化された。


だが同時に、再び超えなければならない壁が出来たわけで。正直な話、じっとしていられない性格である俺からすれば、身体を動かせないという事実は何よりも恐ろしい。

何より、今目の前にいる彼女の存在。察するに彼女は俺が動けるようになるまで介護をしてくれるということなのだろうか。

……有難いのだが、シンプルになんかこう、むず痒い。病棟生活は初めてでは無いが、あの時は仲間が手伝ってくれたのでまだよかった。気を許せるという意味でだ。だが、俺は初対面の相手にそこまで気を許せるような感じでは無いのだ。例え相手側が善意だろうが仕事だろうが、俺の世話をしてくれるという点において、俺は少しばかり嫌悪感を抱いてしまう。……俺の感性はよくあほらしいと一蹴りされるが、これが俺だ。故に彼女には申し訳ないが、声を出せないので表情で察してもらおう。



「………いや、いい。そんな顔をしなくとも、私はすぐに君の前から居なくなるよ。この仮面をしてる時点で、君も勘づいているようだからね」



もう少し粘ると思ったが、彼女は意外とあっさり引いた。……仮面?何の話をしているのだろうか。それは治療時に使うものでは無いのか?



「……君が許してくれるのならば、この仮面を外そうと思うのだけど。まぁ、そう簡単には許してくれないだろうさ」



意味深な言葉だ。俺の許可がいるのか。一体どういうことなのだろうか。

俺の意識が彼女の仮面に集中する。その無機質な仮面、なんだか気になってきた。だがどうしても身体が動かない。少し力を練るとしよう。……な、中々練りにくい……、た、溜まる時間も遅い……。



「……ん?力が集まって……っ。まっ、待ってくれっ。だ、男性にがあるなんて話聞いた事がないぞっ。お、落ち着いてくれっ。わ、私は君に危害を与えたいわけじゃないんだっ。それに今の君には身体に響くっ!その魔力を込めた右手を止めなさいっ!!」



魔力?別に貯めてはいないのだが。しかし取り乱しが凄い。もうちょっとで動くからそのままその位置でいて欲しい。


と、彼女は俺の右腕を抑えてきた。その間、ぷにゅんと俺の胸板に胸が押し当てたれて柔らかく形を変える。

何が何だかよく分からないが、彼女は何やら必死な様子。表情が分からないが、声のトーンや今の行動からして何焦っているような。

いや俺が力貯めてるってこと分かってるようだけど、そこまで警戒される程なのか?男がどうたら言っていたが、何か関係があるのか。

男が魔力を使えないなんて話聞いた事がないぞ。生憎と俺の魔力の量は弱いが、それでも使えないわけじゃない。何やら俺と彼女の間にはがあるようだ。



「お願いだ……っ、君の体はまだ不完全だから、力を使えば体がボロボロになってしまう……っ。私が気に入らないというのなら極力君の前に出ないようにするっ。だから……どうか……力を弛めてくれ……っ」



啜り泣く声が聞こえる。一体どこに泣く要素があったのか分からないが、そこは人の感受性の違い。俺が理解するには少し時間がかかるだろう。

右手を抑える力は以前緩まない。動かせる程には力を練れた。少々強引だがやるしかない。


言っただろう。俺はじっとしていられないって。更に言うと、俺は気になった事には首を突っ込むタイプでな。よくトラブルを持ってきては臀を蹴られていたよ。

だが、この好奇心は止められない。故に許せ、女性。その仮面の下、見せてもらおうっ。


俺は右手の力を左手に回し、そのことに驚いた彼女の空いた一瞬の隙に仮面を外した。



「……あっ」



呆気に出た声と、力無くカランカランと音を立てて床に落ちる仮面。

俺の視線は仮面の下にあった彼女の目と視線を交差させる。


飛び込んできたのはそのエメラルドグリーンの瞳。宝石のように輝き━━━啜り泣く声がした故に涙目だったのは分かっていたが━━━を放ち、シュッとした小顔とその中で黄金比についている目や口、鼻。タッパがあるが胸の大きさと顔の大きさ相まって、歳不相応な印象を見せる。10代後半。成人まじかである事は間違いない。


はっきり言おう、美しい。

寝る前に見たあの少女も美しかったが、彼女もまた美しい。

深紅にたなびく長い髪が彼女の可憐さを醸し出し、まるで有名画家が描いたモデルのような美しさと見たものを虜にする美貌が俺の視線を離してくれない。


目元にある涙ボクロがより彼女の美貌を底上げする。何故天は彼女にこれ程までの才を与えたのか。与え過ぎにも程がある。彼女は前世でどれ程までに善行を繰り返していたのだろうか。

女神でも嫉妬してしまうような美の化身が、俺の目の前にいた。



「……あっ、………あっ」



感動で俺の心が打ちひしがれている中、彼女は壊れたブリキのように固まっている。時折漏らす彼女の声が何やら悲痛が込めているような。



「……ごめ、な……さい」





「……こんな、こんな身体に………産まれてきてっ、ごめんなさい………っ」




え?な、何が?身体?一体何を言っている?


俺の心配を他所に、彼女は何度も謝りながら涙を流し始めた。



俺はその時後悔した。彼女の素顔には、きっと決して触れてはならないタブーがあったのだと。




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